僕は絶望した。僕たちの未来にあるのは果てしなく長い命。その長い階段は、いつになったら終わりになるのかすら、わからない。
「人生100年時代」
現代はそう言われている。医療の発展により、かつては50年生きられれば大往生だったものが、今や100才まで生きるのが当然のようになっている。
医療の発展はもちろん良いことだ。寿命が延びるのも、一見すれば良いことのように思える。
しかし、それによって思いにもよらない新たな問題が長寿大国と呼ばれる日本を覆い尽くしている。
少子高齢化。老人が増えたことにより、従来の日本のライフスタイルの根幹だった年金制度が成り立たなくなった。
長年続けた仕事を円満に退職し、残りの人生を年金で優雅に生活。そんな夢がもう、見られなくなっているのだ。
今は老人でも働かなくてはならない。定年を迎えても、残りの人生は40年もある。年金だけでは到底賄うことができない。
そんな未来が見えているのに、僕はこれからこの長い階段を登っていかなければならないのだ。うんざりする。ため息が出る。
いったい長く生きることに、何の意味があるというのだろう。働いて、働いて、働いて、そして命尽きる。誰もが夢想する人生は、所詮簡略化すればこんなもの。
それならば、僕はとっとと人生を終えてしまいたかった。けれど、今の日本は途中下車すらも許されない。
まさしく長生き地獄だ。生きるために働いて、寝たきりになったら、管をつけられて息をするだけの置物になり果てる。
しかも、それは、医療が発展すればするほど、長く延びていくのだ。ぞっとする。僕たちが老人になる頃には、もっと寿命が長くなっているかもしれない。
そう気づいた途端、僕はもう、何もかもがどうでもよくなってしまった。仕事を辞めて、抜け殻のような日々を送る。
いっそこのまま、とも思う。けれど、心に反して身体は生きようとする。豊かになった今の世の中は、幕を引く言い訳すらも与えられない。
どうしようか、と思う。ふと思い立って図書館に立ち寄ってみた。本棚をぼんやりと眺める。
おや、と思い、一冊の本を手に取った。随分と長いタイトルの本だ。『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書』と書いてある。
試しにと思ってページをめくってみる。「人生100年時代」と、あった。そこに書かれていたひと言が、僕の心を揺らした。
「学ぶことをライフスタイルにする」
働くではなく、学ぶ。人生を通してずっと学ぶ。学ぶことを、生きがいとする。それが僕の頭に刻まれた。
そうだ。それこそが、やることなのかもしれない。学び続けること。新たなことを学び、得た知識やスキルを活かしてまた別の何かを学ぶ。
人生を学ぶ場にするのだ。けれど、それだけじゃあ、だめだ。学んだことは、誰かに教えてこそ生きる。
学ぶこと。そして、教えること。それこそが、これから自分がやることなのだと、僕はその本を読んで気付かされた。
僕はその本と合わせて、他にも何冊か借りて図書館を出る。帰りに求人誌も持ち帰った。
さっきまでの何もやる気が出ない倦怠感と無能感が嘘のようだった。胸の奥からふつふつと、何かをやらねばという熱が湧きたっていた。
そうだ、やりたいことを存分にしよう。失敗しても、それすらも糧にしよう。時間はいくらでもある。人生は、嫌になるほど長いのだから。
人生100年時代の生き方
「人生100年時代」という言葉を耳にしたことはないでしょうか?
人生100年時代が到来すると、これまでの「人生80年時代」から、その人生計画を根本的に見直す必要が出てくるでしょう。
これまでは、一流と言われる大企業に就職することで、高年収のレールに乗ってしまえば安泰という人生のロールモデルがありましたが、現在は法人よりも個人の寿命の方が長い時代です。
これまでのような人生計画は、長さにおいても働き方においても意味を成さない時代になると思います。では、これからの時代、どのように生きていくべきなのでしょうか。
重要になるのは、「新しい学び方」、そのための心構えを身につけることです。それと同時に、教える側にも、「新しい学び方」を伝えるための心構えが必要です。
人生は学校を卒業してからの方が長いのです。そう考えると、学ぶことをライフスタイルとして、新しい知識を取り込めるか、新しい価値を提供し続けられるかがカギになるでしょう。
この本では、人生100年時代において、どうすれば社会に出た後も学ぶ意欲を持ち続ける人を育てられるのか、新しい時代の学び方について伝えられたら、という思いで筆を執りました。
この本が、これから先も学び続けたいというモチベーションにつながり、本質的な学びの手法を身につけようとする人、今の社会が生きづらいと思っている人にとっての一助になれば幸いです。
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