「ざまぁ」とは、「他人の不幸は蜜の味」を表す言葉である。「ざまぁみろ」の略語であり、ネットでは多用されている。
ネット小説界隈では、すでにひとつのジャンルとして確立されている。パーティー追放ものや悪役令嬢ものが多い。
苦しい目に遭っていた主人公やヒロインが幸せを手にし、対照的に彼らを苦しい目に遭わせていた連中がひどい目に遭ったり悲惨な末路を迎えたりする。
その瞬間のカタルシスが与えてくれる快楽たるや、何度味わっても飽きが来ない。私が小説投稿サイトでざまぁを漁るのも、その快楽を味わいたいがためである。
そんな中、とあるひとつの作品を見つけた。その特徴的なタイトルは嫌でも目につく。その作品を、『スタイリッシュざまぁ』という。
私はさっそく読んでみることにした。ざまぁ好きとして、果たしてタイトルに「ざまぁ」を掲げるこの本は、私にどんな甘美を与えてくれるのだろう。
形式としては、少し異なるが、悪役令嬢モノに近い。貴族であるエンバース家の次女、ルルリアが物語の主軸となる人物である。
彼女には姉がいる。カレリアは父や母によく似た恵まれた美貌を持っている。対して、ルルリアは家族の誰とも似ていなかった。
両親は美しいカレリアを溺愛し、ルルリアを冷遇した。カレリアもルルリアを自分の都合のいい道具のように扱うようになった。
両親に振り向いてほしいルルリアは必死に努力をした。しかし、その努力が報われることはない。
そんな中、とある一冊の物語を、彼女は知る。それは、内容からしておそらく「シンデレラ」だろう。
彼女はそこで初めて、「ざまぁ」の甘美な味を知った。そして、自分の不幸な環境を、むしろざまぁに最適な環境だと思うようになる。
その時から彼女は行動を開始した。姉のカレリアに最高のざまぁをするため。彼女の復讐劇は、こうして幕を開けたのである。
その作品は今まで私が読んできたざまぁ小説とは一線を画するものだった。「ざまぁ」は結果的になってしまうもので、狙ってするものではない。
しかし、なるほど、おもしろかった。暴走列車のように走り去っていくスピード感からの、クライマックスのカタルシスは予想するに容易い約束された結末。
それなのに、そこには最高のカタルシスがあった。決められた場所まで、一気に突っ走ったような感覚を覚える。私は貪るようにざまぁの快楽を味わった。
とはいえ、設定のシリアスさとは裏腹に、ざまぁにありがちな恋愛の色もほとんどなく、思わず笑ってしまうようなコメディであった。
この作品は、魔王と覇王と胃薬と変態の物語である。なお、作品の約半数を変態が占めている。
自分の優位を信じて高笑う奴らの顔面を足蹴にする、そんな快楽を、味わってみたいと思いませんか?
完璧な「ざまぁ」を目指して
ルルリア・エンバースは、とある貴族の家の次女である。彼女は現在、藪の中に潜み、目の前の光景をにやにやと眺めていた。
彼女が藪の中に隠れている理由は、目の前で自分の姉が繰り広げている恋愛模様を見るためである。ルルリアと違い、美人として有名な母にそっくりな姉。
会話や表情、ボディータッチを含め、男を捕らえる手腕は歴戦の風格を感じさせる。話のダシとして、さりげなく身に覚えのない行為をルルリアに押しつけている姿だって、いつものこととしか思わなくなった。
自身の姉を抱きしめている婚約者を、ルルリアは呆れたようにただ見つめる。哀しい気持ちになるかな、と思っていたがまったく堪えていない。
十五歳の時に出会った彼とは、婚約者という立ち位置ながら友人のような関係であった。妹の評価を話す姉の言葉を、否定せずに頷いている姿を見ても、傷ひとつつかない。
ルルリアの父親も母親も姉も、みんな整った顔立ちをしているのに、その妹のルルリアは美貌を受け継がなかった。おかげでルルリアは、両親からほとんど見放されてしまった。
両親から冷遇される妹は、お姫様だった姉にとって、これほど見下せる存在は他にいなかった。そんな風に、幼い頃から苦しい生活を強いられたルルリアは、見事にグレたのだった。
彼女だって頑張ったのだ。貴族の子女として学ぶためにいろいろと努力をした。幼子であったルルリアは、愛情をもらうために必死になって取り組んだのだ。それなのに、認めてくれなかった。
彼女のお気に入りの絵本は、王子様と虐げられてきた身分違いの娘によるお話である。簡単に言うと、シンデレラストーリーだった。彼女が大好きだったのは、悔しがる周囲の反応だった。
冷遇していた娘が、まさかの王妃になってしまい、立場が逆転して媚びへつらう両親の反応に。いじめていた姉が、恋した王子に失恋し、虐げていた妹に奪われる様に。
何この、私の人生を薔薇色にするためのバイブルは! と絵本製作者から抗議を受けそうな感想を抱きながら、ルルリアは何度も読み返したのだ。
はっきり言えば、ルルリアは性格が悪かった。しかし、一途なまでに目標を目指す彼女の姿は、言葉だけ取れば健気な少女だろう。
彼女は、ただの貴族の子女ではない。ただの次女ではない。ただの哀れな小娘ではない。
「待っていなさい、私を見下す者どもよ。あなたたちを絶望の底に導いてあげるわ。私の清々しい『ざまぁ!』のためにねっ!」
ただの魔王だった。
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