就活は一日200ページの読書から!『就職力』齋藤孝


すでに見慣れた不採用通知を、ごみ箱に放り込む。これで何社目だろうか。俺はため息を吐いて、もう書き慣れてしまった履歴書を書き始めた。

 

内定を取れないまま大学を卒業して、俺は何にも所属していない、ただの「俺」になった。親の仕送りでどうにか食べている浪人である。

 

親からは「早く就職しろ」という催促と、「地元ならこんな仕事を紹介できるが、どうだ?」という打診が届いている。見てみぬふりをした。地元になど、帰るつもりはない。

 

だが、このままではやがて仕送りも止まり、強制的に帰らされることになるだろう。すでに猶予はないのだ。とにかくどこでもいいから早く就職先を見つけないといけない。

 

だが、俺の想いに反して、いくら面接を受けようとも、俺のもとに届くのは企業からのラブレターではなく、不採用通知のそっけない文章ばかりだった。

 

恨むのは時代である。今の感染症の騒ぎが白熱し始めたのは、俺の卒業を狙いすましたようなタイミングだった。

 

当時はまだ景気が良く、企業が人を求めていた時期だ。内定を取るのも簡単だった。感染症なんてものが広まって、内定が企業側から取り消されるまでは。

 

状況が変わったのだ。今や、企業はどこも新入社員を取る余裕がない。俺は途方に暮れた。だが、とにかくのべつまくなしに面接をし続けるしか、俺には道がなかったのだ。

 

就職しなければ。だが、就職できない。必死に足掻く俺に、手を差し伸べてくれたのは、かつての大学の同窓生であり、今は大企業の社員である友人だった。

 

「そんなお前におすすめの本があるぞ」

 

彼がそう言って貸してくれたのは、齋藤孝という人の『就職力』という本だった。だが、俺は見た瞬間顔をしかめる。

 

本は昔から嫌いだった。字が並んでいるのを見ると眩暈がする。ましてや、ビジネス書となれば、好むはずがなかった。

 

だが、結局、友人に押し切れられ、「まあ、試しに読んでみなよ」とその本を押し付けられることになった。渋々、俺は家でひとり、ページをめくる。

 

『就職力』にはサブタイトルがある。「就活は一日200ページの読書から始めなさい!」というものである。俺はまず、そこに反感を持った。

 

要するに、この本は「いい企業に入りたいなら本を読んで勉強しろ!」と言っているのだろう。教師と同じだ。芸がない。俺はそう思い込んでいた。

 

だが、ページを読んでいくにしたがって、俺はだんだんと引きこまれていく。その内容は俺が想像したものとはまったく違っていた。不思議なことに、眩暈もしない。

 

就活に必要なのは、知識でも大学での経歴でもないのだという。仕事に対する意欲。それこそが、必要とされるものだというのだ。

 

昨今の新入社員には、仕事に対する意欲が低い人が多い。それは、俺自身もそうであるし、周りもそうであるから身を以て知っている。

 

仕事なんて何でもいいと思っている。安定さえしていれば。そして、仕事をしながら自分の時間を楽しむ生活がしたい、と。誰もがそう考えているのだ。

 

だからこそ、「この仕事でなければならない!」という意欲がない。むしろ、そんな意欲を出している奴を、俺はどこかバカにしたような目で見ていた。だが、企業が求めているのは、まさにそんな人間なのだ。

 

この本に例として出されているのは2011年。その時期はまだ就職率が低かった頃だろう。だが、その数年後、景気は回復し、就職氷河期は氷解する。

 

だが、今は感染症の猛威によって企業そのものが傾いている。就職する状況は、この本が出された当時よりもはるかにひどくなっているのだろう。

 

そんな中で、意欲のない奴らの中に、ひとりだけ意欲に溢れた人がいればどうなるか。間違いなく目につく。しかも、いい形で。

 

そうだ、どうして俺は意欲を出すことを冷笑していたというのだろう。俺が気にするべきは企業から見られる視線であって、同期の視線ではなかったのに。

 

就職力。今からでも、間に合うだろうか。読み始める前と後で、俺の心境は大きく変わっていた。その本を憎らしく思っていたことなど忘れている。

 

まずは、この本の言う通り、一日200ページを読むところから始めてみよう。遠くない未来、俺が無事に就職を果たすのは、まだ誰も知らない未来の話である。

 

 

就職するためのバイブル

 

2011年の5月、文部科学省が今春卒業の大学生の就職率は、91.1%だったと発表した。これは大変な事態だ。

 

大学に四年間きちんと通って学問を修めた学生が、数万人単位で、どこにも働く場を得られない。この国の教育システムの根幹を揺るがす大問題だろう。

 

けれど、一度逆に考えてみよう。数字に振り回されすぎてもいけない。明確な意志を持ち、四年間しっかり大学生活を送れば、九割の学生は就職できるのだ。

 

ただし、そうは言っても、もちろん人気企業に就職することは、「人並み」の実力では難しいだろう。少しの幸運や妥協で、「それなり」の会社に入れる時代は、完全に終焉した。

 

周りを見渡せば不安な情報だらけだが、ある意味で学生にはさらなるチャンスの時代がやって来たと、強く思ってほしい。

 

いま企業は、本気の学生を求めている。苦しい状況にある企業に、今の社会に、どう自分の力で貢献していこうと思っているのかが問われているのだ。

 

入れたらどこでもいいとか、あやふやな意識の学生はあっさり振り落とされる。学生の本気のボルテージを、企業がさらにきちんと見抜いてくれる時代になったのだ。

 

自分の努力と意志で、優良企業との出会いを引き寄せるのが、真の「就職力」を持つ学生だ。本書は、就職力とは何か。就職力を身につける方法とは。さまざまな実践法をまじえて、説いている。

 

今日から使える有用性の高い本だが、実際に効果が出るのは、早くて何か月か先だ。しかし読み終えた後は、きっと就職への不安は劇的に減っているに違いない。

 

希望する企業へ入るために、何が必要なのか。何から手を付ければよいのかが、以前よりはっきりするだろう。社会人を目指す大学生の、新たな自分づくりの指標になると信じている。

 

 

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