知財が勝敗を分ける『インビジブル・エッジ』マーク・ブラキシル ラルフ・エッカート


諸君、刮目するがよい! 吾輩は、これまでの歴史の中で、誰も考え付いたことがないであろう、とある素晴らしいアイデアを思い付いた。誰にとっても扱いやすく、スマホ一つあればつながることができる画期的なメッセージツールである。

 

これまでのメールなんぞもう古い。メールでは、相手に読まれたかどうかなんてわからないではないか。そこで、もしも相手がメッセージを読んだら「既読」という表示が出てくるようにするのだ。どうだ、慧眼であろう。

 

それだけではない。絵文字もまた、さらに楽しく、また簡略化できるはずだ。そこで「スタンプ」という機能を用意した。ポチっと指で押しただけで送れる簡単操作で、さらにそれだけで会話すらも可能となるだろう。

 

さて、大事なのは名前だ。キャッチーでシンプルなものがいい。つながる……つながる……つながる……そうだ! 人と人とをつなぐ線、すなわち、この名を「LINE」と名付けよう!

 

いいぞ、完成だ、さっそく流通を……これで吾輩の天下は間違いなし……いや、待て。おい、なんということだ。「LINE」はすでに存在しているではないか!

 

くっ……! 馬鹿な、間違いなく吾輩の方が早く思いついていたというのに! まさか貴様ら、私の頭の中にあるアイディアを盗んだな。返せ! 返すんだ!

 

……なんて、ただのくだらない嘘でしかないわけですけれども。そりゃあ先を越されたのはショックだったが、「LINE」は、なんでも、東日本大震災の時に連絡が取れなかった人たちのために開発されたらしいのだ。

 

そんなに以前からとなれば、なるほど、私はただ自分の巣の上で踊り狂っていただけであろう。実に滑稽である。これ以上の恥の上塗りは必要あるまいとも。大人しく敗北を認めるのが潔い。彼らは「LINE」に対しての知的財産を持っているのだから。

 

マーク・ブラキシル氏とラルフ・エッカート氏の『インビジブル・エッジ』を読んで、私の中ではそれまで軽視していた知的財産の重要性は一気に跳ね上がった。

 

知的財産は、目に見えない資産である。しかし、たしかにそこにある。それは、目に見えないからこそわかる権利なのだ。

 

特許周りの話は、正直、私は日頃から避けていた。よくわからなかったからだ。興味もなかった。しかし、調べておいても損はなかろうと、今では確信している。

 

自分の発明、アイディア、発見。しかし、成功者の真似をしたい人は多く、そうした人たちは、人がこなした成果を平気な表情をして真似するのだ。

 

そこで特許である。特許は、そうした模倣から、自分のアイディアを守ることができる。一見すれば大したことがないように思えるが、決して軽く見ることはできない。

 

グラハム・ベルは電話を発明したことで有名である。しかし、同じ時期、もうひとりの発明家が時計を完成させている。

 

しかし、ベルが特許を取るのが早かったがために、もう一方の発明家は電話の開発者として名乗りを上げることもできず、歴史の奥へと沈んでいった。

 

二人の差はほんの数分とのことである。だが、特許をとるのが早いかどうかで、これほどまでに差が出てくる。つまり、特許をしていないと、自分の発明に対する名誉や富を、すべて失うことにもなりかねないのだ。

 

「LINE」はとうとう失敗に終わった。だが、吾輩にはまだ奥の手がある。もうひとつ、画期的なアイディアが、私の頭の中には眠っている。

 

今度はメッセージツールではない。むしろ、「ひとりごと」だというべきだろう。多くの人のほんの些細な呟きを、味方に広めてもらうのだ。

 

アイコンのデザインは決まっている。幸せを運ぶ青い鳥。さて、ではこの画期的なシステムを、吾輩は「ツイッター」と名付けよう。……え、もうある?

 

 

知的財産の重要性

 

これまでずっと私たちは、ビジネスをうまくやるコツならたくさん知っていると考えてきた。だがだんだんに満足できなくなってきた。現在よく知られている競争理論では、目に見える世界を説明しきれないと気付いたからである。

 

振り返ってみれば、何か貴重な手掛かりがおぼろげに見えた瞬間はあったように思う。私たちはこの違和感の原因を本格的に探ることを決めた。

 

そして、これまで見えていなかったまったく新しい世界を発見したのである。それだけではない。これまで知っていると思い込んできた古い世界を別の視点から見ることもできるようになった。

 

これまで見えていなかったイノベーションの世界への旅にお連れしたい。このツアーに必要なのは、知的財産を見抜く特別なレンズだけ。そして少しの間でいいから、これまで教わってきたことを忘れ、私たちが示すものを見る努力をしてほしい。

 

まじめに賢く働いても、従来の経営理論を熱心に実践しても、必ずしも競争優位にはつながらない。私たちはこれまで見たこともなかった競争環境を調査することに決めた。そして、これらの競争環境から浮かび上がってきた共通点が、知的財産だった。

 

そこで私たちは知財そのものに集中的に取り組み、知財が企業の戦略や経営にどのような影響を持つのかを考えることにした。

 

知財は現代の企業経営の鍵を握る存在であり、市場や経済を理解する重要な手がかりである。私たちはこう確信するようになった。知財は企業や市場を支える基盤となりつつある。知財は世界でもっとも貴重なリソースであり、新たに形成される富の源泉である、と。

 

 

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