彼らはネコである。しなやかな身体、円らな瞳。人間とともに生き、かといって犬のように服従するでもなく、我らの良き隣人として、彼らは今日も呑気に欠伸をしている。
吾輩は子どもの頃からネコをこよなく愛していた。しかし、父と母は犬派であり、吾輩のネコ愛は、身近な人に理解されることはなかった。
道端で見かけるネコがどれほど愛おしかったか。足にすり寄ってこられた時などは、心臓が止まるかと思うほど嬉しかったものである。
とはいえ、派閥違いの両親の弾圧によって、我が家にネコを迎えることはできぬ。仕方がないから画像や動画で心を慰める日々である。
そんな毎日を過ごしていたが、ある時、一冊の本と出会った。ジョン・ブラッドショー先生の『猫的感覚』という本である。
表紙に載せられている可愛らしいネコの写真に、私の心は一瞬にして奪われた。この本は読まねばならぬと、吾輩の血が騒いだのだ。
いわく、動物行動学からネコの心理を探ってみよう、という趣旨の本であるが、読んでみると、どうやらそれだけではないらしい。
ネコがいかにして人間と共に生きるまでに至ったかという歴史、ネコの行動がどんな意味を持っているか、そして、これからのネコの未来。
その本はまさに、ネコのためだけの、ネコの本であった。何より、言葉のひとつひとつに、著者の深いネコ愛が込められているかのようである。
そもそも、ネコとは何ぞや? 吾輩は、その本に記されている根源的な疑問に思い至った。
我らの愛玩動物か。ペットとして多く飼われている動物。道端でもよく見かける、自由気ままなイキモノ。
我々が彼らと過ごしてきた時間は吾輩が生を享けたその時よりも遥かに長く、その分だけ彼らは我々人間にさまざまな顔を見せている。
しかし、忘れてはならないのは、彼らは我らの友であり、隣人ではあっても、道具でもなければ下僕でもないということである。
かつて、ネコはネズミを狩るハンターとして愛用されていた。ネコと人間の歴史はそこから始まった。
ネコの本来の姿はハンターである。しかし、現代の人間にとって、彼らの狩人としての姿は嫌われるようになっていった。
愛玩動物。狩人。相反する二つの顔を持つ。それがネコである。何よりも勘違いしてはならぬのは、彼らは人間のために存在しているわけではないということだ。
人間ときたら、なんでもかんでも自らの思い通りになると思っている。しかし、長い歴史の中で、ネコは人間の手の中からいつだってするりするりと抜け出してきた。
狼を手なずけて犬を生み出した人間であっても、ネコだけはどうにもならなかった。それはひとえに、ネコの誇り高さがゆえである。その身に宿る野生が、服従を拒否したのだ。
その姿をこそ、吾輩は美しいと思うのだ。ネコはどこまでも自由で、何者にも縛られない。ただ気の赴くままに道端に寝転び、呑気に欠伸をかますだけである。
彼らが我々の手に負えないからこそ、我々は彼らにどうしようもなく心惹かれるのだ。その愛くるしい魔性に。
そして吾輩もまた、ネコの魔性に魅入られたひとりである。ああ、願わくば、生まれ変わったならば、吾輩は猫になりたい。そう切に願う。
ネコの本質とは
ネコとは何か? ネコは人間の間で初めて暮らすようになって以来ずっと興味深い存在だった。
ネコはとらえどころがない。人間はネコをありのままに受け入れるが、ネコはどういう間柄なのかを決してはっきりさせようとはしない。
我が家にはたくさんのネコが暮らしている。そして”飼い主”という言葉はこの関係にふさわしくないと思うようになった。
ネコとの個人的な関わりだけで、ネコの本当の姿が自然に学べたとは感じられずにいる。一方、科学者たちの研究は、ネコの本質を明らかにする手がかりを与えてくれた。
この本は私たちが知っていることと、これから発見しなくてはならないことを確認するのに絶好の場になるだろう。なによりも重要なのは、ネコの日々の生活をよりよくするために、その知識を利用できることだ。
ネコの考えを理解することは、ネコを”飼う”喜びを損なうものではない。ネコについて知れば知るほど、私はネコと暮らせることにいっそう感謝するようになっている。
ネコにとって、安定した社交環境だけでは充分ではない。ネコたちは安定した物理的環境を提供してもらうことも、飼い主に期待している。
住み込みの害獣駆除係から相棒である同居者へというネコの変身は、最近のことで、しかも急激な現象だった。
ネコ自身は捕食者の資質が巻き起こす論争など眼中になく、他のネコとの関わりで生じる問題で頭がいっぱいだ。
この本を執筆した理由の一つは、今から五十年後の標準的なネコはどんなふうになっているかを推定するためだ。
ネコの未来を安泰にしたいなら、ネコを飼うこととネコを繁殖させることに、もっと配慮の行き届いたアプローチが必要なのだ。
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