自分が新しい風になる『ヒップな生活革命』佐久間裕美子


 今、アメリカは熱狂している。ジョー・バイデン氏とドナルド・トランプ氏。新たな時代が再び、始まろうとしていた。

 

 

 世界を驚愕させた、ドナルド・トランプ氏の当選をはじめとするアメリカの一連の出来事は、変革を求めるアメリカ国民の叫びを体現しているかのよう。

 

 

 つい先日、佐久間裕美子先生の『ヒップな生活革命』を読んだ。アメリカの文化の変化が如実にわかる一冊。

 

 

 サブプライム危機から始まったアメリカのムーヴメント。それまでの「大量生産・大量消費」ではなく、「自分で創り、自分で売る」という小規模な文化。

 

 

 その文化が各地で起こることで、それ自体が大きなうねりとなり、アメリカの文化に変革をもたらしている。そんな内容だった。

 

 

 本に書かれている2000年の初期に起きた金融危機から、今や10年以上の月日が流れている。しかし、今もなお、アメリカは変革の最中にあるように感じた。

 

 

 アメリカの感染症被害は、世界から見ても甚大だ。多くの失業者を生み出し、人種差別や治安の低下につながっているという。

 

 

 生活革命は、まだ終わっていない。社会の不安は新たな文化を生み出す。現在の感染症の危機と、かつてのサブプライム危機の状況は、私の目からは、どこか重なって見えた。

 

 

 これからもアメリカは変革し続けるだろう。それは、今や飛行機ひとつで飛び越えることのできる、海の向こう側の話だ。

 

 

 アメリカの大統領がドナルド・トランプ氏に決定した時の、日本中のニュースの阿鼻叫喚は今も記憶に新しい。

 

 

 アメリカの中でも多くの反発を生んだ氏の発言が事あるごとにニュースで取り沙汰され、辛口な批評を受けていた。

 

 

 けれど、私は、この時代にトランプ氏という人物が大統領になったのも、わかるような気がするのだ。

 

 

 かつて、アメリカは世界を代表する大国だった。そして、敗戦を機に、日本はアメリカの後をついて歩く腰巾着のような国になった。

 

 

 けれど、今、アメリカからは、かつてのような威容はなくなっているように思う。

 

 

 中国の著しい経済成長や、北朝鮮との諍い。政治家ではなく実業家であるトランプの大統領就任。

 

 

 変革を求めるアメリカの姿勢から感じられるのは、ひりつくような焦燥感と、余裕のなさ。

 

 

 トランプ氏の差別発言や「壁を作る」一連の発言は、かつて自由の国として何もかもを受け入れてきたアメリカが、その度量の広さを失っているということではないのだろうか。

 

 

 それは決して悪い動きではなく、むしろ当然の流れであるように思える。誰だって、一番大切なのは自分の国なのだから。

 

 

 日本は今もなお、アメリカの顔色を伺っている。私にはその様子が、ガキ大将の太鼓持ちのようにも見える。

 

 

 アメリカは今もなお、大国であることに変わりはない。しかし、世界を二分するほどの力はもう、ないように思える。

 

 

 だからこそ、日本もそろそろ、アメリカの腰巾着から卒業してもいいのではないだろうか。

 

 

 自由を愛するアメリカの文化が、私は愛おしい。一方で、世界にも類を見ない日本独自の文化もまた、一日本人として誇らしく思う。

 

 

 長い歴史の中で熟されてきた中国の華美な文化には圧倒される。ロシアの音楽も、ドイツの生真面目さも、イギリスの歴史も、フランスの料理も、私は愛している。

 

 

 だからこそ、頼り続ける腰巾着ではなく、世界の良き隣人として、肩を並べることができたなら、どれほど嬉しいことだろうか。

 

 

経済危機から生まれた新たな文化

 

 アメリカが初めての黒人大統領を選出する直前、私はこの広大な国に生活するアメリカ人が何を考えているのかを知るために、アメリカを車で一周する旅をしていました。

 

 

 旅先で出会ったアメリカ人たちの多くは、不景気や所得の格差といった問題に対する不安を口にし、変革の必要性を強く感じているようでした。

 

 

 テキサス州のメキシコとの国境近く、プレシディオという小さな街に逗留している時、リーマン・ブラザーズが破綻したことをラジオで知りました。

 

 

 ニューヨークに戻ってみると、やってくる暗い時代の兆候がすでに至るところで見られるようになっていました。

 

 

 何より危機にさらされたのは文化でした。サブプライム危機とともにアメリカを覆った黒い雲は、永遠に立ち去らないのではないかとさえ思えました。

 

 

 ところが、日常的に目に入ってくる悪いニュースにも慣れた頃、少しずつ何かが変わっていくのを肌で感じるようになりました。

 

 

 大量生産の仕組みの中で粗悪な商品を作るかわりに、手作りのクラフト文化のつぼみが開花しているのに気が付きました。

 

 

 無力感に打ちのめされるだけでなく、自分たちの手で何かを起こそうとする人たちによって、新しい動きが生まれていたのです。

 

 

 アメリカで、これまでの基準とは違う価値観で今、モノを作ったり、発信したりしている人たちの中には、あの危機をきっかけに新しい生き方や方法論を探った人もいます。

 

 

 小さな島のように運営される大小のそれらが、時に重なり合い、時には呼応し合って、今、アメリカの文化の中で大きなうねりを形成しようとしています。

 

 

 世界中に散らばった小さなコミュニティが呼応し合ってより大きな文化の潮流を形成し、大きな力を前にただ無力感に打ちひしがれながら何もできずに生きていく必要はない、と私たちに教えてくれるのです。

 

 

 本書で紹介するムーヴメントの多くは、すでに日本でも紹介されています。けれども、それらがどういう社会的な背景から登場したかという視点は抜け落ちてしまうことが多いように感じています。

 

 

 危機をきっかけに「生きる」ということを改めて考え直した人たちのライフスタイル改革があり、それに呼応する消費者が増えているからこそ、今のムーヴメントがあるのです。

 

 

 本書に登場する数々の事例が、新しい考え方のヒント、自分にもできることを発見するきっかけになることを願ってやみません。

 

 

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