これからの世代のヒントが山のようにある『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』堀内都喜子


日本は豊かな国だ。日本に来て数年、そう思わざるを得ない。経済的にも、物質的にも。文化は世界でも唯一の強みがあり、街中を歩いていても危険な目に遭ったことなんて一度もない。平和な国だ。

 

それなのに、どうして道行く人たちの表情はどことなく疲れたような、暗い表情をしているのだろう。誰に聞いても、日本人はみな「そうでもないですよ」と力なく笑うのだ。

 

日本人は謙虚だ。そういった意味では、私たちフィンランド人と似たところがあると思う。けれど、その謙虚は、本心から滲み出たような生々しさがあった。

 

その原因に、私は見ていて、思い当たるところを見つけた。日本人は働き過ぎなのだ。それは真面目という限度を超えている。

 

ニュースで「エスコヤマ」という企業を見た時は戦慄した。月300時間の残業。考えたこともなかった。騒がれている、ということは、やはり日本の基準でも異常だったのだろうけど。

 

フィンランドでは、残業なんてほとんどない。みんな定時であがるのが基本だ。当然だ。そんなに仕事ばかりしていては、何よりも大切な家族との時間が減ってしまうから。

 

日本人との感覚の違いが気になった私は、少しばかり調べてみることにした。もちろん、日本人の友人たちにも聞くけれど、本でも。

 

選んだのは、『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』という本だった。日本人がフィンランドやフィンランド人の特徴を解説している。

 

日本のことを知るのに、どうしてこの本を選んだのかというと、日本人の目から見たフィンランドを知れば、その逆で、日本とフィンランドがどう違うのか、という差異がよりくっきりと見えるのではないかと思ったからだった。

 

まず驚いたのは、さっきの仕事時間のことだ。日本人は有休を使わない、というのにも驚いた。そんなんじゃあ、有休がある意味がないじゃない。あるものは取らないと損をするのに。

 

そして、日本人には夏休みもないという。いや、学生は夏休みがあるけれど、大人はない。フィンランドではみんな夏には有休も使って長い休みをとるけど、日本ではそんなことをしないらしい。

 

一か月や二か月どころか、一週間のまとまった休みすら取るのは難しい、と友人は言っていた。日本人はよほど働くのが好きなんだね。

 

「でも、そんなんじゃあ、ウェルビーイングが悪くならない?」と聞くと、「なにそれ」と返されてまた驚く。

 

ウェルビーイングは私たちフィンランドではよく使われている言葉だ。つまり、心身ともに最高の状態であるということ。

 

定時できっちり帰ったり、長期的な休みを取るのも、このウェルビーイングのためでもある。心身ともに最高の状態で仕事に戻るから、「また頑張ろう」という気持ちで仕事に取り組める。

 

日本人は勤勉で真面目だ。親切な良い人たちもたくさんいる。電車や約束が遅れることなんてほとんどないし、静かなのも心地いい。

 

それなのに、良い人たちの彼らが、あまり幸福そうな顔をしていないのが、私にはショックで仕方がなかった。

 

せかせかと靴を鳴らして急ぐサラリーマンたちを見て思う。もう少し、ゆっくり歩いたらいいのに。彼らはそのゆとりのない生真面目な生活の先に、いったい何を目指しているんだろう。

 

 

日本とフィンランド

 

日本を飛び立って約9時間。眼下に見えてくるのは、緑の森と畑、そしてあちらこちらにたっぷりと水を湛えた湖。いつ見ても変わらず、ホッとする風景だ。

 

便数が増えるのに並行して、フィンランドを旅行や留学で訪れる人が増えた。デザインやムーミン、オーロラ、サウナに惹かれたり、教育や社会福祉に関心を持ったり、そのきっかけは様々だろう。

 

日本とフィンランドは、自然豊かなところや、少しシャイで真面目、謙虚な性格など、共通点も多くある。その一方でワークライフバランスや、休みの意識、組織内の関係性など、大きな違いを感じるところもある。

 

フィンランドでは、16時を過ぎると、あっという間にオフィスから人がいなくなる。夏になれば、1か月以上の休みを取る。上司をファーストネームで呼び、休みや仕事のやり方をオープンに交渉する。在宅勤務も多い。

 

それでいて、社会がそれなりにまわり、キラリと光る企業もあって、イノベーションで世界をリードする国のひとつでもある。

 

日本はワークライフバランスという言葉がここ数年頻繁に使われるようになってきた。働き方は変わりつつある。そんな日本が目指す先に、フィンランドがあるのではないだろうか。

 

二つの国は人口規模も、法律も、制度も違う。ただ、そうした違いはあっても、日々の生活や考え方、身近なことから学べるヒントはないだろうか。

 

他の国を知ることで、なんとなく日本で「こうでなければならない」と感じていたことに、新たな見方が生まれはしないだろうか。

 

この本は、そんな日々の生活や身近な気付きを皆さんと共有したいという思いから書くことになった。みなさん、フィンランドの旅へようこそ!

 

 

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