嘘のようなホントのこと『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』坪田信貴


 誰もが私のことをバカだと言った。そんなことは絶対に無理だと。けれど、絶対に無理だと言っていたことがもしもできたなら、それはとてもおもしろいんじゃないだろうか。

 

 

 『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』、通称『ビリギャル』を私が知ったのは、受験勉強真っただ中のことだった。

 

 

 けれど、その頃、私はその本を読むことはなかった。私が読んだのは、それから何年も経った後の、社会人になってからのことだった。

 

 

 つくづく後悔したものだ。というのも、作中で英語や日本史の勉強のコツが書かれているのは、当時からすれば役に立てることができたのでは、と思うから。

 

 

 もちろんそれだけではなくて、その本には高い目標に向かって頑張る姿が受験の頃の自分と重なったからだ。

 

 

 さやかは学年でもビリの、いわゆる不良だった。学校の教師からは劣等生のレッテルを貼られていて、何度も停学になっているほど。

 

 

 父との関係は悪く、母と父は子どもの教育で衝突してからは冷戦状態になっており、家庭環境も良くはなかった。

 

 

 そんな彼女だけれど、『ビリギャル』の作者である塾の先生は彼女と初めて会った時から慶應の受験を促していたらしい。

 

 

 素直に人の言うことを受け入れる性格。恥を怖れず、間違えることを怖れないこと。歴史や物語に共感することができる感受性。さやかは最初からそれができていた。

 

 

 勉強ができる頭の良さだとか、テストの点数の高さだとか、私はそれが大切なのだとずっと信じていたけれど、そんなことは必要ないんだなと読みながら思った。

 

 

 彼女がとうとう慶応大学の受験に挑む時には思わず手に汗を握って、合格した時には泣きそうになったものだ。感動系の小説ですら泣きそうになったことなんてほとんどないのに。

 

 

 ああ、私も彼女と同じ年の頃に、この本と出会いたかった。読み終わった私がまず考えたのは、そんなことだった。

 

 

誰にもできないことを

 

 学生の頃の私は、とにかく諦めが早く、頑張るということをしない人間だった。

 

 

 成績は悪いわけではなかったけれど、中の上あたりでうろうろしているのがいつものことだった。

 

 

 高校も大学も、頑張ることなく、自分の成績で入れるという見込みがあるところを選び、無理そうなところはすぐに諦めてきた。

 

 

 私は今までの人生で一度も頑張ったことはない。私は自分の中でそれをいいことだと思っていた。

 

 

 けれど、それはただ、逃げていただけなのだ。身の丈に合ったことを望むと言えば聞こえはいいけれど、つまりは最初から諦めていることと同じだった。

 

 

 そして、内心で頑張っている姿をバカにしてすらいたと思う。さやかのような人間が側にいたなら、私は彼女のしていることを笑っただろう。絶対に無理だと。

 

 

 でも、頑張るというのはかっこよくて、美しいのだということを、この物語は私に教えてくれた。

 

 

 絶対に無理だなんてことはないのだ。事実、彼女は日本地図の大まかな形が書けなかったようなところからスタートして、見事に慶應大学への合格を果たしたのだから。

 

 

 この本について意外だったのは、この本はさやかがどんな風に頑張ったかを描いただけの物語じゃないということだ。

 

 

 彼女の母親がどういう育て方をしたのか。そして、彼女のような子どもを教えるにはどうすればいいのか。

 

 

 この本はただ頑張るための本じゃない。どうやって育てればいいかを教える本でもある。

 

 

 将来、きっと私もいつかは子どもを持つだろう。そうしたら、またこの本を読んでみたいと思う。

 

 

 我が子を慶應に行かすため、ではない。自分の子どもに幸せになってもらいたい。誰の親もきっと、そのことを望んでいるから、この本を読んでほしいと思う。

 

 

彼女の努力が起こした奇跡

 

 それは学校が夏休みの時期。その女子高生の髪はあざやかな金髪で、パーマでゆるくきれいに巻かれていました。

 

 

 まさに「ギャル」以外の表現は見つかりません。でも、僕のその後の印象は、実は悪くありませんでした。

 

 

 最初に僕がいつもするように「よろしくお願いします」と挨拶をすると、その子も挨拶を返してきたからです。

 

 

 彼女は私立女子校に通っている高校二年生。中学から高校までエスカレーター式に上がれる学校なのですが、素行が悪くてそれも危うい、かといって外部進学するほどの学力はない。

 

 

 そんな理由で、知人から塾の評判を聞いた母親に連れられ、こうして入塾面談に来たということでした。

 

 

 当時の彼女の学校の成績は、端的に言うと学年ビリ。偏差値は30以下。ただ、僕は彼女がぱっと挨拶を返したのを見て、この子は素直だ、と感じていました。

 

 

 さやかちゃんは見た目のドギツサに反して、挨拶が最初からできる子でした。だから僕は「行ける」と踏んだのです。

 

 

 そこで、彼女にまずは「志望校どうする?」と聞いてみました。「よくわかんない」という返答でした。「じゃあ、慶應にする?」と聞くと、「さやかが慶應とか、超ウケる!」と笑いだしました。

 

 

 すごい可能性を秘めた愛すべきアホだ、と思ったんです。この子は、見た目と違って素直だ、これなら絶対大丈夫、相当行けるぞ。

 

 

 こうして、偏差値30、学年でビリだった女の子、さやかちゃんが、慶應義塾大学への現役での合格を目指すことになりました。

 

 

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