世界で一番質素な前大統領夫人が教えてくれたこと『質素であることは、自由であること』有川真由美


自分の部屋を、見回してみる。モノ、モノ、モノ。そこには、いくつものモノが溢れていた。自分が今まで必要だと信じていたモノ。思わず首を傾げる。どうして私はこんなモノを、必要だと思い込んでいたのだろう。

 

私はずっと、モノを手に入れようと躍起になっていた。新作のゲーム。きれいな服。漫画に小説。おいしい食べ物。最新モデルのスマホ。テレビ。パソコン。宝石やアクセサリー。とにかく何でも欲しくて仕方がなかった。

 

でも今、私はむしろ、逆の欲望に駆られていた。何もかもいらないという感覚。何もかも捨ててしまいたいというような感覚。

 

どうしてこんなものを大切にしていたんだろう。そう思ってしまうほど、私の部屋には、いらないものが溢れていたのだ。それが私を幸せにするものではないことを、今の私は知っていた。

 

モノをたくさん持っていると、幸せ。そんな私の価値観がひっくり返ったのは、ひとりの人間がきっかけだった。いや、一冊の本、というべきだろうか。

 

『質素であることは、自由であること』。有川真由美先生の本である。その本がまさか、私の価値観を根底から変えてしまうだなんて読む前は思いもしなかった。

 

その本では、ひとりの人間が主軸として紹介されている。ルシア・トポランスキーという女性である。彼女はいったい何者なのか。

 

どうやら、ウルグアイの第四十代大統領、ホセ・ムヒカ氏の大統領夫人であるという。ホセ氏は、「世界一貧しい大統領」と呼ばれているらしい。つまり、その妻であるルシアさんは「世界一貧しい大統領夫人」だというわけだ。

 

彼女の経歴はなかなかに波乱万丈である。恵まれた家庭で育ったのも一転、ゲリラ活動に身を投じて、刑務所で過ごした時期もあるという。数々の修羅場をくぐりぬけてきた。夫のホセ氏とも、その活動の最中に出会ったという。

 

ホセ氏は給金のほとんどを寄付に回し、自身は豪華な家屋に住むこともなく、都市郊外の農地で穏やかに暮らしている。貧民層に寄り添う政治にも心をかけてきた。「世界一貧しい大統領」と呼ばれる所以はそこにある。

 

ただ、この本が注目しているのは彼ではなく、その妻のルシアさんだ。なぜか。それは、有川先生自身が女性であることも関係している。

 

この世には女性にとって抗いがたい欲望に溢れている。おいしい食べ物、きれいな宝石、おしゃれなアクセサリー、かわいい服、挙げていけば、きりがない。

 

いくら夫婦とはいっても、ついていけない価値観だってある。男性と女性は違うのだ。だからこそ、先生はルシアさんが夫のホセ氏とともに貧しい暮らしをしていることに驚き、彼女の強さ、素晴らしさに感嘆したのだ。

 

そして、私もまた、彼女の美しい信念に魅了された。私は先生の本を読んだだけだけど、読めば読むほど、ルシアさんの人柄に惚れていく自分に気が付いた。

 

でも、改めて突き付けられるのは、彼女の信念とは正反対の、私の部屋。豊かさを追い求める社会に踊らされていた自分自身。

 

「日本は進歩を遂げた国だが、それで日本人は本当に幸せですか?」

 

ホセ氏は日本に対してそう問いかけたという。モノに溢れた私の部屋。それだけのモノを手に入れて、私は幸せだったか。いや、そんなことはない。尽きない欲望はモノをいくら手に入れても、満たされることはない。

 

そうだ、捨ててしまおう、みんな。質素であることは、自由であること。本のタイトルが頭に浮かぶ。モノを持たないことは、惨めなことじゃない。むしろ、欲望から解き放たれて、自由になれるのだ。彼らの問いかけが、心の奥から聞こえてくる。

 

「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲望があり、いくらあっても満足しない人のことだ」

 

 

人間の幸せとは?

 

私は、彼女のことが知りたくてたまらなかった。彼女が、なにを考え、なにを大切にして生きてきたのか――。ともかく、胸がすくようにカッコよくて、圧倒されるほど波乱の人生を歩いてきた人なのだ。

 

彼女は、自分の欲しいものをすべて手に入れてきた。といっても、贅沢な暮らしをしてきたわけではない。苦労知らずで、優雅に楽しく生きてきたわけでもない。

 

彼女は、幸せになるために最小限で、最高に価値あるものをもっていて、一点の曇りもなく、正直に生きてきた。

 

彼女の名前は、ルシア・トポランスキー。「世界一貧しい大統領」と呼ばれたウルグアイの第四十代大統領、ホセ・ムヒカ氏の妻であるルシア・トポランスキー上院議員のことだ。

 

人々はお金を使うこと、お金を稼ぐことに振り回されて、幸せになる人生の時間を放り出している。より高価なもの、より便利なもの、よりたくさんのものを手に入れようとしているうちに、大切な時間を失ってきたことは、経済発展してきた国の誰もが実感するところではないだろうか。

 

ルシアさんの人生は、華々しいサクセスストーリーだけではなかった。恵まれた環境で育ちながらも、正義感の強さから自らゲリラ活動に飛び込み、ムヒカさんと同じように、十数年もの間、刑務所の中にいたのだ。

 

私は、ルシアさんから見える人生の景色を教えてほしかった。立場も環境もまったくちがうけれど、幸せに生きる根っことなるものが彼女のなかにあるように思えてならなかった。

 

 

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