いろんな生活の知識がこの一冊に『ほどほど快適生活百科』群ようこ


 私は疲れ切っていた。日々の生活に。生きていくことに。そんな時、一冊の本が目に入った。

 

 

 『ほどほど快適生活百科』。群ようこという人が書いたらしい。今まで本棚に収まっていることさえ気が付かなかった。

 

 

 おそらく、母が送ってきたものの中にまぎれていたのだろう。段ボールの中にこれでもかというほどいろんなものが詰め込まれていたのを思い出す。

 

 

 果物や食料はありがたく使わせてもらったけれど、使わないであろう調理道具や、何冊かの本、健康器具なんかは物置や収納に乱雑に突っ込んだ記憶がある。

 

 

 結婚して数か月が経った当時は、仕事と家庭の両立に追われて余裕がなくなっていた。

 

 

 生活に必要な食料品は使わせてもらったけれど、とても本を読むような時間はなかったのだ。

 

 

 かといって、今、その本に気が付いたのは、私に余裕ができたからではない、というのは、床に力尽きたように寝そべっている私を見ればわかるかもしれない。

 

 

 上司からの嫌味に俯いて耐えて、同僚からの見下した瞳を笑顔で流して、ようやく家に帰った後は泥のように眠った。

 

 

 子どもを産む時に産休をもらって以降、就職した当時は楽しかった会社はなんとも居心地が悪いものになっていた。

 

 

 長く休んだことによる上司からの不満。未だ独身の同僚からのやっかみ。子どものために提示で帰ると、必ずと言っていいほど舌打ちが聞こえる。

 

 

 けれど、家に帰っても私の安息はなかった。お坊ちゃま育ちの夫は「家事は女の仕事」と割り切って寝てばかり。子どもの相手すらしてくれなかった。

 

 

 小学生の息子はいたずら盛りで、何度叱っても言うことを聞いてくれない。ストレスが溜まった日には、思わずぶってしまったことすらあった。

 

 

 結婚した時はこんなふうじゃなかった。仕事は楽しかったし、優しい夫のことが大好きだった。

 

 

 生まれた子どももとてもかわいくて、小さな身体を腕に抱いた時には涙が溢れた。幸せだった。あの頃は。

 

 

 けれど、今はどうだろう。会社も家も居心地が悪い。いったいどこでこうなってしまったのだろうか。

 

 

 会社から家に帰った途端、私は倒れ込んで泥のように眠った。家に帰り、夫と子どもが帰ってくるまでのわずかな時間。私ひとりだけのその時間だけが、私の安息だった。

 

 

 目が覚めたら、また家事をしなければならない。疲れ切った身体に鞭打って起き上がろうとした時、目に入ってきたのがその本だった、というわけだ。

 

 

 思わず取り出してみる。母が送ってきてくれた本。この本について、そういえば、母は何か言ってなかったか。

 

 

『これは私が結婚した後の、一番つらかった時期に助けてくれた本なのよ』

 

 

 そう、そうだ。たしか、そう言っていた。私がこの本を読むのは、今がその時なのではないだろうか。私はページをめくった。

 

 

 服、料理、掃除、お金、趣味、人間関係、仕事。そこにはさまざまなことについて、作者の生活の知恵が書かれている。

 

 

 作者は独身の女性らしい。私は、その女性の生活を覗き見ているかのような錯覚に陥った。

 

 

 読んでいくうちに、まるで彼女が身近な存在のように思えてくる。だんだんと、私は彼女を友人のように思い始めていた。

 

 

 家事をシステム化したら楽になる。そう彼女は書いてあった。

 

 

 生きていたら予測不可能なことは当然起こるだろう。けれど、毎日繰り返す生活を行き当たりばったりにしていたら疲れるだけだ。それは私が身をもって知っている。

 

 

 彼女が書いているのは、やや極端とも見えるようなやり方だった。特に、身内との距離に関してはいっそドライとも言えるくらいに。

 

 

 けれど、私はどこかで納得していたのだった。家族のために頑張る私。感謝もされず、ただの機械のように彼らのために働いている。

 

 

 けれど、だとしたら、私自身は誰が助けてくれるのだろう。この疲れ切った私の楽しみは、一体どこに行ってしまったんだろうか。

 

 

 いや、誰も助けてくれない。自分のことは自分が愛さなければいけないのだ。誰だって自分が一番かわいいのだから。

 

 

 私は決意した。この本を実践してみよう。彼女は独身で、私には家族がいる。立場が違うから、全部はできないだろうけれど、ある程度はできるはずだ。

 

 

 苦しい生活から、ほどほどの生活に。私ひとりの家庭ではないのだから、私だけが荷物を背負う必要はないのだ。

 

 

 夫にも、そして子どもにも、背負ってもらう。それこそが、家族というのではないだろうか。

 

 

ちょっと楽になる生活のやり方

 

 この本は、衣食住をはじめ、諸々の生活全般の事柄にわたって百項目書いた内容になっている。

 

 

 仕事、住居、食事、服装、経済、趣味、人付き合い、病、将来についてなどなど、それらすべてに毎日、選択がついてまわる。

 

 

 家族がいる人は、家族の行動、相手の気持ちも思いやって行動を選択しなくてはならない。子どもがいる人は、そこに育児も加わる。

 

 

 「自分はこうしたいから、やる」が通らないのである。家族がいる人たちは、日々、どれだけの選択をしているのかと想像すると、気が遠くなってくる。

 

 

 生活していくためのすべての事柄に関しては、その場その場で物事に対応するよりも、予測、習慣化、システム化した方が自分が楽だと感じるようになった。

 

 

 独身、家族持ちに関係なく、その家ごとの小さな決まりを作っておいた方が、結局は自分が楽になるような気がする。

 

 

 起こるであろう事象を想像して、それに対応できるように考えておくこと。おおまかに考えておくだけで、物事に落ち着いて対処できる。

 

 

 この本に書いてあるのは、私の生活を切り取ったものだ。この中のひとつでも、「やってみたい」「役に立った」という項目があれば幸いである。

 

 

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