新しいものこそ至高である。かつての時代にスマートフォンなるものがあったか。パソコンなるものがあったか。科学の発展と同じように、あらゆるものは新しいものこそが優れている。
「いやいや、そうとは限らないんじゃない? ほら、音楽でもクラシックは人気が高いし、絵画もルネサンス期の芸術の価値は高い」
ロックミュージックしたり、現代アートしかり、それらが大きな発展を遂げたのは、今までにあった芸術の常識を破壊したからだ。つまり、クラシックや古典というものはすでに、破壊される障壁、あるいは踏み台とされる段階になっている。
「それらは古典へのリスペクトがあったからじゃないかな。そもそも、何もないところから切り拓いてきたのが古典なんだし」
そのリスペクトを持ったところで何になるというのか。むしろ、その伝統にこだわることは、いつだって歴史上新たな一歩を踏み出す障害になってきた。古典はただの鎖にしかなり得ないのだ。
「なら、文学はどうだい?」
文学の古典なんぞはもっとも良くない。音楽や美術はまだましだ。何も知らなくても、ただ耳に入ってくるだけ、ただ目に入ってくるだけで楽しめる。だが、文学は違う。
「違うって、何が?」
私は文学が嫌いだ。まず読みにくい。言葉遣いが現代と大きく違っている。そのうえ、腹が立つことに、難解にでもしなければならないルールでもあるのか、どれもが気取っていて知識人ぶっている。
おまけに、読んでいても何が面白いのかわからない。有川浩先生や伊坂幸太郎先生みたいな、わかりやすい面白さがないのだ。むしろ、ただ主人公が病んでいるだけの暗い作品ばかり。
注釈や解説がついている? 逆に言えば、それを知らなければ楽しめないということじゃないのか。音楽や絵画と違い、知識を要求してくるのが文学の古典だ。だからこそ、どこか格式ばっていて、傲慢に感じるのだ。
「まあ、たしかに、現代小説よりは読みにくいだろうね。ただ、古典からは大切なことをたくさん学ぶことができるんだよ」
古典は何十年も古くに書かれたものだ。書かれた当時と現代は大きく変わっている。書かれた内容なんて、現代に通用するわけがないじゃないか。
「そうとは限らないよ。ほら、これを読んでみな」
手渡された本には、『だから古典は面白い』と書かれていた。野口悠紀雄という人が著者らしい。ぺらぺらとめくってみる。
「その本ではね、古典から学ぶことのできるものが現代のビジネスや生活にも密接に関わることを教えてくれるんだよ」
たとえば、シェイクスピアの『マクベス』。そこから学ぶべきは、魔女の人心掌握術である。彼女は自分に敵意を持っていたマクベスを言葉巧みに誘導した。その結果として起きたのが王位を巡る大波乱である。
あるいは、説得の話術を学べる聖書。戦争の勝者と敗者の比較からビジネスの鉄則を学べる『戦争と平和』。若返った老人の振舞いからアンチエイジングを学ぶ『ファウスト』。
「読みにくさや言葉の難解さで敬遠なんてせずに、一度読んでみたら?」
この本に書かれている言葉で、僕が「なるほど」と思った言葉があるんだ。『古典とは、時代を超越した作品であり、決して古くなることがないものです。現在、われわれが見たり聞いたりすることができるのは、長い淘汰の過程をくぐり抜けてきたものだけなのです』と。
「つまり、僕たちが知ることができる古典は、長い歴史の中で削られて、削られて、その末に残った精鋭中の精鋭だということだよ。現代の小説が、果たして百年後にも残っているだろうか」
私は思わず口をつぐんでしまった。その通りだと思ってしまったからだ。『聖書』や『ファウスト』はきっと物語自体はなくなることはない。だが、現代小説の中のいくつが、後の古典として残っていくだろうか。
「で、どう? 古典を読んでみる気になった?」
反論は浮かばなかった。一冊だけ。苦し紛れに、そう言った。
古いからこその価値
古典とは、時代を超越した作品であり、決して古くなることがないものです。「昔作られたもの」の数は膨大です。その中で、現在、われわれが見たり聞いたりすることができるのは、長い淘汰の過程をくぐり抜けてきたものだけなのです。
音楽においても文学においても、時代を超越した作品があり、それらは、いつの時代になっても決して古くなることはありません。それが「古典」です。
いま、われわれは、望めば古典を読んだり聞いたりすることが、簡単にできます。これは、考えてみれば素晴らしいことです。
ある著者の本を読んで面白いと思い、その人の著作を次々に読んでいくということが、しばしばあります。これを「読書の連鎖過程」と呼ぶことができます。
あることについて知識を持てば、それに関連することへの興味が増します。したがって、興味が次々に広がっていきます。いわば、好奇心が自己増殖していくわけです。
そうしたきっかけを、できるだけ多く作ることが重要です。それが、あなたの人生を豊かにするでしょう。本書がそのようなきっかけのひとつになることを望んでいます。
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