「私、魔法使いになるわ!」
また友人の厄介な発作が始まったか。私はため息を吐いた。彼女はいい子なのだが、この悪癖はどうにかならないものだろうか。
彼女はまごうことなき変人である。二人で話している途中に、突然脈絡もなしに魔法使いになると言うくらいには変人である。
「……理由を聞こうか」
黒いローブを着て、とんがり帽子を被って、杖を振って、呪文を唱えて、箒に乗って、眼鏡をかけてて、額に傷がある、あの魔法使いだよね。
今のところ、彼女が達成している条件は二つしかない。つい先日、電柱にしたたかに頭をぶつけて眼鏡を割ってしまったらしく、新調したそうである。
「いや、ほら、魔法が使えたら便利じゃん」
「そうだね」
「だからなろうと思ったの」
驚くなかれ、彼女はこういう人間である。彼女の言動にちゃんとした理由があることの方が珍しい。
「魔法使いってどうやってなるの?」
「ええと、魔法使いのおじいちゃんがいない間に帽子と杖で箒に魔法をかけて水汲みさせるんじゃないかな」
「どこにいるんだ、魔法使いのおじいちゃん」
映画の見すぎか本の読みすぎだ。そもそも、魔法使いのおじいちゃんがいないから困っているのである。
「うぅ、なりたいよぅ、魔法使い」
私は首を傾げた。どこかひっかかる。昔、そんな話を聞いたことがあったような気がするのだ。
私は愛用のメモ帳を取り出してぺらぺらめくった。使い過ぎて端の方はもうぼろぼろになってしまっている。
「あ、あった」
「なにが?」
「魔女になる方法。メモしてたわ」
ほら、と私は彼女にメモ帳のそのページを見せた。そこには「ヤギやハイタカを呼び寄せるまじないを覚える」と書かれてあった。
ふと、友人が私を呆れたような視線で見ていることに気づいた。心外である。なぜこいつにそんな目で見られなければならぬのか。
「……あなた、変人だよね」
「お前にだけは言われたくないんだけど」
私はもう魔法使いである。呪文も何も知ってはいないが、魔法を使うことはできるのだ。
私の杖はこのメモ帳である。私が胸を張って堂々とそう言うと、友人はまた始まったかという表情をしていた。
現代の魔法の杖
私は昔からどんなことでもメモとして残す癖があった。メモ帳とペンがバッグに入っていないときはない。
それは明日の予定みたいな大事なことだけでなく、売られている野菜の値段やゲームの攻略法、はては近所のおばちゃんから聞いた噂話まで。
ジャンルも何も問わず、一日の内に何度も、とにかくメモをしようと思い至った瞬間に気がつけばメモ帳とペンを取り出しているのである。
話している途中に突然メモ帳をめくって書き始めるものだから、友人から奇異の目で見られたことは少なくない。
私自身も多感な時期にはこの悪癖には悩み、どうにか矯正しようと試みたこともあった。
その結果は、まあ、見ればわかるとおりである。今も私のメモ帳は増え続けている。
しかし、今の私は自分のこの癖に自信を持っている。今ではこそこそと隠すこともなくメモをしている。
それもこれも前田裕二先生の『メモの魔力』を読んだからだ。そこにはメモを取ることの数多くのメリットが記されていた。
社会人になってから痛感したのはメモの必要性の高さだ。私は新人の頃から先輩からの支持を細かくメモしてきた。
だからこそ、今の私があるのだろう。
しかし、メモをただの社会的ツールとして使うのはもったいない。メモにはもっと大きな可能性があるのだ。
夢を現実にする魔法の杖、というのはまさに至言であろう。
夢はそれだけだと曖昧なぼやけた輪郭しか持たない存在である。我々が夢を持てないのはすぐに忘れてしまうからだ。
夢がぼやけているのは、それらがこの世界に定着していないからだ。あくまでも我々の妄想でしかなく、地に足がついていない。
その存在を明確にし、夢を現実のものとして形にするのがメモである。文字として記すことで頭の中の妄想は現実として地に足をつけるのだ。
夢は秘めるものではない。人に語り、自分に誓い、叶えることこそが夢なのだ。
そういう意味では、友人もまた尊敬に値する人物である。彼女は思ったことをすぐに口にする。
それはやりたいことを形にしているということだ。いずれ彼女は夢を叶えることができるだろう。
「ほんと? じゃあ、私も魔法使いになれるんだね。楽しみだな」
「なれるとも、いつかね」
箒にまたがらずとも我々は空が飛べるのである。魔法とは、夢である。そして、それを実現することは誰にでも可能だ。
我々は誰しも魔法使いの弟子である。メモという杖を持ち、笑われることを臆せず夢の呪文を唱えれば、魔法は必ず形となろう。
魔法は願うものではない。魔法は使うものなのだ。我々はいつもそのことを忘れている。
夢を現実にするメモの魔力
この魔法の杖なんてないと言われる世知辛い社会において、メモこそが自分の人生を大きく変革した魔法の杖であると直感しています。
メモをとると、あらゆる日常の出来事を片っ端からアイデアに転換できます。一見価値のない小さな事象でさえ、メモすることでアイデアになります。
また、メモの対象を自分自身に向けることで自己分析を深めることができます。
今の時代は自分をよく知って何かに熱中している人こそ、多くの共感を集める人になります。
自分のことがわかっていると、人生のコンパスに沿って、正しい方向に向かうことができます。人生のコンパスとは、すなわち人生の軸です。
メモは自分を知り、人生のコンパスを手に入れるためのツールとして強い力を発揮します。
メモの魔力は夢を現実にしてくれます。
多くの願望は心の中で思っているだけでは、すぐに薄れて消えてしまいます。
しかし、メモに書くことでその想いは強くなり、薄れることなく待ち続けることができるのです。
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