ものをなくしていくことで豊かになっていく『脱力系ミニマリスト生活』森秋子


 私は何もかもが欲しいと思った。私の欲望はとどまるところを知らなかった。だから、私は何もかも捨てることにしたのだ。

 

 

 空っぽの部屋の真ん中に、私はひとり座り込んでいた。だだっ広い空間に、私だけがいた。

 

 

 テレビも、本も、ゲームも、服も、宝石も、何もない。私が今まで大切にしてきたものは、何もかも失くしてしまった。

 

 

 そこはワンルームの、小さな部屋。まっさらなフローリングに、飾り気のない白い壁。

 

 

 以前、住んでいたような一等地の豪邸とは比べ物にならないほど安価な、郊外の古びたアパートの一室。

 

 

 しかし、私の心を占めていたのは喪失感ではない。むしろ、今まで感じたことのない充足感があった。

 

 

 あるいは、それは万能感とも呼べるかもしれない。何も持っていないはずの私は、欲しいものをすべて手に入れたのと同じような心境だったのだ。

 

 

 その心境を、私の友だちや家族は、誰ひとりとして理解できないだろう。『何を馬鹿なことを言っているんだ』とでも言うかもしれない。

 

 

 誰もが今の私を見ると、かつての私と見比べて『落ちぶれたね』と思うだろう。

 

 

 けれど、私は自ら望んで以前の家を手放してこの部屋に引っ越したのだ。そして、落ちぶれたとはちっとも思っていなかった。

 

 

「恥ずかしいと思わないの。そんな家に住んで、安物の服を着て。同じ私だと思いたくないわ」

 

 

 過去の私が怒りに満ちた表情で私を睨み付ける。高価なブランドものの服に身を包んで、派手な化粧で身を飾り、宝石のあしらわれたアクセサリを纏っていた。

 

 

 以前ならば気になっていたであろう彼女の罵声も、今ではちっとも気にならない。むしろ、子どもがわがままを言っているような、そんな余裕すらも持つことができた。

 

 

 一冊の本が教えてくれた。値段だけで人生の豊かさが決まるわけではないのだと、その事実を私は知っているのだから。

 

 

ものをなくせば、なくすほどに

 

 かつての私は呆れるほどの浪費家だった。どれくらいかというと、恋人から捨てられるほどの。

 

 

 結婚を前提とした恋人だった。私は彼を愛していたし、彼も私を愛していたと自負していた。

 

 

 だからこそ、捨てられたとき、私はその事実を理解できなかった。彼が目の前からいなくなって、初めて現実なのだと認識した。

 

 

 最初の頃は彼に対してあらん限りの怒りをぶつけた。しかし、その後に訪れたのは呆然とした虚無であった。

 

 

「ごめん、もう耐えられないんだ」

 

 

 彼はそう言った。自分が一生懸命稼いできたお金が、すべて私の服や、アクセサリや、化粧品に消えていくのが耐えられないのだと。

 

 

 私には理解できなかった。自分が浪費しているのだという認識がなかったからだ。欲しいものがあったら買うのは当然のことで、自分の欲しいものを持っていないという事実が私には認められなかった。

 

 

 高給取りな彼だったけれど、その額を以てしても追いつけないほどに、私の浪費は度を越していた。そのことに気付いたのは、随分と後のことだったけれど。

 

 

 クローゼットの中にはブランドものの服で溢れ、一回着た服はそれっきり着ない。宝石は当たり前、化粧品も高級品ばかり使っていた。

 

 

 テレビもゲームも本も、欲しいものや話題になっているものは何でも買った。家計のことなんて少しも顧みることがなかった。

 

 

 友だちに自慢して、称賛されるのが心地よかった。もしも、持っていないと言ったら、途端に彼女たちが見放すのではないかという恐怖がいつも私の中にあった。

 

 

 しかし、恋人に見放され、ひとりになった今。怒りも悲しみもあらかた吐き出して、虚無になった今。

 

 

 私が改めてそれを見ると、思わず首を傾げざるを得なかった。どうして私はこんなものを欲しがっていたのだろうか、と。

 

 

 これのせいで私は愛する彼を失ったのだ。そう思えば、あとは坂道を転がり落ちるかのようだった。それらすべてがいらないものに思えてきた。

 

 

 『脱力系ミニマリスト生活』を読んだのは、そんな時期だった。それは、今までの私の常識とは対極の生活が描かれていた。

 

 

 クレジットカードは使わず、現金も最低限しか持ち歩かない。友達は減らしていく。服は決めた上下セットを着まわす。掃除機も、電子レンジも使わない。

 

 

 今までの私ならば、そんなの生きていけないと一蹴しただろう。けれど、その頃の私は何の抵抗もなく、受け入れることができた。

 

 

 私がその本から学んだことは、『無理をしない』ということだ。

 

 

 欲しい物は欲しい。いらないものはいらない。決して急がず、ゆっくりと少しずつ、手放すことに慣れていく。

 

 

 そうしていくと、次第に、私は、友だちの誘いを断っても、ものを捨てても、傷つかなくなっていった。

 

 

 むしろ、ものをなくしていくたびに、清々しい想いだった。まるで重い荷を捨てたかのような解放感があったのだ。

 

 

 ものを手に入れて豊かになるのもひとつの生き方だ。しかし、ものを捨てて豊かになる生き方は、決して目に見える価値では測れない。

 

 

ものを捨てるほど、得るものがある

 

 「ミニマリスト」という言葉に、どんなイメージを持ちますか?

 

 

 私は周りの方から、つつましく生活する、無欲な仙人のようだ、と思われることも多いのです。でも実のところ、私がミニマリスト生活を始めたのは、手に入れたいものがたくさんあるからです。

 

 

 以前の私は、働いたお金と時間をつぎ込んで、しゃかりきに買い続けてきました。

 

 

 私は手に入れたもので豊かになるはずでした。しかし、家にはものが溢れ、たくさんの服があるのにどれを着ても満足できず、食べきれない食材を買っては捨てる日々。

 

 

 私は本当に欲しいもの、自分にとっての豊かな生活を手に入れるために、それまで「必要」と思い込んでいたものを少しずつ「やめる」ことを選択するようになりました。

 

 

 私は自分の欲望に忠実な脱力系ミニマリストです。激しい「欲望」が根底にあります。貯金と自由時間を増やしたい、そして自然の美しさや愛をむさぼりたいのです。

 

 

 クレジットカードをやめたら、貯金は驚くほど増えました。電子レンジをやめたら、食事が健康的になりました。掃除機をやめたら、家が輝きました。ボディソープで洗わなくなったら、肌がきれいになりました。

 

 

 「買わない」「やめる」選択をし続けることで、私は着実に欲しいものが手に入るようになりました。

 

 

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