疲れないからだのつくりかた『スタンフォード式疲れない体』山田知生


 呼吸が苦しい。思わず胸を押さえた。額から汗が伝って、顎から雫となって落ちていく。視界が揺れて、ぐらりと世界が傾いた気がした。

 

 

 あの瞬間のことは、今でも夢に見る。ただ、がむしゃらに頑張って、頑張って、そして、その頑張りの報いを受けた。

 

 

「お願いします! 退院させてください!」

 

 

 ベッドの上で私を睨みつける青年を、私は見つめた。程よく引き締まった筋肉に、日に焼けた顔。典型的なスポーツマンであろう。

 

 

「大切な試合があるんです!」

 

 

 必死な表情で私に訴える彼の悲痛な様子に、思わずといったふうに看護婦が私に視線を送る。そこには青年に対する同情があった。

 

 

「いいや、残念だけど、退院は許可しないよ。一週間は安静だね」

 

 

「そんな……!」

 

 

 彼はショックを受けたように絶句する。そんな彼を見て、看護婦が私に責めるような視線を向けた。しかし、結果は変わらない。

 

 

 彼は強豪サッカーチームのフォワードなのだという。公式の試合を控えていたらしく、部長も担っているらしい。

 

 

 しかし、だからこそ、彼は頑張ってしまったのだろう。チームを引っ張ろうと全力で部活に取り組み、過酷な練習で自分を追い込んだ。

 

 

 その結果、彼は疲労がたまっていることにも気が付けず、練習中に倒れ、この病院に運び込まれることとなったのだ。

 

 

「たかが疲労なんでしょう!」

 

 

 私はため息を吐いて、彼のベッドの傍らに椅子を用意すると、そこに腰をかけた。彼と視線を合わせると、青年はびくっと怯えるように肩を震わせる。

 

 

「実はね、私は昔、君と同じくらいの年齢の頃、野球をしていたんだ」

 

 

 語り始めた私に、彼は怪訝な視線を向ける。私は微笑を浮かべたまま、気にせず話し続けた。

 

 

「強い学校だったよ。そして、自慢じゃないが、私はその高校のスタメンのピッチャーだった」

 

 

 そう、今でも思い出せる。白球を握り締めた時の感触。キャッチャーミットにボールを叩きつけた時の音が、マウンドに立つ私の身体を快感に震わせる。

 

 

 自分の球がどんどん速くなっていくのが、楽しくて仕方がなかった。監督の言うことも聞かず、毎日過酷な練習を自分に課していた。

 

 

 そして、三年間の最後を締めくくる公式戦の直前。勝てば甲子園、負ければ夏が終わる。そんな大切な試合の、前日。

 

 

 肩に灼けるような痛みが走った。腕の中心から響いてくるような、根が張られているかのような痛み。

 

 

 自分の疲労も気にせず、練習に励んで努力してきた私の肩は、休みもなく投げ続けて、すでに限界だったのだろう。その代償はあまりにも大きかった。

 

 

「見なよ」

 

 

 私は肩を上げて見せた。しかし、まっすぐ伸ばしたところで止まってしまう。そこから上はもう、肩が上がらないのだ。青年が青ざめた顔で私を見ている。

 

 

 私はその高校生活最後の公式戦を出られなかっただけでなく、今後ずっと、私は白球を投げる喜びを失った。

 

 

 当時は運命を憎んだものだ。けれど、今は、それが残酷な運命などではなく、完全な自分自身が引き起こした当然の結果だと認めている。

 

 

 医師になって、ようやくわかった。疲労は病気だ。それも、スポーツ選手だけでなく、誰もが陥る可能性がある、恐ろしい病気。

 

 

「……じゃあ、どうすればいいんですか」

 

 

 彼は、かすかに俯いて、掛布団の上に置いた拳を握り締めながら、振り絞るように吐露する。

 

 

「俺は、みんなよりも下手なんです。だから、誰よりも練習しました。ようやくレギュラーになれたんです。休んでいたら、俺はまた、みんなに置いていかれてしまう」

 

 

 本当は、彼自身もわかっていたのだろう。自分の疲労を。しかし、彼は休むことができなかった。休んだことでチームメイトに置いていかれると怖れたからだ。

 

