闇の組織も正義の味方も全部ニセモノ!『世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)』黒留ハガネ/クロル


「なあ、学校にさ、もしも悪党が入ってきたら、どうする?」

 

 

 僕は友人の方に視線を向けないまま、想像してみた。授業中の教室に飛び込んでくる黒ずくめの男。手にはナイフを持っている。

 

 

「……そりゃあ、逃げるかな。怖いし」

 

 

「抵抗したり、クラスメイトを助けたりはしねぇの?」

 

 

 黒ずくめの男が女子にナイフを突きつけている。女子が怯えているのを見ていられず、咄嗟にかばう自分の姿。幼稚な英雄願望。僕は心の中で苦笑した。

 

 

「……無理だよ。僕は隅の席でじっと存在感を消すかな」

 

 

 僕が言うと、彼は呆れたような口調になった。

 

 

「相変わらずだよな、お前は。なんか、こう、ヒーローになりたいとかないの?」

 

 

「ヒーローなんてなれないよ。せいぜいモブだよ、僕はね。まあ、そもそも悪党が学校に侵入するなんてないけどさ」

 

 

「ないってんなら作ればいいんじゃあないか」

 

 

 彼は僕の手元に一冊の本を置いた。赤いドレスを纏った妖艶な女性が表紙に描かれている。『世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)』。随分と長いタイトルだ。

 

 

「悪党が学校に襲いに来る、なんてありやしねぇさ。だけどさ、ほら、マッチポンプってあるだろ」

 

 

「自分で火をつけて、自分で消すってやつ?」

 

 

「ああ、そう、それ。お前はモブなんかじゃあねぇよ。俺がそうさせないさ。そうだな……

 

 

 彼に視線を向ける。自分に向けられたナイフの輝きが僕を突き刺した。

 

 

「お前は第一被害者って配役でどうだ?」

 

 

舞台裏のおもしろさ

 

「そんな、どうして」

 

 

 僕はナイフの切っ先を向けてきている彼を呆然と見つめた。その瞳には燃えるような決意が宿っていた。

 

 

「なあに、言ったろ、マッチポンプだよ。俺自身が非日常を作るんだよ」

 

 

 彼はにやりと笑みを浮かべた。歯を剥きだした、獣のような凶暴な笑み。

 

 

「くだらねぇと思わないか。学校で面白くもない勉強してよ、でもって、将来は好きでもない会社で一生を働くんだろ」

 

 

 ああ、つまんねえなあ、つまんねえなあ、つまんねえなあ。彼の瞳には危険な色が宿っている。今すぐにでも、突き刺してしまいそうな。

 

 

「誰かが行動しなくちゃならないんだよ。じゃなきゃあ、人生は楽しい方向に動かないんだ」

 

 

 だからよお、俺の楽しみの犠牲になってくれや。彼はそんなことを言った。

 

 

「……いやだ」

 

 

「あん?」

 

 

「いやだよ、そんなの」

 

 

 僕は首を振って、彼のナイフの切っ先に自分の指を突き立てた。刃が僕の指を切り裂く。

 

 

 なんてことはなく、刀身の半ばほどでナイフは、チャコ、と間抜けな音を立ててへこんだ。

 

 

 凶暴な笑みを一転させて楽しそうに笑っている彼に、僕は呆れた視線を向けた。

 

 

「なんだ、気づいていたのかよ」

 

 

「君の考えそうなことくらいお見通しだよ」

 

 

「あーあ、おもしろいこと、起こらねえかなぁ」

 

 

「起こらないから起こすんだよ」

 

 

 僕は彼に笑いかけた。お、と彼は驚いたような声を上げた後、愉快げに笑った。それは共犯者の笑みだ。

 

 

「僕に考えがあるんだ。この日常を、おもしろくしよう」

 

 

非日常に憧れる人たちのために非日常を演出するマッチポンプ式ファンタジー

 

 人間、誰しも一度は超能力願望を持ったことがあると思う。テレポートが使えたら。透明になれたら。

 

 

 高校からの帰り道、友人とそんな雑談をしながら帰宅したせいだろうか。俺はフローリングに食べかすが零れているのを見つけ、なんとはなしに念力で拾った。

 

 

 数泊置いて自分の手の中に煎餅の欠片が収まっているのに気づき、まじまじと見る。床を見ると煎餅の欠片は落ちていない。

 

 

 俺はある日突然、超能力に目覚めた。使えるようになった、というか仕えた原因には全く心当たりがない。

 

 

 わけわかんねぇ。十七年生きてきてこんなわけわからん事態に陥ったのは初めてだ。

 

 

 俺はパソコンで調べてみる。超能力に目覚めたのは自分だけではないかもしれないと考えたからだ。

 

 

 しかし、ろくに参考になるような情報は出てこなかった。そこで俺は、念力に目覚めたのは史上俺一人か、それとも国家規模で秘匿されているのではと考えた。

 

 

 俺はネットで探すのをやめ、実践的な方法で自分の念力を調べてみることにした。いろいろなものを動かしてみる。俺はこの念力をネンリキンと名付けた。

 

 

 翌日、俺を襲ったのは念力痛だった。念力を使わなければ特に痛くもなんともないので、この日は無理をせずに安静にしておいた。

 

 

 さらに翌日、念力を試してみると、最初の頃よりも成長していることに気がついた。とはいえ、それは鉛筆一本動かせる程度のものだが。

 

 

 俺は悟った。超能力が欲しかったんじゃなくて、超能力で非日常に巻き込まれたかったんだ、と。

 

 

 大学生になり、念力でできないことが少なくなっていた頃、俺は悟らざるを得なかった。この世に超能力者は俺しかいない。しかし、俺は念力を鍛え続けた。

 

 

 高層ビルすら崩すことのできる力を使えるようになった大学三年生を過ぎても、本当に何も起きることはなく、無事大学を卒業し、中規模のベンチャー企業に就職した。

 

 

 このままでいいのか? 俺の人生。大して好きでもない仕事をして、上司に使いつぶされる。

 

 

 自問を繰り返し、二年間の社会人生活で消えていた心に灯がともる。

 

 

 学生時代の俺には思いきりが足りなかった。逆転の発想だ。

 

 

 非日常がやってこないなら、俺自身が非日常を作ってやる。俺にはそれができる力がある。

 

 

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