自分の心の叫びに、気づいてあげよう『仕事も人間関係も「すべて面倒くさい」と思ったとき読む本』石原加受子


 ああ、面倒くさい。不意に、心の中にそんな思いが湧き上がる。そのことに、私はひとりで恐怖した。

 

 

 その思いの出どころが、自分自身ですら理解ができなかったからだ。私はいったい何を面倒だと思っているのだろう。

 

 

 仕事か。職場の人間関係か。家族との関係か。恋愛か。あるいは友人関係か。それとも、人生のことか。はたまた、それら全てか。

 

 

 いったいどこが原因なのだろう。と考えるが、やがて、それすらも面倒だという結論が私の脳内を席巻していく。

 

 

 とにかく、もう、何もしたくない。今、目の前にある仕事も、客に対して笑顔を向けることも、職場の人間に媚びることも、何もかもがどうでもよくなっていた。

 

 

 しかし、そんなことを考えてはいけない。今まさに、私は仕事の真っ最中だった。面倒だからといって、何もかも放り出すわけにはいかない。

 

 

 いや、いっそのこと、もう全て放り出してもいいのではないだろうか。それで何の損害があるのか。会社の損害なんて、私自身に何の関係があるのか。

 

 

 上司に怒られて、それで終わりだ。あるいは、仕事を辞めさせられるだろうか。もしもそうなっても、いいのではないだろうか。

 

 

 だが、怒られるのは面倒だ。聞いてもいない説教にこくこくと頷き続けるのは、辛いだとか、そんなのではなく、ただただ退屈だ。

 

 

 仕事を辞めさせられたら、それこそいよいよだろう。もう一度かつての就職戦争に首を突っ込むなんて面倒の極致であり、今さら繰り返す気は起こらない。

 

 

 ならん、私はどうすればいいのだろう。なんて、迷ってみたところで結論は変わらない。私のすべきことは、どれだけ面倒でも、目の前の仕事を終わらせることだ。

 

 

 しかし、デスクの前に座ると、どうしてもやる気が起こらなかった。面倒だ、どうでもいい。そんな倦怠感とも呼べるような破滅思考が常に頭の片隅に居座っている。

 

 

 なんだ、これは。私はどうしたのだろう。どうすれば、この厄介な倦怠がどこかへと行ってくれるのか。

 

 

 そんなことを考えてはならない。私はこんなにも怠惰だったか。どうにかして、やる気を起こそうと自らを戒める。

 

 

 自己暗示のように、ようやく私の身体が動き始めた。心を失くせば、面倒だとも思うまい。私は機械だ。無心のまま、私はキーボードを叩き続けた。

 

 

疲れている自分に気付いてあげて

 

「ねえ、大丈夫?」

 

 

「え?」

 

 

 彼女の問いに、首を傾げた。彼女は心配そうな表情を浮かべて、私を見つめている。

 

 

「あんた、最近、笑ってないじゃん。自分じゃ気付いてないかもしれないけれど、やばい表情してるよ」

 

 

「あはは、大丈夫だよ、気にしないで」

 

 

 心配する彼女に、笑って答える。けれど、彼女はいっそう心配するように眉根を下げた。私の笑みがわざとらしく聞こえたのだろうか。私はそんなにやばく見えるのか。

 

 

 気をつけないといけない。何も問題はないのだから、いらない心配をかけさせるわけにはいかないだろう。私は元気そうに見えるよう自然な笑みを浮かべる。

 

 

「ねえ、あんた、ちょっと仕事、休み取ったら?」

 

 

「何言ってんの。特に体調を崩しているわけでもないのに、そんなことできるわけないじゃん」

 

 

 そう、仕事なのだ。体調不良でもないのに、休みが貰えるわけがない。それに、私は仕事が遅いから、休みなんて取ったら自分の仕事が終わらないのだ。

 

 

「ねえ、最近、何か、こう、変わったことあった? 自分の考えが変わったり、とか」

 

 

 彼女の言葉に、ふと考える。そういえば、最近は何もかもが面倒だという考えがいつだってあった。それは今でも相変わらず居座っている。

 

 

 そのことを話してみると、彼女は眉根を寄せて真剣な表情をした。どうしたのだろう。

 

 

「ねえ、休み取りな。あんた、このままだと、本当にやばくなるよ」

 

 

「どういうこと。何かの病気だったり?」

 

 

 彼女はカバンから一冊の本を取り出した。『仕事も人間関係も「すべて面倒くさい」と思ったとき読む本』と書いてある。

 

 

「なんでそんな本、持ってるの?」

 

 

「私も一時期さ、あんたみたいな時期があったの。何もかもが面倒くさいなって。その時にこの本を見つけたの」

 

 

 これ、あんたに貸すわ。読んで。彼女はそう言って、私の手に本を押し付けた。

 

 

 私はその本を見つめる。タイトルが指し示しているのは、まさしく私のことだった。

 

 

 開くのが怖い。そう思った。開いた瞬間、自分が限界だということを突き付けられてしまうような気がした。

 

 

 しかし、それと同時に微かな期待があった。それは、私の心が油断から漏らした、ようやく救われるかもしれないという安堵のため息だったのかもしれない。

 

 

「もう何もかもが面倒くさい」は心の危険シグナル 

 

「身体がだるくて、やらなければならないとわかっていても、できないんです」「落ち込みが激しくて、何も手につかず、毎日、イライラしてばかりいます」

 

 

 そんな人に、「心が疲れているのですから、眠たいときには眠り、自分の気持ちや欲求を大事にしてほしいですね」とアドバイスしても、こう答えるに違いありません。

 

 

「でも、寝てばっかりいると、こんなことしていいんだろうかって、よけい焦ってしまうんです」

 

 

 こんなことがあなたに当てはまるとしたら、あなたはすでに「なかなかやる気が起こらない。何をするにも面倒くさい」という状態に陥っているのかもしれません。

 

 

 そんなあなたは、自分の欲求や願望を満たすことを、自分に許していないのではないでしょうか。あなたは今日、何を食べましたか。それはどんな味がしましたか。

 

 

 もしあなたが、こんな問いに首を傾げてしまうとしたら、”気持ちよさを感じる”ことを忘れてしまっているのかもしれません。

 

 

「私はこれがしたいのでしよう。これはしたくないからしない」こんな自由があれば、あなたはどちらを選んでも満足できるでしょう。

 

 

 あなたが何をするにも面倒くさい状態になっているのは、自分の感情を基準にして自由に選択することを、自分に認めていないからだと言えるでしょう。

 

 

 あなたにとって最も大事なのは、そんな自分の素直な感情や欲求や自由を取り戻すことではないでしょうか。

 

 

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