台湾のコロナ対策に学ぶ『オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学』早川友久


オードリー・タンという人物を、知っているだろうか。台湾のデジタル担当の政務委員であり、「台湾のコンピューター界における偉大な10人の中のひとり」とすら言われている人物である。

 

彼女の名を一気に有名にしたのが、今回のコロナ禍であった。台湾は発生源である中国とごく近い場所にありながら、抑え込みに成功している。その成功の立役者こそが、彼女であるらしい。

 

私が彼女のことを知るきっかけとなったのは、一冊の本である。『オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学』という表題で、著者の早坂友久先生は、台湾在住の日本人の方なのだという。

 

とはいえ、この本はオードリー・タンの功績や、いわゆる伝記のようなものとは違っていた。注目していたのは、どちらかというと、その方法である。

 

この本は、台湾のコロナ対策から、テクノロジーの有用性と今後訪れるであろうデジタル社会への移行の必要性を説いている一冊なのだ。

 

台湾のコロナ対策の成功の鍵は、「マスクマップ」というものを開発したことにあるという。その発起人こそがオードリーだ。

 

どこの店舗にマスクがどれだけあるか。民間の情報と、政府がすでに保持していた情報を統合し、公開したのである。それをアプリ化したものが、「マスクマップ」というわけだ。

 

このアプリは不具合や問題点なども多く指摘されたが、プログラマーたちがそれを都度改善し、更新していった。そのおかげで、台湾の人たちはマスクを効率的に調達し、コロナの感染予防をいち早く行うことができたのだ。

 

パンデミックを防ぐために感染者には厳しい隔離政策を施したことも、コロナの抑え込みに成功した要因として挙げられている。国民に無理を強いることになっても、誰もが必要だと感じていたからこそ、それが可能だった。

 

一方で、日本のコロナ対策は、当初から上手くいっているとは言いがたかった。今もなお、国内の感染者は増え続けている。

 

台湾と日本の、何が違うというのか。私が思うに、その根本を辿っていけば、「政府と国民がどれほど近くに寄り添えるか」というところにあるのだろう。

 

オードリー女史は「政治の透明性」を心がけているという。実際、「マスクマップ」の一件についても、その片鱗が見て取れる。

 

政府は自分たちが持っているマスクの在庫状況を惜しげもなく公開し、デジタルに不慣れな人でも適応できるよう策を講じていた。だからこそ、プログラマーたちは信頼に応えて対応し、隔離政策にも必要性を認めて応じている。

 

対して、日本はどうだろう。国民の間には政府への疑心が蔓延している。だからこそ、緊急事態宣言の必要性を理解せずに遠出し、ワクチンに対してもデマが飛び交っていて、もはや何が本当かわからない。

 

国民の反発を恐れるあまりに厳格な抑え込み政策を実施できず、今や緊急事態宣言の危機感すら薄くなってしまった。果ては、閣僚までもが危機感を失って食事会などを開いている現状である。

 

これまでの国民に対する不透明な政治の結果が、今の状況を生み出しているように思う。政府への不信はコロナ禍になってからではない。今までの不誠実な政治が招いたのだ。

 

出される政策を信じないために国民は言うことを聞かず不満ばかり募らせて、政府は感染症を抑えたくとも反発を恐れて思い切った政策をとることもできず手ぬるい気休め的な政策に甘んじるしかない。もはや泥沼の様相である。

 

台湾のコロナ対策の成功は、オードリー・タンの名を一気に押し上げた。しかし、彼女ひとりの手柄というわけではない。

 

台湾という国家そのもの、政府と国民が互いに協力し合って立ち向かったからこそ、彼らはこの世界的危機に対応することができたのだ。いわば、彼らの誰もが成し遂げた偉業なのである。

 

私たち日本人は、政府と国民が、互いに不倶戴天の敵であるかのように反発し合ってばかりだ。台湾を真似する、というわけにはいかないだろうが、彼らの政府と国民の関係性から、もっと学んだ方がいいかもしれない。

 

 

未来へのヒント

 

私が初めてオードリーに会ったのは2020年6月のことだ。台湾では、新型コロナウイルスの脅威への対策が年初から講じられ、春先には国内での感染拡大が危ぶまれたものの、結果的に抑え込みに成功していた。

 

発生源とされる中国と日本以上に地理的に近く、経済的にも密接な関係があり人的往来も多い台湾が、なぜコロナ対策に成功したのか。

 

そのカギを握る人物として一躍、日本、いや世界中の人から注目を集めたのが本書の主人公、オードリー・タンだった。

 

先に申し上げておくと、本書の目的はオードリーがデジタル担当政務委員として貢献したことや、考えていることを紹介するためだけのものではない。

 

オードリーが発する言葉や理念から、台湾のデジタル革命がうまく進んでいることや、台湾社会が強いポテンシャルを持っていることは、自分なりに改めて深く理解できた。

 

そこで私が考えたのが、オードリーと台湾の成功例を手本として、日本がデジタル革命を成功させ、希望の持てる”未来”をつくりあげるために絶対的に必要なエッセンスを、日本の皆さんにわかりやすく紹介しようということ。それが本書の出発点なのである。

 

今回のコロナ禍を通じて、日本が台湾に学ぶべきものはたくさんある。その代表的なものが、政府や社会のデジタル化であり、それを象徴する人物がオードリーなのである。

 

オードリーの言葉ひとつひとつに、日本が復活するための「未来へのヒント」が隠されている。この英知を、どうしても日本の皆さんに伝えたい。本書は、そんなオードリーと台湾に学んでほしいと心から願って書いた一冊である。

 

 

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