タイトルは思い出せないが、学園もののドラマで、悪役の教師がいた。生徒の成績を上げることばかりを考え、生徒と一人一人向き合う熱血教師と対立するその男に、当時学生だった私は強く嫌悪を覚えていた。
「学歴」や「成績」と聞くと、いい気持ちはしない。それだけで全てが決められると思うと、「それだけが大事なわけじゃないだろう」と言いたくなる。
学園ドラマなどでの、いわゆる「成績」や「学歴」という言葉は、主役たちの持っている武器である「個性」を否定する学校の「巨悪」そのものの象徴だった。
自分の学校生活が終わり、四年制大学卒業という、あくまで「そこそこ」の学歴を手に入れた今でも、私が「学歴」や「成績」という言葉を嫌悪し、「競争」なんてギスギスするものはなくなればいいのに、と思うのは、そんなイメージがあるからかもしれない。
しかし、最近になってその考えは、また変わっていたのである。そのきっかけとなったのは、『学歴・競争・人生』という本を読んだことだった。
学歴や競争について論じたこの本は、私に、イメージや感情的な批判とはまた違った、「学歴」や「競争」を見定めるための新たな視点を与えてくれた。
最近では、「学歴」よりも「個性」を前面に出すような世の中になっている。ビジネス書は、「個性を活かす」という文言で溢れている。
しかし、私たちは「個性」をただ賛美するよりも前に、まずは「個性」というものの正体をよく理解するべきではなかったか。
「個性」とは何か。成績などでは測り得ない、個々人の持つ特性である。
この本は、そういったものは家庭によってつくられるものであり、だとすれば、「個性」を重視する社会とは、生まれや育ちを重視する江戸時代期の階級社会と同じなのではないか、と論じている。
「個性」が全て家庭によるものとは私は思わないが、生まれ育ちの影響はかなり大きいことは否定できない。ならば、たしかに、「個性」を重視するということは、本人にはさらにどうにもできないところが重視されるようになる可能性がある。
そもそもとして、「個性」を明確な判断基準を持って測ることなど不可能だ。測れないからこその「個性」である。「学歴」はより効率的に人の能力を測るために生まれた。
「個性」を見るということは、試験官の人格や好悪などによって変動するということになる。それは、見方を変えれば学歴社会よりも一層理不尽なものかもしれない。
「学歴」とは何か。「競争」とは何か。「個性」とは何か。
批判するよりも先に、まずはその正体を見究めなければならない。そのことを、この本は教えてくれた。「学歴」はたしかに好きにはなれないが、少なからず必要だというのが、今の私の意見である。
学歴や競争の役割
学歴と競争――。二つの言葉を前にしたとき、世代や置かれている立場によって、反応がみな違うと思います。ご自身が若い頃に苦労された方や、受験を控えたお子さんをもつ親御さんならば、これらの言葉を聞いただけで身構えてしまうかもしれません。
実は、当たり前のように使われているこれらの言葉は、現代日本社会の骨組みにあたる仕組みを理解したり、人生全体を理解したりするために、思いのほか役立つ手がかりとなるのです。
誰もがこのことについて、少し立ち止まって見渡してみるべきではないか? わたしたちはそう考えてこの本を書きました。
子どもたちにとって、学校は友だちと一緒に過ごす楽しい場所ですね。でもそんなみなさんにとっても、学校というところは、互いに競い合って優劣を決める場です。
いっぽう学歴の方は、大人になってから学校での教育を振り返ったものだとみることができます。大人の世界では、どのような学校で何を学んできたかということ、つまり学歴という「ラベル」が人生のチャンスを否応なく左右します。
一般には、学歴も競争も、とかく否定的なイメージをまといがちな言葉です。近頃では、決まった形の競争では序列づけることができない、ひとりひとりの「個性」を尊重しようとする動きがみられます。
けれどもこれは、「個性」だけが見究められるようになるということではありません。競争や学歴に加えて、今は「個性」も判断材料とされるようになってきたということです。
「個性」には、みなさんの家庭がみなさんに授けてくれたものだという面が大いにあります。ですから、学歴や競争の結果に表れない「個性」の本体とは、結局はあなたの育ちなのだと考えます。
だとすると、「個性」を見究める社会になっていくというのは、親が与えた個人差を判断基準にするようになるということです。
そういう決め方が進んでいって、学校で頑張って競争に勝った人のチャンスが奪われるようになるくらいならば、厳しいルールをもつ競争社会、学歴社会の方がまだマシだ、と思いませんか。
そういうわけで、学歴や競争は、現代日本社会から消えることは決してありません。なぜならば、競争と学歴がもつ利点の方がこれらの弊害よりも大きいからです。
ですから、感情的な批判や拒否反応ではなく、広い視野でしっかりメリットとデメリットを考えてみるべきではないでしょうか。
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