すべてお見通しだ!『TRICK』蒔田光治 林誠人
「さあ、今からあなたたちは奇跡を目の当たりにするのです!」
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
「さあ、今からあなたたちは奇跡を目の当たりにするのです!」
日夜、テレビでは暗いニュースが流れている。私は真剣な顔で解説を続けるリポーターをぼんやりと眺めていた。
芸術というのは怖ろしいものだ。人は人生の中で一度――あるいは一度もないか――自分の人生を一変させるほどの作品に出会うという。
私はテーブルについて食事を食べていた。目の前には母と姉が座っていて、薄暗い食卓を陰鬱な沈黙が充満している。
私は額縁の中に収められている写真をじっと見つめた。写真家であったという祖父が撮ってきたのだという写真だった。
私は激怒した。いや、これは怒髪天を衝くよりも悲しみに押し流されているのが正しかろう。
たまには、のんびり旅行するのもいいものだな。私はバスに乗りながらそう思った。
森見登美彦先生の書いた作品の中に、『きつねのはなし』ってのがあるでしょう。ここ最近ふとした時にあの作品を思い出すんです。
先生が壇上でよくわからない数式を説明している。俺は面白くない学校の授業を右から左に聞き流しながら考えていた。
私は由々しき問題に直面していた。私は不本意ながら彼女に懸想している。しかし、あろうことか、彼女は私を想っていないようなのである。