織田信長が天下をほぼ統一することができた理由を解説『信長の経済戦略』大村大次郎


 時は戦国時代。天下を争奪しあう群雄割拠の時代である。一国を治める戦国大名たる某も、その尻馬に乗らねばならぬ。

 

 

「というわけで諸君、天下を取るためにはどうすればいいと思う?」

 

 

 某は信頼できる家臣の衆に聞いてみることとした。彼らは優れた知恵者ばかりである。

 

 

 彼らならばより良い意見を出してくれようぞ。しかし、彼らはこぞって首を傾げてみせたのだ。参謀が代表しておずおずと手を挙げると某に話しかけてくる。

 

 

「主君、失礼ながら、天下とはどういったもので?」

 

 

 彼の意見に某は困惑した。彼らが何をわからないのかがわからないのだ。よもや、知恵者だと信じていた参謀ですらもこんなに簡単なことがわからないとは。

 

 

「天下とはこの世そのものである。我らが大和の国を手中に収めることこそ戦国武将の本願ぞ」

 

 

 多くの戦国武将は天下統一を目指して戦に明け暮れたという。それは後世では周知の事実であるというのに。某が半ば憤慨していると、参謀が言いにくそうに話す。

 

 

「主君、天下を取るなどという発想は我々にはありませぬ。いや、それだけでなく、世の戦国武将もそんなことなど思ってはいないでしょうな」

 

 

「なんだと」

 

 

 そんなはずはなかろう! 間違いないはずなのだ! だって『戦国BASARA』でそんな感じだったもん!

 

 

「多くの戦国武将は自分の領地を増やすことに執心しております。天下なんぞを取ろうなどと目指してはおりますまい」

 

 

「なんということだ……」

 

 

 某は絶句した。戦国時代は戦国武将たちが天下を取り合う群雄割拠の時代ではなかったのか。

 

 

 ふと、某は視線を移した。我らの話を退屈そうな顔で聞いている小姓がいる。彼は隅で突っ立ったまま声も発さずに静かに佇んでいた。

 

 

「おい、お前。何か意見はないか」

 

 

 某に聞かれた小姓ははあ、と気のない返事を返す。その態度に思わず色めき立つ周りの忠臣らを手で押しとどめて続けよと視線で示した。

 

 

「あっしはただの小姓なもんで大したことは言えませんけれどね、天下を統一しようとしている戦国武将といえば、尾張の織田信長公だけでしょうねェ」

 

 

「あの尾張でも悪名高い大うつけものか!」

 

 

 参謀が驚いたように声を上げる。たしかに某も彼の噂だけを知っていたならば、天下を取るなど不可能だというであろう。

 

 

 しかし、後世における彼は戦国武将の中でも有名な男である。天下統一の足掛かりを作った存在として。

 

 

 小姓は懐から一冊の書物を取り出した。表紙には織田信長の絵が描かれている。

 

 

「なんであるか、その書物は?」

 

 

「『信長の経済戦略』ってェ本でさァ。織田信長公が天下統一をほぼ成し遂げることができた理由ってのが書かれているんで」

 

 

「なんだと! そんな便利な戦略が書かれているのか! となれば、さぞかし優秀な兵法が記されているのだろうな?」

 

 

 しかし、小姓はいえいえと首を横に振った。

 

 

「兵法の本なんて一介の小姓であるあっしが読めるわけありませんや。ここに書かれているのは経済論ですよ」

 

 

「経済! 経済だと! そんなものが天下を取る秘訣だというのか!」

 

 

「ええ、そうでさぁ。読んでみるとわかりますよ」

 

 

 小姓の手から受け取ったその書物を、某は家臣の者らと額を突き合わせて目を通したのであった。

 

 

天下への夢は泡沫に破れたり

 

 某は力なく目前の大地を埋め尽くす戦場を陣中から見下ろした。我が家臣は散り散りとなって崩壊し、敵の兵が意気揚々と雄叫びを上げている。

 

 

 我が陣に押し寄せる敵兵はさながら黒い波のようである。否、間違いではあるまい。某を呑み込まんとすべく襲いかかる暴力の本流である。

 

 

「主君、敵兵が来ます。ご指示をいただければ差し違える覚悟です!」

 

 

 参謀が槍を構えて某に揚々と告げる。その表情には老骨の身にはふさわしくない覚悟が込められていた。他の家臣も某を凛々しい表情で見つめる。その中にはあの小姓の姿もあった。

 

 

 それは命を落とす覚悟をした瞳だった。一切の悔いもなく、悲哀もなく、ただ決意だけがあった。

 

 

 某は悲しくなる。なるほど、これが戦だ。某はゲームで戦を知った気になっていた。なんという思いあがり! その傲慢が某をこの結果へと導いたのだ!

