あらゆるファンタジーの原点『トールキンのベーオウルフ物語』J.R.R.トールキン クリストファー・トールキン


J.R.R.トールキンの『指輪物語』を初めて読んだ時、大きな感動を覚えたことが今でも胸に残っている。想像上に築き上げられたもうひとつの世界。私はあの瞬間から、中つ国の虜になったのだ。

 

ゴブリン。エルフ。賢者。ドワーフ。オーク。ホビット。現在でも多くアニメや漫画で見かけるファンタジーでは、そういった存在がよく登場してくる。

 

とある本を読んだ時、ただの民間伝承や説話の類でしかなかったそれらを創作上のファンタジーに持ち込み、ファンタジーの王道としての形をつくったのは、J.R.R.トールキンだと書かれていた。

 

彼の代表作である『指輪物語』は現在でもファンタジーの大作として名高い。ただの妖精の一種だったエルフがひとつの種族としてファンタジーに登場するのも、『指輪物語』の影響が強く出ている。

 

彼は種族、言語、宗教、歴史を丁寧に組み上げて、ひとつの世界そのものを創り上げてしまったのだ。いわゆる「中世ファンタジー」とも呼ばれる現代の一ジャンルは、元を辿ればこの中つ国に通じている。

 

だが、そもそも、なぜトールキンはそのようなことができたのだろうか。中つ国が現代のファンタジーの原点であるというのならば、さらにその根元にはいったい何があるのだろう。

 

そう思って探していた時、見つけたのが『トールキンのベーオウルフ物語』という本であった。

 

「ベーオウルフ」とは、イギリスに伝えられている最古の叙事詩のひとつであるらしい。英雄ベーオウルフの活躍を描いている。

 

トールキンは、この「ベーオウルフ」研究においては権威とも呼べるほどの存在だったそうだ。『トールキンのベーオウルフ物語』は、トールキンの翻訳した「ベーオウルフ」を息子のクリストファーが再編したものだという。

 

デネの王フロースガールは、呪われた巨人グレンデルの暴虐によって苦しめられていた。若く勇敢な青年ベーオウルフは、グレンデルの退治に志願する。

 

戦いの末に腕をもぎ取られ、、グレンデルは逃走した。しかし、そのことを知ったグレンデルの母親が復讐しにきて、家臣の一人が無残にも命を奪われてしまう。

 

ベーオウルフは巨人たちの住処を突き止め、グレンデルの母親と戦う。死闘の結果、ベーオウルフは勝利し、グレンデルとその母親の首級を掲げた。フロースガールはベーオウルフに王の素質を見出す。

 

時が過ぎ、老齢となったベーオウルフ王は、国民を苦しめるドラゴンとの戦いに赴く。かろうじて逃げなかった部下の助力を得て勝利するも、戦いの傷に耐え切れず息絶えた。

 

ストーリー自体はそう複雑ではなく、まさに伝統ファンタジーといった感じ。しかし、忘れてはいけないのが、この物語が描かれた時代は気が遠くなるほど昔なのだということ。

 

今、さまざまな形に枝分かれし、多種多様な展開で私たちを楽しませてくれるファンタジー。その枝の根本、大樹となっているのは、トールキンの中つ国だった。

 

しかし、その大樹の根本、そこにあるのが、この「ベーオウルフ」である。まさにこの物語こそが、あらゆるファンタジー作品の原点と呼べるのではないだろうか。

 

そう実感した時、私はひとつの大きな畏怖を覚えた。それは、世界ひとつを創造したというトールキンの物語を知った時の衝撃にも似ている。

 

本来ならば、私たちは遥か遠い過去に伝えられた「ベーオウルフ」という物語を目にすることはできなかったはずだった。

 

歴史として降り積もった瓦礫の山の下からその物語を見つけ出し、現代と繋げたのがトールキンだ。彼がいたからこそ、「ベーオウルフ」は現代に蘇り、そして形を変えて多くのファンタジーを生み出した。

 

それは途方もない偉業である。彼がいなければ、現代の多くのファンタジーは存在しなかったかもしれない。

 

ひとりの本好きとして、トールキン先生に敬意と感謝を込めて。そしてあわよくば、ひとりの物書きとして、ひとつの世界を創るという特大の空想を、いつか自分もしてみたいものだと羨ましく思う。

 

 

最古のファンタジー

 

いざ聞け! 槍で名高きデネ人の王たちのいにしえの栄光は語り継がれ、われらは、これらの君主がいかにして武勇をなしてきたかを耳にするにいたった。

 

シュルド・シェヴィングは、敵の軍勢、あまたの人々から、宴の席を奪い取り、男たちに恐怖を植え付けた。ついには近隣に暮らすすべての民が海を渡り、彼の言葉を傾聴し、貢物を献上せねばならなくなった。

 

その後、王のもとに世継ぎが誕生する。民を安心させるため、神は王の館にひとりの幼子を遣わした。シュルドの世継ぎ、ベーオウの誉れは高く、その名はたちまち、シェデランドにあまねく広まった。

 

やがてベーオウは高貴なるヘアルフデネをもうけた。その子は君主となり、公明正大なシュルディングの民を治めた。

 

ヘアルフデネには四人の子どもが次々とこの世に誕生し、軍勢の指揮官となった者はヘオロガール、フロースガール、善良なるものはハールガと名付けられた。

 

その後、フロースガールは武運に恵まれ、一族の家臣は進んで彼の話に傾聴し、多くの若き戦士が成長して、強力な家臣団となっていった。

 

こうして、この一団は上機嫌で幸せに暮らしていたが、やがて地獄の悪霊がよこしまなことをなし始めた。

 

 

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