昔から絵を描くのが好きだった。けれど、私の絵はいつだって灰色だ。線画より先に行くことができない。だからこそ、私の胸にはいつだって不満があった。
もちろん、色をつけたいと、いつも思っている。自分のモノクロの絵が鮮やかな色で彩られたら、どれほど楽しいことだろうか。
だが、どうしてもいざやろうという気にはならない。その理由は明白だった。それは、技術とはまったく別のところにある。
色を塗るといったら、いわゆる絵の具だろう。だけど、絵の具を用意するのは手間も時間もかかる。後片付けも面倒だ。
本格的に取り組むわけではない、ただの手慰みとしての絵に、そこまでの労力をかけるつもりはなかった。となれば、鉛筆から先に進めないのである。
ああ、だけど、色を塗ってみたい。自分の味気ない絵に、鮮やかな色を乗せてみたい。そんな渇望が、日に日に強くなっていく。
その本と出会ったのは、そんな時だった。そのタイトルを見た瞬間、私の脳裏に、「そうだ、この手があった」という雷が走った。
それは、『はじめての色鉛筆画』というタイトルである。そうだ、色鉛筆なら、手間もかからないし、調達も簡単だ。どうして気が付かなかったのだろう。
けれど、私の中には少しの侮りがあった。やはり、絵に色を塗るといえば絵の具ではないのか。色鉛筆に、そこまでの美しい絵が描けるのだろうか。
だったら、学んでみよう。そう思い至って、私に色鉛筆という道を示してくれた『はじめての色鉛筆画』を、読んでみることにした。
ページを開いた私は、すぐに驚きに包まれる。そこには、あまりにも美しい色彩の絵がいくつも並んでいたからだった。
そこで、私は初めて自分の認識の甘さを恥じた。色鉛筆は立派な画材だ。そこには、絵の具すらも凌駕するポテンシャルが秘められているのだ、と。
色鉛筆は絵の具と違って色を混ぜたり重ねたりすることができない。タッチにも特徴があり、使いにくいものだと考えていた。
だが、その独特のタッチは見方を変えれば、柔らかい、優しく温かみのあるタッチになる。薄く、丁寧に塗っていれば、色を重ねていくこともできる。
今まで私が色鉛筆で上手く描くことができなかったのは、ただ色鉛筆の使い方を知らなかったのだということを、知れた。
本に載っている、数々の美しい色鉛筆画。私も、色鉛筆の使い方を会得すれば、このような絵が描けるようになるのだろうか。
家の引き出しから、ずっと使っていなかった色鉛筆を探し当てる。紙と鉛筆も目の前に置いて。生憎と、本で紹介されていたトレーシングペーパーはない。
さあ、用意はできた。描く対象は、机の上に無造作に打ち捨てられていた腕時計に決めた。上手くなるには、実践あるのみ。描いてみよう。
何よりも大切なのは、「観察すること」だと、その本には書かれていた。描くモデルが何の色なのか、そのことを的確に捉え、書いていくことが重要になってくる。
絵の具とは違い、色鉛筆画は少し暗くなっている陰の部分から塗っていく。濃い色を薄く、薄く塗り重ね、根気よく描いていくのだ。
そこから、だんだんと明るめのところを塗る。ただし、ハイライトは塗らない。その部分は白のままで、手を付けない。
そして、光の加減には、素材によって差がある。フェルトのような生地は乱反射するため、全体的にぼんやりとした色になる。
対して、私が今描いているような時計は金属製だ。金属はハイライトや色の境目が他のものよりも明確であり、鋭く真っ直ぐとしたハイライトが光っている。
描き終えた自分の絵を見て、ううんと唸る。やはりというか、本のようには上手くはいかなかった。色の塗り加減に違和感がある。
やはり、繰り返し描かないといけない。私はその、描いた後の独特の満足感をほうと息に載せて吐いた。
自分の絵を見下ろせば、普段の線だけの味気ない絵とは異なり、艶のある金属の冷ややかさが暖かなタッチで書かれている。
まずは、第一歩だ。色鉛筆画への道は、まだまだ始まったばかり。技法を学ぶのは入り口に過ぎない。むしろ、そこから歩き出すのである。
手間いらずで柔らかい
画材用の良質な色鉛筆が、今はどこの画材店にも置いてあります。カラフルな軸の色を見ているだけでもワクワクしてきますね。
色鉛筆が、水や筆を使わずに、手に取ればすぐに使うことができる手軽な画材で、片付けもとても簡単です。そして硬筆なのに優しい絵が描ける不思議な画材でもあります。
そもそも色鉛筆は小さい絵を描くのに向いています。小さくても絵は絵です。大きさを競わないで、身近な小さなものを丁寧に描いてみましょう。
色鉛筆には他の画材と違う点もあります。本書ではその色鉛筆の特性を生かして、立体感を出すこと、質感を出すこと、そして色を作ること、この3点について解説してみました。
色鉛筆が初めてでも、きっととっておきの一枚が描けるようになります。
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