「そんな小説を読んでいる暇があるならビジネス書を読めよ」
職場の先輩からそんな言葉を投げかけられて、私は思わず閉口しました。その時、私は何度目かにもなるお気に入りの小説に浸っていたのですが、一気に現実に引き戻され、冷や水をかけられたかのような気持ちでした。
そんな私に気付くことなく、彼は気持ちよさそうに語っています。自分がビジネス書を読んで、それを如何に仕事につなげてきたのか、ということを。
おすすめのビジネス書を「貸してあげようか」と恩着せがましく言ってくる先輩の言葉を笑顔の生返事で聞き流しながら、私は学生の頃に読んだ『ブックセラピー』という本のことを思い出していました。
読書とは、勉強だ、と。当時の私はそんな考えに取りつかれていました。何せ私は勉強が苦手で、小説なんてものの何が面白いのか、私にはどうにも理解できなかったのです。
もちろん、図書室になんて行くこともなかったのですが、ある時、ふとした理由で図書室に行く機会を得て、私は珍しく図書室に行ったのです。
「あなたは、どんな本を読むの?」
図書室を預かっている優しそうな国語担当の女性教師は、そう聞いてきました。私が「読書は苦手なんです」と答えると、先生は「どうして?」と聞いてきました。
そこで、私は先述した通り、読書は勉強だという持論を語ったのですが、そんな私に先生が手渡してくれたのが、『ブックセラピー』でした。
『女性が元気になるためのブックガイド』というサブタイトルが銘打たれています。著者の三浦天紗子先生は女性誌などを書いているブックカウンセラーの方だそうで。
「本には癒す力がある」という考えに至り、普段は仕事や勉強に役立つビジネス書を主に紹介する記事を書いている先生が、ただただ自分の好きな本を紹介していく、というコンセプトのもとに書かれた一冊です。
読書をして心を癒す。そんな考え方に触れて、私は驚きました。今まで読書にそういった価値を見出したことはなかったんです。勉強のため、学ぶためにするものが読書なのだと、そんな私の価値観とはまったく異なるものでした。
ですが、同時に、肩の力が抜けて、ほっと息を吐いたのを覚えています。そんな肩肘張っていなくていいんだ、と、誰かに諭されたように。
そのあと、『ブックセラピー』で紹介されていた本を読んでみました。本を読んで癒される、というその言葉を、実感したのはその瞬間だったと思います。
以来、私は一転して読書好きになり、今ではジャンルも問わず読みふけるようになったのですが、そんな私に投げかけられた先輩の言葉は、読書嫌いだった頃の私の凝り固まった思想を否が応にも思い出させました。
当時の私の友人とかを思えば、読書を勉強だと考えている人間というのは、決して少なくないのでしょう。先輩がこうして自慢の道具として読書を語ってくるのも、その考え方が根底にあるからなのでしょうね。
でも、今の私はそうとは思いません。ただ楽しむだけの読書、ただ悲しむだけの読書、それらは私の人生を豊かにしてくれる大切なものなのだと、気付かせてくれた本があったから。
大人の社会では特に感じることですが、誰もが成果と速度に追われ、すぐに結果が出るもの、わかりやすく価値があるものばかりを求めているように感じます。
それがいけないことだとは言いませんが、ほんの少しだけ、立ち止まってみたら、普段見ているものとは別の光景が見えるのではないかと思うのです。
たとえば、車窓から見える虹だとか、仕事帰りの疲れたあなたを見下ろす星空だとか、雑踏の雑音の中に混ざった穏やかなクラシックの音色だとか。
私たちが普段、ただの風景のひとつとして見逃している世界には、人生を色づかせてくれる美しいものがあるのだと思うのです。
目の前で今も語り続けている先輩は、果たして気付く時が来るのでしょうか。彼自身が不要だと断じて切り捨てた小説に、どれほどの素晴らしいものが込められているのかを。
読書で心を癒す
ある時期まで、私にとって読書は楽しい時間つぶしだった。新しい知識を得たり、好奇心を満たしてくれるものと考えるのがせいぜいで、逆に言えば、本の世界ときちんと向き合って、自分を見つめ直したりする読み方はしていなかった。
ところが、とある女性は、小説世界に励まされ、エネルギーをもらったという。――本には心を癒す力がある。その発見は、本当に思いがけないものだった。
だが周りを見渡せば、「わざと切ない文学や映画に触れて、泣きたいだけ泣く」という女性は思った以上に多かった。感動し、思いきり涙にくれる。そうやって傷ついた心をいたわることは、女性たちが少なからず実践しているセルフヘルプなのだ。
現実のさまざまなシチュエーションを生きながら、女性たちは本の世界に感情を揺さぶられたがっている。自分の中のもやもやが浄化されるようなカタルシスを求めて本を読むのだ。
そう気づいた前後に、私は雑誌で本を紹介するページを書く機会を得た。そして私は本を手にするたびに、この一冊が、女性たちの心奥にあるものを引っ張り出してくれる本かどうかを考えながら読むようになった。
そんな読書体験の中から、読むと心に効いてくる本を知ってもらいたくて書いたのがこの本だ。
本書は思いっきり私が魅力を感じた本で構成してある。女性なら、読んで何かしらシンパシーを感じてくれるはずだ。これらの書物を手に取り、エネルギーチャージのきっかけにしてもらえれば、何よりうれしい。
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