悪なんていない。ただ、そうなっているだけ『モダンタイムス』伊坂幸太郎
「『モダンタイムス』って知ってるか。伊坂のじゃないぞ。チャップリンの。ほら、あの歯車でくるくるするやつ」
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
「『モダンタイムス』って知ってるか。伊坂のじゃないぞ。チャップリンの。ほら、あの歯車でくるくるするやつ」
仕事を失った。本来ならば悲しむべきことなのかもしれない。しかし、今の私の胸中には、これからどうしようという不安と、相反する喜びが渦巻いて...
静かに、寝られる場所が欲しい。それが、彼女が私に言った、ただひとつのわがままだった。
その男は唐突に現れた。疲れ切った表情の、年老いた男。ぼくはその男とは会ったことがないはずなのに、その顔をどこかで見たような気がしていた。
大きめの窓を厚手のカーテンが覆い隠している。一筋の日の光すら入ってこない部屋はどこかじめっとした湿り気があった。
彼は残酷な男だった。
「ハッピーバースデイ、トゥーユー。お誕生日おめでとう」