「辛いか?」
格子の向こう側にいる看守が私に問いかける。身体を鎖でがんじがらめにされた私は、たしかに辛そうに見えるかもしれない。
しかし、私は首を横に振る。事実、辛くはなかったのだ。ただ、こうなってしまっても仕方がないという虚無感だけが私の胸中を支配していた。
「ふん、覇気のない瞳だ。俺はそんな目をしたやつをよく見るよ」
そいつらは全員、いずれはここからいなくなるのさ。看守はにやにや笑いながら言う。その口調には侮蔑のような感情が込められているようだった。
「格子の内側は楽だろう。大人しく俺たちの言うことさえ聞いていれば生きることに不自由はないからな」
まぁ、もっとも、それを生きていると表現するかはわからねぇけどな。火憎げに笑う看守が皿に乗った飯を差し出してくる。残飯のような汚い食事だった。私は手をつけない。
「家畜の豚を見て、あんたは生きているって思うか? 食って、寝るだけの生活をして、誰に褒められるでもなく、最後には食い物にされるだけの存在に」
私は首を振った。そして、看守が言わんとしていることも理解した。彼は私を蔑んでいるのだ。お前も豚と同じだ、と。
「変わらねぇ毎日ってのは良いもんだ。慣れてしまえば地獄は天国になる。釜茹でも毎日入ってりゃ、風呂と同じだ」
ましになることはないが、それ以上落ちることもないからな。飯も出るし、寝る場所もある。良い家だろう。看守は皮肉を込めて笑うだけだ。
「……さっきから、何が言いたい?」
私が聞くと、彼は笑みを浮かべる。楽しげな笑みには嗜虐的な色が見えた。彼の顔はまるで蛇のように狡猾だった。
「なあ、あんた、ここから逃げ出さねぇか?」
看守の言葉に、私は思わず目を見開いた。いやぁ、実は俺、『プリズンブレイク』に憧れてんだよ。なんて洒落めかしているが、目は笑っていない。
「……無理だ。私にはその資格がない」
私は首を横に振り、彼に答えた。私は罪を犯してここに来た。ならば、その贖罪をするのが私のやらねばならない義務なのだ。私が主張すると、彼はつまらなさそうに笑みを消した。
「資格、ね。人はどいつもこいつも資格で判断するのさ。まったく、嫌になるよなぁ」
看守はふんと鼻で笑うと、一冊の本を格子の隙間から投げ入れた。『毎日を好きなことだけで埋めていく』と書かれている。
「あんたが縛られて喜ぶようなやつなら読まなくても構わねぇさ。だが、ちょっとでもそのタイトルに惹かれるなら、開いてみろよ」
好きなことだけで。私は騒がしい鼓動の音を聞きながら、一ページをめくった。
自分を縛っているものを脱ぎ捨てる覚悟はあるか?
私は読み終わった本を閉じた。頭の中では自分がやりたいことが浮かんでは消えていく。しかし、それは嫌な気分ではなかった。
顔を上げると、看守が相変わらずにやにやと皮肉げに笑いながら、私を見ていた。
「あんたは、ここに書かれている看守なのか?」
「いいや、だが、俺もまた、あんたの一部だってことだ」
そう、か。私の中にある考えが浮かんでいた。それが正しいのなら、きっと、彼は看守なんかじゃなくて、私の。
「……いいや、だめだ。私は罪を犯した。その贖罪だけは果たさなければならない」
「あんたは、何の罪を犯したんだ?」
「私は……」
私は、何をしたのだ? いくら思い出そうとしてみても、私は罪を思い出すことはできなかった。愕然とした私を、看守は見下ろす。
「思い出せねぇんだろ。そりゃあ、そうだ。だって、あんたは罪を犯したわけじゃない。自分からここに入ったのさ」
「自分から?」
看守は頷く。罪じゃあないが、あんたは自分の心の中の憲法を犯した。それで、入る必要もないのに自分から入っただけなのさ。
「ほら、よ」
看守は銀色の輝きを差し出した。鍵だ。きれいな鍵が、私の目の前に差し出されている。
私は身体を締め付ける鎖を引っ張った。頑丈だったはずの鎖はいとも簡単に外れて床に落ちた。
私は心ここにあらずといったように、ふらふらと鍵に向かって手を伸ばす。看守、いや、格子の外にいる私の未来がにやりと笑った。
好きなことを生き生きとしていたら自然と道は開けていく
「本当は好きなことをやって生きていきたいけど、できない。どうしたらいいの?」
その理由は、「やった先に大変なことが待ち受けている」という思い込みがあるからだ。しかし、それはただの勘違いでしかない。
では、なぜそんな勘違いが起こるのか。それは心の中に自分だけの憲法を持っているからだ。憲法は周りからの教えや経験によって生まれる。その憲法を破ると大変なことになると思っているのだ。
憲法を司るのが「看守」である。彼は自分の頭の中だけに存在し、憲法から外れた行動を取ることを止めようとする。
それがあなたを縛る鎖の正体である。
しかし、それがわかったからといって、その鎖を打ち破るのは容易ではない。今までやりたいことができなかったあなたは、やりたいことを思い浮かべることができないからだ。
だから、まずは「やりたいこと」ではなく「やりたくないこと」から考えてみる。
自分のやりたくないことを思い浮かべて、ちょっとずつ、それをすることを意識して減らしてみることだ。
そうすると、世間はあなたをダメ人間として見始めるだろう。しかし、ダメ人間であることは決して悪いことではない。
「ちゃんとしなくちゃ」という意識を緩めるとこで、心に余裕が生まれ、自分が本当にやりたいことが見えるようになるのだ。
そうしたら、あとは自分の好きなことをやるだけ。
自分の好きなことを生き生きとやっていたら、自然と道が開かれていく。魅力的な熱量で好きなことをしていると、人もお金もついてくるのだ。
自分がいつもワクワクして輝いていられるよう、自分と周りを信じて、心から喜びを感じることしかしない、そう決める。
「毎日を好きなことだけで埋めていく」とは、つまるところ、こういうことなのです。
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