パソコンの向こう側に広がる大人の世界『インストール』綿矢りさ
「こんにちは、と」 私はキーボードでチャットに文字を打ち込んだ。最初の頃はたどたどしかった指の動きも、今は流れるように文字を打て...
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
「こんにちは、と」 私はキーボードでチャットに文字を打ち込んだ。最初の頃はたどたどしかった指の動きも、今は流れるように文字を打て...
私は幼い頃、万華鏡というものを心底奇妙で不可思議なものだと思っておりました。
道端に一輪のタンポポが咲いておりました。弾けるように咲いている黄色い花はまるで太陽のようでかわいいのです。
「ねえ、タイムマシンって欲しいって思う?」
私は悲鳴を上げる侍女をどこか他人事のように眺めていた。その手から私の食事となるべきだったものが床に散らばった。
私の親は少し特殊な家業をしている。先祖から何代も続いてきた由緒正しい家業である。
「なあ、古典部に入らないか?」
私は扇風機の前にその身を横たえた。棒付きのアイスをシャリシャリかじりながら、畳の静かな香りを嗅ぐ。
「なあ、君、恋慕とは罪だ。そうだろう?」
「まだ結婚しないの?」 母からの結婚の催促も、もう聞き慣れたものである。私は良い相手がいないものだからと断った。