プーさんから学ぶ人生哲学『クマのプーさんの哲学』ジョン・T・ウィリアムズ


「プーのおばかさん」はちみつを守る蜂を騙すために、泥まみれで黒い雲になりすまそうとしたプーに、クリストファー・ロビンはそう言った。

 

幼い頃、私は『クマのプーさん』が大好きで、何度も繰り返し見ていたのを、今でも覚えている。どこかとぼけたような、頭の悪い黄色いクマを、愛おしく思っていた。

 

けれど、ジョン・T・ウィリアムズ先生の『クマのプーさんの哲学』を読んで以来、私は今まで見てきた『クマのプーさん』をほんの少し、違う目で見るようになった。

 

なぜって、原作では「頭の悪いクマ」だったクマのプーさんを、その本の中では西洋哲学を体現する偉大な哲学者として扱っているからだ。

 

途端、かわいらしい「クマのプーさん」の一見おかしな行動にも、隠された深い意味があるのではないかとすら、感じるようになった。

 

頭のいいように思っていたクリストファー・ロビンや、ラビットや、オウルに対しても、まったく別の見方ができるようになってきた。

 

たとえば、プーは「頭の悪いクマ」であることを自分で言っている。クリストファー・ロビンもプーを「おばかさん」と言っているし、理論的に考えるラビットもプーを見下しているようなことを言っていたはず。

 

でも、自分のことを「頭が悪い」と自覚できることは、実はとても難しいことなのだということは、大人になってからよくわかることだ。

 

今になって思い返してみれば気が付くようなこと。あの頃には聞き流していた、プーさんのとぼけた行動や言葉のひとつひとつ。

 

当時はあまりのバカバカしさにおかしく思っていたけれど、実は、その言葉や行動は、当たり前だと思われている物事の裏に隠れている真実を的確につついているようにも感じるのだ。

 

見ている側から見れば、「頭がいい」と感じていたクリストファー・ロビンや、ラビット。彼らはいわば、ごく普通の常識的な考え方をする「私たち側」の人たちだ。もしかしたら、臆病だが心優しいピグレットもこちら側かもしれない。

 

対して、プーさんや、トラブルメーカーのティガーのことを、見ている側である私たちは「頭の悪い」として、どこか見下していたように思う。

 

でも、実は逆だったのではないか。常識の枠から外れて、物事を本質から見ることができる彼らの方が、よほど真実に近いのかもしれない。

 

『クマのプーさんの哲学』では、プーさん以外にも、100エーカーの森の住人たちは、みな哲学者であるらしい。イーヨーも、オウルも。

 

彼らはただのぬいぐるみでしかない。彼らはクリストファー・ロビンの遊びの中でだけ動いて、クリストファー・ロビンの中でだけ生きていることは、今では私たちの誰もが知っている。

 

『クマのプーさん』から何年も経って、新しい映画が放映された。成長したクリストファー・ロビンを描く、というものだ。

 

子どもだったクリストファー・ロビンも、やがて年を経て、大人になっていく。彼は「100エーカーの森」という子どもの世界を出ていって、くだらない現実社会のコンクリートジャングルで生きていくことを選ばざるを得ない。

 

でも、実のところ、本当に大切な真実は、「哲学の森」と称される「100エーカーの森」、つまりは「子どもの世界」にこそ、あるのかもしれない。

 

ただのかわいいクマの童話として読むことができない、そうなってしまうこともまた、自分が大人になってしまったことの証左であるように思えて、少し、切なくなった。

 

 

はちみつ好きの偉大な哲学者

 

フレデリック・C・クルーズの『ちんぷんかんプー』や、ベンジャミン・ホフの『タオのプーさん』が出版されてからは、『クマのプーさん』がただの子どもの本ではないことを知らない人はいなくなった。

 

この偉大で先駆的な本のおかげで、『クマのプーさん』は奥が深く、限りなく広がる意味を持つ本だということになった。そのお返しに『クマのプーさん』は、現代の学問、批評、理論が与えてくれる様々な手法を使って解読すべき本なのだ、ということを教えてくれた。

 

いまここでぼくたちのすべきことは、西洋哲学の流れの中で『クマのプーさん』の豊かな中身を探ることだ。これはきっとやりがいのある探求になるはずだ。本題にとりかかる前に、下準備として二、三言っておこう。

 

まず第一に、プーさんは「頭の悪いクマ」と呼ばれているじゃないか、という反論が予想される。プーは偉大な哲学者であるというぼくたちの主張にとって、これは一見ゆゆしき反論だ。

 

しかし、さいわいなことに、説明は簡単につく。自分のことを「頭の悪いクマ」と呼ぶときのプーは、己を無知の探求者と言い続けたあのソクラテスの伝統を引き継いでいるだけのことだ。

 

次に言っておきたいことは、プー本人が西洋哲学の最も偉大なる代表者であることは確かだが、プー物語の中での哲学の代表者はプーだけではない、ということだ。

 

最後にもう一つ、こんなに短い本の中に、西洋哲学全部が収まるものかと思う人もいるだろう。それは同じ一つの出来事を使っていくつもの哲学を描き出したからだ。

 

最新のものをのぞいて、西洋哲学はすべてプーへの広大なる準備段階であったと見るのが一番いいのだ、と言える理由を、くわしく説明していくことにしよう。

 

 

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