大勢の客よりもひとりの客に愛される店を『「1回きりのお客様」を「100回客」に育てなさい!』高田靖久


 たったひとつ。たったひとつ、変えただけで、こんなにも大きく変わるとは、思ってもみなかったのです。

 

 

 父が亡くなって、ひとりっ子だった私が後を引き継いでこの店の店長になったのは二十代の頃のことです。

 

 

 ええ、いえ、私は継ぐつもりはなかったんですけどね。小さい頃から漫画家になるのが夢でしたから。

 

 

 でも、断れないじゃないですか。最期の際になって涙ながらに「店を頼んだ」なんて言われちゃったら、ねえ。

 

 

 でも、継いだばかりの頃はひどかったですよ。渋々継いであげたっていう感覚が私の中にあったんでしょうね、ちっとも真面目に向き合っていませんでした。

 

 

 それでもなんとかやってこれたのは、お店のみんなのおかげです。ええ、もちろん感謝しています。彼らがいてこそ、このお店は今もあるのですから。

 

 

 父が亡くなったとはいえ、実はお店の実情は何も変わらなかったんですよ。父はすでに隠居していたから店の運営には触れず、社員のひとりが取り仕切ってくれていました。

 

 

 だから、実は父のいた頃から、味も、雰囲気も、何も変わっていないんですよ。

 

 

 でも、ある時、取り仕切ってくれていた社員が突然、私のもとに駆け込んできたんですよ。

 

 

 何事かと思ったら、売り上げの推移表でした。私、その頃はそれすらも知らなかったんですよ。社長なのに。驚きでしょう。

 

 

 まあ、ともかく、それを見て驚きました。父が生きていた頃と何も変わっていないはずなのに、どんどん売り上げが下がっているんです。

 

 

 味も人数も雰囲気も何も変わっていません。父の客というのもいませんでした。だから、本当に何で下がったのかわからなかったんです。

 

 

 このままでは、店が倒産してしまいます。父の最期の望みが。私はそこでようやく目が覚めました。

 

 

 それで、私が店を復活させる? いいえ、店を復活させたのは私ではなくお客様ですよ。私はアイデアマンでも優れた経営者でもないんです。謙遜ではないですよ。

 

 

 奇跡? 奇跡だなんて起きていません。倒産しかけたうちの店が持ち直して大幅に売り上げを上げたのは、そんな大げさなものではないんです。

 

 

 たったひとつだけ。ほんの少しのコストと手間をかければいいんです。大切なのは価格を下げるでもセールをするでもなく、お客様への感謝を忘れないようにすること。

 

 

 商品を良くするのは大切なことです。日本の技術は素晴らしいものですよね。商品を良くするという熱意が生み出したのだと思っています。

 

 

 でも、売るには、商品を良くするだけでは駄目なんですよね。だって、まず体験しないと良し悪しなんてわかるはずないんですから。

 

 

 マンガだってそうでしょう。絵もストーリーもおもしろい漫画家さんだっているのに売れていない。それは、商品だけに目を向けているからです。

 

 

 ひとつだけ。私がしたのはそれだけしかありません。私のお店を変えてくれたのは、誰もが忘れがちなほど、ほんの小さな、けれど、とても大切な、そのひとつだけなんです。

 

 

大勢のお客様を呼び込むよりも、ひとりひとりに愛されるように

 

 とある飲食店で、双子の兄弟が働いていた。二人とも同じキャリアで、どちらも腕が良かった。

 

 

 しかし、ある日、店のオーナーである父が倒れた。店の運営は、双木の兄に任された。

 

 

 しかし、父は隠居していたため、店の料理、雰囲気、接客、どれをとっても何ひとつ変わりはなかった。美味しい料理さえ出していれば店は大丈夫。関係者の多くがそう思っていた。

 

 

 ところが、店の売り上げが、少しずつ下がり始めた。その後、どんなに料理に力を入れても、売り上げは一向に回復しなかった。

 

 

「何か手を打たなければ」

 

 

 そう考えた兄は、値下げに踏み切ろうとする。そこに弟が待ったをかけた。弟の提案で、店は半年間だけ弟の指揮で運営されることになった。

 

 

 弟に運営が蒔かされてからも、店の料理、雰囲気、接客など、それまでと何ひとつ変わりはなかった。

 

 

 しかし、ここから不思議なことが起こり出す。店の売り上げが、回復し始めたのだ。

 

 

 この兄弟の違いは何だったのか。同じ年で、同じキャリアを持つ二人。その二人が、同じ店で、同じ商品を、同じ価格で、同じ接客で提供した。

 

 

 しかし、業績には明らかな違いが生まれた。理由はひとつ。それは「売り方の違い」である。

 

 

 今までと同じ商品を、同じ価格で売るのならば、「売り方」さえ変えていけば、商売は劇的に変化する。そしてこれは、すべての商売に共通して言える。

 

 

 だからといって、「商品をおろそかにしてよい」といっているわけではない。商品は重要だ。しかし、どこの企業でも商品には自信を持っている。

 

 

 私が提唱する「売れる仕組み構築プログラム」には4つのステップがある。

 

 

 1.新規客を【集める】手法

 

  2.客を【固定客にする】手法

 

  3.客を【成長させる】手法

 

  4.客を【維持する】手法

 

 

 本書では、「新規客を集める手法」と「客を固定客にする手法」に焦点を当てた。

 

 

 多くの店が、割引だけを使って新規客を集めている。しかし、割引で集客したお客様は、そのとき一回きりで終わりやすい。このお客様を固定客にする必要がある。

 

 

 ところが、新規客を集めている時点で、店と「価値観」が違うお客様を集めてしまったのでは意味がない。

 

 

 固定化の最大の近道は、そもそもが「固定客になりやすいお客様」を集めることなのだ。

 

 

 売り方さえ変えれば、あなたの会社は儲かり始める。正しい売り方をすれば、あなたの店には行列ができる。

 

 

 本書は、「素晴らしい商品さえ提供していればお客様はついてくる」「割引を使わないとお客様は集まらない」と考えていた経営者にとって、まさに目からウロコの内容となるだろう。

 

 

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