あーあ、宝くじで一億円当たったらなぁ。思わずそんなことを呟いてしまう。もちろん、買っていないんだから、当たるわけがないんだけど。
「ねえねえ、もしも宝くじで一億円が当たったらさ、どうする?」
その流れで私が聞くと、彼は呆れたような視線を向けた。けれど、ため息を吐きつつも「そうだなぁ」と考えてくれる彼はいい人だ。たぶん、損するタイプの人。
「誰にも告げずに引っ越して、生活のグレードを変えないまま、少しずつ、不自然じゃない程度に使うかな」
「えー、なんか夢がない」
彼の答えに、思わず私は唇を尖らせた。たしかに彼が思い切った使い方をするとは思わなかったけれど、それでもあんまりな返答ではないか。貯金よりひどい。夢のある話なのに、現実に戻されたような気分になる。
「じゃあ、君ならどうするの?」
彼にそう聞き返されて、私は思い浮かべた。宝くじの当たりを握り締めた私。部屋いっぱいにころがった札束の絨毯に身を横たえた私。想像するだけで、思わず口元が緩む。
「えー、迷うなぁ。おいしいものを毎日食べるでしょ、ブランドものの欲しい服とか宝石をいっぱい買うでしょ、それから、それから」
いざ考えてみると、あれも、これも、と、欲しいものがいくらでも出てくる。私が目を輝かせながら言っていると、彼は「すぐになくなりそうだね」と苦笑した。
「いやー、それにしても、当たればいいのになぁ、宝くじ」
はぁぁ、と恍惚としたため息を零すと、彼は苦笑のまま、自分の読書に戻った。
「当たれば、ねぇ。そうとも限らないんじゃないかな」
ぼそりと呟いた、その声。さっきから彼ときたら、夢を否定するばかり。さすがの私もカチンときた。むっと睨みつける。
「ねえ、さっきから、何読んでるの。私が話してるんだから、ちゃんと聞いてよ」
「これ? ああ、図書館で借りたんだよね」
私の怒りにも飄々と受け流して、彼は読んでいた本の表紙を見せてくれる。そこには、『宝くじで一億円当たった人の末路』と書かれていた。
「なに、この本」
「いろんな末路を書いた本だね。タイトルにもある通り、『宝くじで一億円当たった人』だとか、『友達ゼロの人』とか、『キラキラネームの人』とか、いろんな人たちが、最終的にどうなっていくのかっていうのをまとめているんだよ」
「へぇ」
なんだか、おもしろそう。私の怒りはいつの間にかどこかに消えて、その本に思わず興味が惹かれる。彼はちょっと安堵したようにほっと息を吐いた。
「じゃあじゃあ、宝くじで一億円当たった人の末路はどうなるの?」
「あまり幸せなものじゃないよ」
彼の答えは期待していたものとは違っていた。「えー、嘘だあ」と叫んでしまう。だって、一億円だよ。幸せに決まってるじゃん。
「たとえば、宝くじが当たったって自慢して言いふらした場合、いろんな人が知っているよね。だから、犯罪に巻き込まれたりとかするみたいだね」
「じゃあ隠し通せばいいんじゃないの?」
「お金がたくさんあると、どうしても行動に出るよ。君が言ったような使い方をしていたら、何も言わなくても周りの人はお金があるってことを察するだろうね」
「あっ、たしかに」
「それに、そんな生活に慣れると、もう元の生活に戻れなくなる。一億円がなくなっても生活のグレードをもう一度下げることができずに、借金したり、ね」
「うわ」
私は思わず絶句してしまった。それでも反論が思いつかないのは、私自身、たしかにそうなるかもしれないと納得してしまったからかもしれない。
「まあ、突然お金持ちになるって、人間関係とかも変わってくるだろうし、いいことはあまりないんだろうね」
彼は話を締めるように言ってから、また読書に戻った。私はどことなく丸め込まれたような気がしながらも、彼の手元にあるその本に視線を移した。
「ねえ」
「なに」
「その本、読み終わったら貸して」
「いいよ」
彼の読んでいるその本。『宝くじで一億円当たった人の末路』。その本への好奇心がすでに、私の胸中でむくむくと頭をもたげていた。
いろんな人生の末路
21世紀に入り、グローバル化の拡大とITの革新で、私たちの人生の選択肢は飛躍的に広がりました。
SNSで、日本にいながら世界中に知り合いを作ることもできるし、ネット上のフリーツールをフル活用すれば、誰だって起業家になるチャンスがあります。
長期の円高傾向は日本経済から活力を奪う一方で、日本人の世界への門戸を大きく押し広げました。これらを有効に組み合わせれば、SNSで知り合った異国の友人とグローバルビジネスを立ち上げることだって不可能じゃありません。
要は、「その気になれば、誰だって大抵の挑戦はできる」。そんな時代に私たちは生きています。でも、その割には「いろいろな挑戦をして人生を楽しんでいる人」って少ないと思いませんか。
これはひとえにみんな、人生でひとつの「選択」をした後、どんな「末路」が待ち受けているかよくわからなくて、不安だからなのだと思います。
社会構造が単純だった一昔前は、人生で、ある「選択」をするとどんな「末路」になるか、大体わかっていました。でも今は、そんな保証はまったくありません。
だったら、気になるさまざまな選択の末路を専門家や経験者に取材してしまえばどうか。その選択をした後に待ち受ける運命がどんなものかわかっていれば、より多くの人がもっと人生を楽しむ社会になっていくかもしれない。そんな発想から、本書の企画は始まりました。
いずれの末路も、専門家へのインタビューをベースに、「結論」と「解説」を大幅に書き下ろしました。
「あんなことしちゃったら、どうなるんだろう」「あんなことに巻き込まれたら、どうなるんだろう」。多くの人が普段からそう思っている末路ばかりのはずです。最後までぜひお楽しみください。
宝くじで1億円当たった人の末路【電子書籍】[ 鈴木 信行 ] 価格:1,540円 |
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