 

「……私が医師になったのは、私のような悲劇を二度と生みたくないからだ。私はどうすれば『疲労』を対処できるか、ずっと探していた」

 

 

 そして、見つけたのがこれなんだけどね。私はYoutubeの動画チャンネルを開いて、彼にその画面を見せた。

 

 

「これは?」

 

 

「『KAMA 【本要約】Book Radio CH』っていうチャンネルだね。本の内容をわかりやすく解説してくれている」

 

 

 方法を探していた私は、その動画で紹介されていた本のひとつに目をつけた。それは『スタンフォード式疲れない体』という本だ。

 

 

 本を読むのは、勉強に慣れた今でも好きにはなれない。しかし、その動画は、本の内容をイラストと声で要約してくれていたから、すぐに理解できた。

 

 

 私がその本に注目したのは、その本が疲労の回復について記していたからではない。「疲労を予防する体」にするためのメソッドがそこにはあった。

 

 

「疲労を、予防……」

 

 

「その通り」

 

 

 『IAP』と呼ばれるそのメソッドは、スタンフォードのアスリートたちが実践している、たしかな実績を持つ理論だ。

 

 

 アスリートにとっての疲労は重要な課題だ。疲労をいかに対処するかで、アスリートとしての資質が変わってくる。

 

 

 自分の身体の管理は、スポーツ選手にとっては大前提だ。健康でなければ、最高の能力を発揮できないのだから。休むことができなければ、私のように大好きなスポーツが奪われることにもなりかねない。

 

 

「先生」

 

 

「ん?」

 

 

「俺にも、教えてくれませんか、そのメソッド」

 

 

 彼の言葉に、私は微笑みを浮かべて頷いた。彼の表情に、かつての自分の姿が重なった。

 

 

実績のある回復プログラム

 

 疲れにくく、そして疲れてもすぐ回復する体になるには、どうすれば? 本書は、その問いへのひとつの答えです。

 

 

 世界でもトップレベルを誇るスタンフォード式の「科学的知見」。スポーツ医局が実践している「最新のリカバリー法」。この二つを軸に組み立てた「疲労予防」と「疲労回復」のメソッドをまとめたのが、この本です。

 

 

 誰もが忙しく過ごす現代社会において、「疲労」と無縁で過ごせる人はなかなかいません。しかし、疲れるのは「仕方ない」ことでは決してないのです。

 

 

 正しいステップを踏めば、疲労は防げます。疲労回復の効率を上げることも可能です。それを実現する方法を、リカバリー・アプローチを土台にお伝えするのが本書の役割です。

 

 

 「放っておけば溜まっていく」疲労に対抗できる、「抗疲労体質」を目指しましょう。本書を活用して、ぜひ「疲れない体」を作っていただきたいと思います。

 

 

 アメリカ人にとって、スタンフォードは学問ばかりか、「スポーツでも名門大学」とされています。それを実現成しえるのも、ひとえに人体の構造に則した回復法を実践しているからにほかなりません。

 

 

 ケガをしない体を作るには? スポーツ医局ではその答えを日々検討しているのですが、中でも私が重視しているのは「疲れ」です。

 

 

 「疲れの予防」と並んで重要なのが、「疲れを早期に解消する」こと。私たちは「疲れの予防」と「解消」をセットで考えています。

 

 

 疲れを予防しながら解消し、その繰り返しで、「疲れない体」を作る。これは、多忙な毎日を送るあなたにも共通する「理想」ではないでしょうか。

 

 

 それに、我々が試みているのは人体のメカニズムに則した回復法で、すべての人に効果があるアプローチです。

 

 

 疲れは神経と体の連携が崩れて起きる現象です、それを踏まえて私たちが実践しているものこそ、スタンフォードの最新知見を基に組み立てた「回復プログラム」なのです。

 

 

スタンフォード式疲れない体 [ 山田知生 ]

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 KAMAさんが本の内容を要約してわかりやすく解説! 本を読むのが苦手な人でも、動画を見ればイラストと声で簡単に理解できます。毎週金曜日に更新されています。