編集部と作家陣が導いてくれる小説の道案内『本気で小説を書きたい人のためのガイドブック』ダ・ヴィンチ編集部


その時初めて、私は、「本気で小説を書きたい」と思った。その渇望が、胸の内で怪物のように暴れているのだ。どこに向かえばいいのかも、わからないまま。

 

仕事という生きるための作業に時間を奪われ続け、私の我慢はとうとうその時、爆発した。全ての仕事を放棄し、後先のことなど何も考えず、職場には向かわずに逃げ出した。

 

大学を卒業して、働きながら小説を書くつもりだった。それができないことを悟った時には、身も心も時間も、全てが仕事に摩耗されていった後だった。

 

自分の中で、ずっと押さえ続けていたもの。「書きたい」という欲望の怪物が、その時、初めて私の人生に牙を向いたのだ。

 

私は逃げ出した。誰にも行き先を告げぬまま。マンガ喫茶で寝泊まりし、風呂にも入らないまま、本屋や図書館を歩き回るだけの、何者でもない「私」になった。

 

未来のない状況でありながら、あらゆるしがらみから解放された全能感が私を支配していた。今の私なら、なんでもできる。そんな感覚。今や、胸中で暴れていた欲望の怪物こそが、私自身だった。

 

食事もそこそこに、パソコンに向かって小説を書く。ただそれだけが私に残された唯一のものだった。生きることよりも、「書くこと」が頭にあった。

 

だが、心の片隅にはいつも、「現実」に怯えるかつての私の姿があった。このままでいいのだろうか。携帯が着信を告げる。会社から。親から。全てを黙殺する。

 

自由を得た解放感と虚ろな満足感の裏側には、恐怖と疑問が常に渦巻いていた。「現実」から逃げ延びることはできない。やがて、私の身体がいずれかの形で「現実」に追いつかれ、喰われるのだと、私は知っていた。

 

まるで迷子だった。「小説を書く」という道だけを見て、目的地すらもわからない。ふらふらと彷徨い歩き、野人じみた様相で、満足に眠れない疲労が病魔のように蝕んでいる。

 

いつものようにふらりと立ち寄った図書館。ふと、一冊の本が目に入った。『本気で小説を書きたい人のためのガイドブック』と書かれている。本棚から抜き出して、それを脇に抱えたまま、空いている椅子に座った。

 

今までいくつか、小説の書き方の指南書というのを読んできた。本当に参考になるようなものもあれば、微妙なものもあった。さて、この本はどちらだろうか。

 

しかし、そんな傲慢な私の予想は、すぐに裏切られた。本に掲載されているインタビューやコメント。それを答えている作家は、私が大好きな作品を書いている人たちだったのだ。

 

その時、私は自分の誤解を知った。これは「小説を書くための指南書」ではない。本当の意味でタイトル通りだったのだ。すなわち、「本気で小説を書きたい人に向けた、心構えや道を示すガイドブック」だったのである。

 

すでに名の知れた作家として、物語を書き、それを自分の人生の職業としている人たち。彼らはインタビューの中で、小説と向き合う時の苦難と、そして喜びを答えていた。

 

そんな先生たちの言葉を聞いて、ふと、私の胸中に浮かんできた思いがあった。「小説を書きたい」という想い。だが、それは今のような荒々しい怪物の姿ではなく、若木のように生き生きとしていて、未来に満ちていた。

 

そうだ、高校生の頃、私は「小説家になりたい」と憧れて、物語を書き始めたのだ。あの頃の作品は、稚拙で、自己満足に溢れていて、技術も何もなかった。

 

だが、書いていて楽しいと、その時、私は感じたのだ。稚拙ながらも、筆はまるで天を駆けるかのように走った。今のように暗く、閉塞した物語なんかじゃない、楽しいものばかりを集めた、私だけの物語。

 

その作品はもう、残っていない。だが、あの何も知らない、ただ夢だけを見ていたあの頃の私こそが、本当に素晴らしい作品を書いていたのだと、今の私にはわかった。

 

そうだ、作家になろう。あの頃の夢を今一度、生きて生きて生き抜いて、追い続けるのだ。自分の怪物の殻が、罅割れて崩れていくのを感じた。

 

もう、逃げるのは終わりだ。携帯を取り出す。いくつものメッセージ、着信履歴。まずは「現実」と立ち向かわなければならない。怒られて、苦しんで、涙を流したその先にこそ、私の道の続きはきっと、広がっているのだから。

 

 

「小説を書く」ということ

 

私たちは、なぜ、言葉を記し、文章を紡ぎ、小説を書くのでしょう。

 

かつて人は、言葉を発明したことで、意識や知識の伝達を可能にしました。遠くまで人々の思いは届くようになったのです。次に人は、文字を発明したことで、意識や知識の保存を可能にしました。未来まで人々の思いは残されるようになったのです。

 

ゆえに、言葉と文字を用いて小説を書くという行為は、自らの実存を残し、広める行為といえるでしょう。そして思うのです。書くということと、生物の本能とは、とてもよく似ていると。

 

そう、小説を書くことは、実は本能的な行為なのかもしれません。私という存在は、確かに生きて、感じて、ここにいたという証を、誰もがみな、残さずにはいられない――。であれば、その本能に身を委ね、小説を書くことの喜びに耽溺してみてはいかがでしょう。

 

本書では、具体的な小説の書き方のノウハウを提示するのみでなく、数多くの作家の方々に登場いただき、それぞれが「書くこと」と、どのように向き合ってきたかを紹介していきます。

 

書いてみたいという、あなたの情動に素直に従って、ぜひ、挑戦してほしいのです。そして叶うならば、あなたの思いを、物語として結実させ、本として形を与えてあげてほしいのです。

 

あなたが、あなたにしか書けないものを書くための、覚悟と、準備と、実践を、本書にまとめて贈ります。

 

 

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