衝撃だった。何だろう、このタイトルは。そんな荒唐無稽なことを、本気で言っているのか。その本を取ったのは、それがきっかけだった。
『なぜ《塩と水》だけであらゆる病気が癒え、若返るのか』。そんなことを言っているのは、ユージェル・アイデミールという先生様らしい。
はたしてそんなことがありえるのか。もしも、本当にそうであるならば今の我々の食生活は何のためにあるのだ。
暴いてやろう。そんなことはありえない、と。声高に言ってやるのだ。最初はそんな思いで、その本を手に取った。
しかし、そこに書かれていたのは、予想だにしていない事実だった。
塩分を摂りすぎると高血圧になる。それは、現代では誰もが知っていることだ。だからこそ、塩分の摂り過ぎには誰もが気をつけている。
その本では、それは私たちが普段口にしている塩が悪いのだという。曰く、それは本当の塩ではないというのだ。
私たちが普段口にしている塩。それは精製塩と呼ばれる。つまり、人間の手によって加工されたものが、私達が食べている塩の正体だ。
それは身体にとって良くないものなのだという。高血圧になるのはそのためだ。
では、その本の言う「塩」とは何か。それは、「ヒマラヤ産クリスタル岩塩」なるものなのだそうだ。
なんだそれは。私の心に疑問符が浮かんだのも、無理からぬことであろう。
それは、より自然な形のままの塩の姿。私たちが手を加えてしまう前の、ありのままの、塩。それこそが、身体に良い「塩」なのだという。
そして、水。ジュースを飲むと喉が渇く。それは、それが本当の「水」ではないからだ。水を飲んでいないのに、水を飲んだと錯覚しているからだ。その本はそう言っている。
ジュースが有害なのは、わかりきった話だ。では何を飲めばいいのかというと、純水だという。ミネラルウォーター。余計なものの入っていない、純粋な水。
人は常に水不足であるらしい。それは、喉が渇いたと感じるよりも前から。忘れてはならない、人の身体はほとんど水でできている。
食生活は重要だ。体の健康と、まさに直結している。口にするものが健康を左右している。
現代において、保存料や添加物は必要不可欠なものとなった。それは直接的な大きな害はなくとも、長期的に健康的被害をもたらす。
その救いの手となるのが、純水と、ヒマラヤ産クリスタル岩塩というわけだ。
それにしても、ヒマラヤ産クリスタル岩塩なんて、どこで手に入れるのだ。スーパーに売っているわけがない。
となると、やはりネット通販だろう。しかし、そんな特殊な塩が安いわけがない。食費もかかるし、どうしようか。
いや、水は安いんだから、大丈夫だろう。それで健康が買えるのならば安いものである。
と、ここまで考えて、財布のガマグチを開いていた私は、ふと我に返って頭を抱えた。
なんということだ。私はこの本に苦言を呈するつもりだったのではなかったか。それがいつの間にか、この本が正しいのだと思ってしまっている。
私は改めてタイトルを見下ろした。読んでしまった今でも、やはり大胆な意見だと思う。今までの常識では考えられない。
しかし、その本の内容はたしかに頷けるものだった。違和感はなかった。強いて言えば、クリスタル岩塩を頑なに推すのがわからないくらいで。
思わず、ごくりと生唾を飲む。いっそ、買ってしまおうか。実践すれば、正しいかどうかがわかる。そうすれば、やってみたけど駄目だったと批判できるじゃないか。
私はネットでクリスタル岩塩を検索する。心の中で言い訳をしながら。私は認めたくなかったのだ。この本に、魅力を感じているだなんて。
塩と水さえあれば
クリスタル岩塩には、あるイタリアンレストランで偶然出会いました。それは、私が今まで「塩」と信じていたものとはまったく違うものでした。
ユージェル氏が述べている「水と塩の質と量が何よりも大切だ。慢性的な水不足があらゆる病気の原因になっている」という主張は、あまりに西洋医学の常識とかけ離れていると言わざるを得ません。
「身体にとって水は大事。水がないと生きていけない」ということについては、誰しも異論のないことだと思います。
しかしタンパク質や糖質といった栄養素に比べて、水についての生体内での利用の詳細については、実はわかっているようでわかっていないことが多いようです。
クリスタル岩塩は、私たちがいわゆる「塩」と思っている”人工的な塩”とはまったく異なるものです。
そうした背景も含めてはたして”本物の塩”が高血圧の原因となりうるのか、明らかにされる日が来ることでしょう。
残念なことに、現代の食生活には、健康に害を与えるもので溢れかえっています。これからの時代は、自分の健康に責任を持ち、意識して健康をつくっていかなければなりません。
現代社会が競争社会から脱却して「共生」へと向かうには、「まず身体を刺激するものを避け、自然に立ち返る本物の塩と水が必要だ」というユージェル氏の主張は全くその通りだと思います。
個人の健康のためだけでなく、真の調和した社会を築くためにも、食から考える社会づくりが必要な時かもしれません。
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