 

 

「……諸君、武器を捨てて、陣を出て逃げろ」

 

 

「主君! 何を言っておられるのですか! 我らはまだ」

 

 

「よいのだ。某によく仕えてくれた。心より感謝する。だから、某のために生き延びてくれ」

 

 

 参謀も小姓も、みな泣きそうな顔をしている。握り締めていた武器が地に落ちた。彼らもみな、怖いのだ。某は自分の最期の役割をこなす。

 

 

「諸君、大儀であった!」

 

 

 その言葉を最後に、彼らは陣の奥へと逃げていく。某はその場に残った。参謀が振り返るが早う行けと手で促した。

 

 

 敵に首を取られるのは不名誉である。しかし、某は自刃をしようとは思わなかった。だからこそ、陣にただひとり残ったのである。

 

 

 そこらの有象無象ならば首はやらんが、彼にならばやってもよいと思ったのだ。某がその奔放さに憧れ、苛烈さを気に入り、生き様を愛した彼にならば。

 

 

 やがて、陣を破ってひとりの男が入ってくる。我が意を得たりと笑う某を、彼は怪訝そうに見下ろした。

 

 

 彼は優れた武将であり、優れた為政者であり、優れた実業家であった。やはり天下を手に入れんとして実行する男は一介の武将とは格が違う。

 

 

 しかし、やがて彼は不敵に笑んだ。それは民ならばどこまでも優しかろうが、敵にはどこまでも怖ろしい覇者の笑みである。

 

 

 ああ、そうだ、それでこそ某の憧れた第六天魔王の傲慢よ! 某はその残酷の裏に隠れた情と理知にこそ惚れたのだ!

 

 

 彼の取り出した銃口が某の額に向けられた。それが某の見た今生における最期の光景である。

 

 

信長の天下取りの土台となったのは経済だった!

 

 織田信長は戦国大名の中で、天下をほぼ手中にした存在として歴史に名を馳せている。と同時に、変わった施策をしたことでも知られている。

 

 

 寺社に対する攻撃。楽市楽座の開設。関所の廃止。巨大な城の建設。

 

 

 それらは一見うつけものとまで呼ばれた変わり者の面白いアイディアのような印象を受けるだろう。

 

 

 しかし、信長の数々の施策は、実は室町時代から続く経済問題に対する合理的な解決策だったのだ。

 

 

 信長はそれまでの戦国武将たちがやろうとして手掛けていたものを大規模に導入し、世間に知らしめた。

 

 

 室町時代は財政や社会経済システムに大きな欠陥があった。信長はそれらの欠陥を修正しようという明確な意志があった。

 

 

 そして、最終的に信長は武家政権による封建社会を終わらせ、朝廷による中央集権国家を作ろうとしていたのだ。

 

 

 経済の面から信長の生涯を眺めれば、信長の国家改造プランやこれまでとは違った戦国時代像が見えてくるだろう。

 

 

信長の経済戦略 国盗りも天下統一もカネ次第 [ 大村大次郎 ]

価格:1,650円
(2020/7/24 20:31時点)
感想(1件)

 

関連

 

人生を変えるビジネス書の金字塔『チーズはどこへ消えた?』スペンサー・ジョンソン

 

 迷路の中に住む二匹のネズミと二人の小人はチーズを求めてさ迷っていた。やがて、彼らはチーズが安定して手に入るチーズステーションCを見つけた。

 

 

 苦しい現状から抜け出せない貴方様におすすめの作品でございます。

 

 

チーズはどこへ消えた? [ スペンサー・ジョンソン ]

価格:921円
(2020/7/24 20:32時点)
感想(37件)

 

お金に困る人生を変える一冊!『幸せな経済自由人の金銭哲学マネー編』本田健

 

 お金の心配から抜け出した彼らを、人は経済自由人と呼ぶ。彼らはお金に悩む人たちとはまったく違った考え方を持っていた。その金銭哲学が彼らの貧富の差の正体であったのだ。

 

 

 お金の心配から抜け出したい貴方様におすすめの作品でございます。

 

 

幸せな経済自由人の金銭哲学 お金持ちへの扉を開く60の習慣 マネー編 [ 本田健 ]

価格:1,320円
(2020/7/24 20:33時点)
感想(0件)