残酷な愛の物語『ノルウェイの森』村上春樹
ビートルズの『ノルウェイの森』が誰もいない部屋に流れている。私は広すぎるソファに寝転んで、ぼんやりとそれを聞いていた。
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
ビートルズの『ノルウェイの森』が誰もいない部屋に流れている。私は広すぎるソファに寝転んで、ぼんやりとそれを聞いていた。
あれは、いつのことだったろうか。私は失くしてしまった思い出を手繰り寄せる。
私は学校の屋上に立っていた。吹きすさぶ秋口の強い風がコンクリートに寝そべる土埃を舞い上げる。
我が校には探偵部なる部活が存在する。所属している生徒も顧問の先生も何者かわからない、半ば都市伝説じみた存在である。
1969年。かつて、活力溢れるこの年は、果たしてどんな出来事が起こったのだろうか。
「なあなあ、これって絶対UFOだよ、なあ!」
彼は残酷な男だった。
私は疲れた身体を引きずって帰路についていた。雨上がりの水たまりに映る私の顔はまるで幽鬼のように顔色が悪い。
私は額縁の中に収められている写真をじっと見つめた。写真家であったという祖父が撮ってきたのだという写真だった。
先生が壇上でよくわからない数式を説明している。俺は面白くない学校の授業を右から左に聞き流しながら考えていた。