社会という居場所『「働きたくない」というあなたへ』山田ズーニー


子どもの頃、将来の夢を聞かれた時、僕はいつも言葉に詰まっていた。どうしてみんな、働くことが当たり前だと思っているのだろう。どうして、働きたくない、なんて言ったらいけないような空気があるのだろう。

 

そんなことを思っていた僕は、そんなことを思ったまま大人になった。大学生になって、就職活動をしている時も、心のどこかでは「働きたくない」と、小さな僕がずっと悲鳴を上げていた。

 

仕事に就いてから、僕はすぐに精神を病んで、会社を辞めた。そんなことがあって、僕はようやく、自分がずっと仕事したくないと願っていたことと向き合うことにした。

 

どうして僕は仕事をしたくないと思っていたのか。たとえば、僕自身の気質? あるいは、社会のせい? 両親の姿を見てきたから?

 

僕が生まれた頃には、もう社会は不況の真っ只中だった。就職活動の時機には、いわゆる就職氷河期こそ抜け出ていたけれど、未来に希望なんて持てる社会じゃなかった。

 

両親は共働き。ある意味対極の二人だった。母は仕事人間で、我が家の家計はほとんど母が賄っていた。父も無職ではないけれど、給料は少なく、子どもの僕から見れば働いているようには見えなかった。

 

家は貧乏だったけれど、家族三人での生活は好きだった。だからだろう、僕は今でも、出世になんて興味がないし、お金もそこまでいらないと思っている。

 

なんとなく働きながら、なんとなく生きる。それが、僕のやりたい生き方だった。とはいっても、精神を病んでそれすらもできなかったわけだけれど。

 

図書館をふらふらしていて、ふと、タイトルに惹かれて一冊の本を読んでみることにした。『「働きたくない」というあなたへ』という本だ。

 

ここになら、仕事が嫌いでたまらない僕がどうすればいいか、書かれているんじゃないか。そう思っていた僕は、読んでみて思わずがっかりした。

 

それは、よくあるような、「仕事はこんなにも必要なことなんだよ」というような言葉を並べていたからだ。

 

それでも、読むのをやめなかったのは、その本の言葉に、きれいごとはちっともなかったこと、そして、その本はどこまでも僕のような人間に視線を合わせてくれていたからだ。

 

社会のため。お金がないと生きていけないから。そんなありきたりのことじゃなくて、その本は、あくまでも「本人」のために働くことを伝えようとしてくれている。

 

仕事を通じて社会とつながること。そうすることで、孤独ではなくなること。僕と同じように「働きたくない」と思っていた人たちの声も、たくさん書かれている。

 

この本を読んでなお、僕の心にはやっぱり「働きたくない」という思いがあった。今ではもう、働いているけれど、できることなら働きたくない。

 

結局のところ、僕はひとりが好きで、社会が嫌いなのだろう。だから、仕事をしたいとは思うことができない。

 

でも、読む前と後では、少しだけ考え方が変わった。働きたくない。そう思っているのは、僕だけじゃないこと。そして、仕事には、給料をもらう以外にも、たくさんの意味があるのだということ。

 

今の世の中には、昔よりも多くの選択肢がある。仕事の形も多種多様になって、ずっと自宅にこもることも、起業することも、今じゃあ珍しくはない。

 

だからこそ、僕たちはもっとよく考えなくちゃいけない。僕にとって仕事とはいったい何なのか。それは本当に、必要なことなのか。

 

仕事をしない。僕は、その選択肢もまた、アリなんじゃないかと思っている。だって、本人の人生じゃないか。他人や社会がとやかく言うことじゃない。ねえ、そうだろう?

 

 

働きたくない若者

 

不況のせいか、私たちが良いモデルを示せなかったせいか、「働きたくない」という学生に、たまに出会うことがある。

 

はなから仕事に意義を見出せない若者は、男子にも、女子にもいる。彼ら、彼女らは、とても素直な良い学生だ。大学で高い教育も受けている。就職先がないわけでも、才能がないわけでもない。しかし、「その気」がない。

 

「働きたくない」というあなたへ。仕事をもたないならそれでいい、と思うのだが、では、「自由」はどうやって手に入れるのだろう? 自分の次なる「居場所」は、どう考えているのだろう?

 

就職は、社会と自分を「へその緒」で結ぶ行為であり、就活は、自分の次なる「居場所」の、設計図を引くような行為だと私は思う。

 

「仕事」は、あなたと「社会」をつなぐ「へその緒」になる。どこか「降りた」ような気持ちのままで、就職を決めてしまっていいのだろうか?

 

「働きたくない」ならそれでいい。だけれど、自分が自立して生きていくために、「金」と「愛」は要る。

 

この「金」と「愛」を自分で創意工夫したり、汗を流して、自分の手で得て生きていけるというのが、私にとっての「自由」だ。

 

あなたにとっての「自由」をどう得ていくか? 最低限必要な、社会との絆をどう築くか? 卒業後の次なる居場所をどう築いていくか? 働きたくなくても、その設計図だけは、楽しく引いてほしいと私は思う。

 

 

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