「さあ、今からあなたたちは奇跡を目の当たりにするのです!」
テレビでは黒いマントを翻した怪しげな男がいかにも大仰にカメラに向かって語り掛けている。
一時期はよくテレビでも放送されていたマジックショーも随分と数が減ってしまったもので、今ではほとんどない。
ミスターマリックや、プリンセス天功や、ナポレオンズたちは今はどこに行ってしまったのだろう。
今にして思えば、あれもひとつの流行りだったのだろう。あの時期はやたらとマジックが流行っていた。
それは流行り廃りを繰り返しながら、思い出したかのようにマジックショーが流行る時期がある。
私はマジックを見るのが好きだった。何が面白くて見ていたのかはいまいちわからないけれど。
ただ、漠然と、見てはテレビの前で歓声を上げていた。様々な技術を駆使しているマジシャンを尊敬していた。
彼らを見ると、私はある作品を思い出す。阿部寛さんと仲間由紀恵さんが主演で放送されていた、あのドラマ。
テレビの中では美人の女性が箱の中に入っていくところだった。彼が布をかけて、勢いよく打ち払うと、そこに女性の影も形もなくなっている。
もしも、これで本当に女性が消えてしまったら、どうなるのだろう。私はふと、そんなことを考えてみる。
そうなれば、彼らマジシャンはこの上なく怖ろしい存在となるのではないだろうか。
現実と虚構の境界をなくす手の込んだパロディ
「『TRICK』が久々に見たくなった」
友人のその一言をきっかけに、私と彼はTUTAYAで『TRICK』のDVDを大量に借りてきたのは先日のことだった。
『TRICK』は阿部寛さんと仲間由紀恵さんが主演を務めている大人気ドラマのシリーズである。
奇術を用いたインチキで人を騙す自称超能力者のネタを明かしていくという独特のミステリーだ。
不思議な空気感の中で流れていく暗いストーリーが多いのに、ところどころに入り込むパロディやギャグがくすっと笑える作品である。
『TRICK』はもうシーズンをおいて、何度も放送されているから、とりあえず全部借りてきた。
私は今までスペシャルドラマや映画でしか見た事はなかった。だから、大まかな感じは知っていても、実はそのドラマ自体を見るのは初めてのことだ。内心とても楽しみである。
不思議な設定にしばしば友人とツッコミを入れながら見ていく。シリアスなミステリーなのは笑えるというのも奇妙な話だ。
しかし、そこがこの作品の魅力なのだ。ギャグのおかげで見るのに苦しくならない。
そして、気がつけば時間が経っているのだ。夜が明けていることに気がついたのは閉じていたカーテンを開けてからのことだった。
ドラマを一挙に見終わってしまってから数日、図書館でとある一冊の本を見かけた。
『どんと来い、超常現象』。ドラマの中でも出ていた本だ。作者の上田次郎は阿部寛さんが演じるキャラクターである。
私は思わず感心してしまった。どこまでも手の込んだ作品である。まさか実際に作中の作品を出版してしまうとは。
内容は物理学の准教授になるに至るまでの上田次郎の半生が前半を占めている。
中盤からはドラマでの出来事とキャラクターたちへのインタビューが載せられていた。画像などもあって、観たドラマの内容が再び脳裏によみがえってくる。
さながら物語が実際に現実にあったことであるかのようだ。『TRICK』の世界はそれほどまでにこだわってフィクションと現実の格差をパロディで埋め合わせている。
それこそがこの作品の仕掛けた最大のトリックなのかもしれない。
奇術師と物理学者が超能力者に挑むミステリー
自称「超実力派」マジシャンの山田奈緒子は、その日も浅草にある昔ながらの遊園地のステージに立って得意げに手品を演じていた。
手を触れずにボールが浮遊するという手品を終え、客席に笑顔を振りまいたが、そこにいたのは眠りこけている親父とゲームに熱中している小学生だけ。
唯一、奈緒子の熱狂的なファンである照喜名保と目を合わさないようにしてステージの袖に引っ込んだ。
舞台袖で東北訛りのマネージャーからクビを宣告される。そして、彼が出ていくといつの間にか増えていた客の歓声が聞こえた。
奈緒子が池田荘に帰ると、廊下にちゃぶ台を出して、食事中の大家、ハルがいた。
彼女は家賃の値上げを宣言し、払えないと新しく取り付けた錠前の鍵を渡さないと言われて途方に暮れる。
もちろん、クビになったばかりの奈緒子に家賃を払うだけの金があるわけがないからだ。彼女は池田荘の階段を下りた。
少し先の道路に不自然に斜めになってトヨタパプリカが停まっている。車の横にはボサボサの髪に無精ひげのバカでかい男がにやにやしながら立っていた。
十数分後、奈緒子はその男、日本科学技術大学教授の上田次郎が運転する車に乗せられていた。
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