社会の欺瞞や偽善に立ち向かう『ライ麦畑でつかまえて』J.D.サリンジャー
「あなた、世の中の全部が気に入らないんだわ」
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
「あなた、世の中の全部が気に入らないんだわ」
父、母、私。三人で食卓を囲む。楽しげに、日々のことを語り合う、仲睦まじい家族。私はその笑顔の下で、気持ち悪さを必死に押し隠していた。
老人は、その一冊の本を殊更厳かに開いた。彼は知っていたからだ。その物語こそが、彼の敬愛するアーサー王の最後の一冊なのだと。
「大迫、半端ないって!」
老人は一冊の本を手に取る。彼は少し悲しげな表情をした。その物語を読む時、老人の胸にはいつも、過去を思い出すような切なさが溢れるのだ。
僕が「大槻ケンヂ」という人の名前を、なんとなく目で追い始めたのは、高校生の頃であった。
老人はもうずっと、部屋にこもりっきりだった。本を読むのに夢中になっていたのだ。
「実は、借金があるんだ……」
息を吸い込むと、潮の香りが身体に染み渡るようだった。目の前に広がる海は、どこまでも青く、果てがない。
……太った、かな。ふと、クローゼットから見つけた懐かしい服を着てみて、私は愕然とした。