七沢またり先生の名作『少女シリーズ』6作品まとめ


「なんか、似たような作品ばかりですね、先輩」

 

 

 私は小説投稿サイトをスクロールしながら言った。ランキングの上位には似たようなタイトルの作品ばかりが並んでいる。正直言って、見飽きた。

 

 

 先輩はさっきからずっとスマホの画面を見続けていて、視線を外そうともしない。返事もなくて、私は思わずむっとした。

 

 

「無視しないで下さいよ、先輩」

 

 

「うひゃあ、な、なんだよ」

 

 

 私が先輩の脇腹をぐっと掴むと、先輩は情けない悲鳴を上げて飛び上がった。剣呑な目つきで私を睨みつける。

 

 

「お前な、物語に没頭しているのを無理やり起こされると、どれだけ不愉快か知っているだろ」

 

 

 あ、やばい。この口調は本気で怒っている。私の背を冷や汗が伝う。話題を反らすように、私はわざとらしく声を明るくして彼のスマホを覗きこんだ。

 

 

「あ、え、えっと、何を読んでいたんですか。面白いの、見つかりました?」

 

 

「再読してたんだよ。ずっと前に読んだことがあるんだが、久しぶりにな」

 

 

「なんて作品ですか?」

 

 

「『死神を食べた少女』って作品だ」

 

 

 私はきょとんとした。聞いたことのないタイトルだ。そんな作品、ランキングに載っていただろうか。

 

 

「だいぶ古い作品だよ。最近のランキングには載っていない。でも、書籍化もされてるし、今でも総合ポイントで検索をかけたら上の方に出てくるんじゃないかな」

 

 

「へぇ、おもしろいんですか?」

 

 

「最高」

 

 

 私は自分でも調べてみる。すると、先輩の言う通りすぐに見つかった。どうやら、七沢またりという先生の作品らしい。

 

 

「この先生の作品はみんなおもしろいよ。世界観がどれも繋がっていてね、スターシステムって言うんだけど」

 

 

「どんな作品があるんですか?」

 

 

「いいよ、じゃあ、紹介しようか」

 

 

少女は鎌を振るい、戦場に恐怖を振りまいていく

 

「まずはこれ、『死神を食べた少女』だ」

 

 

 腐敗した王国。国政に関わらない無能な国王と、私腹を肥やすことだけを考えている宰相。貴族は民に重税を課している。そんな国に反乱を起こして、王都解放軍が結成された。

 

 

「なるほど、それで主人公はその反乱の手助けをするんですね?」

 

 

「いいや、まあ、聞くといいさ」

 

 

 始まりは王国軍の前線砦。どこからか、身元も不明のひとりの少女が現れた。彼女の名前はシェラ。彼女は王国軍に所属を志願するんだ。

 

 

「え、じゃあ、主人公は腐敗した王国の側なんですか」

 

 

「そうだよ。すでに傾きかけている王国に、彼女は兵士として配属されたんだ」

 

 

 彼女は大人の男でも抱えられない大きな鎌を細身の身体で軽々と振り回す。その姿はまるで死神のように、ね。

 

 

 死神シェラ。その悪名は、やがて敵である王都解放軍にも、味方の王国軍にすら怖れられるものとなっていくんだ。

 

 

空腹な少女のファンタジー『死神を食べた少女』七沢またり

 

 

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勇者と魔王の戦いの後、勇者はどうなる?

 

「次はこれだね、『勇者、或いは化物と呼ばれた少女』」

 

 

「なんか、対極のように思えますけど」

 

 

「本当にそうかな?」

 

 

 アートの街。そこは魔物が封印された迷宮と呼ばれるものがある。巨万の富を求めて人々は迷宮へと潜っていく。そんな産業が発展した街だ。

 

 

 その街のギルドに、ひとりの少女が現れる。彼女は迷宮に潜るためにギルドの登録をしようとしたけれど、断られたみたいだね。

 

 

 それでもなんとかプライドと引き換えに登録をして、少女は紹介された宿屋に向かう。その途中で、彼女はひとりの女性に声をかけられるんだ。

 

 

 その子の名前はマタリといった。彼女もギルドに登録をしたけれど、ひとりで向かうのは心細いから彼女に声をかけたみたいだね。

 

 

 名前を聞いてくるマタリに、少女は『勇者』と名乗った。その世界には勇者の伝説というものがある。何百年も前の話。さて、勇者と名乗る彼女は、果たして何者なのかな。

 

 

勇者と名乗る少女の凄絶な生き様『勇者、或いは化物と呼ばれた少女』七沢またり

 

 

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悪鬼と呼ばれた少女が帝国最強の騎兵に挑む戦記ファンタジー

 

「『火輪を抱いた少女』。火輪っていうのは、太陽のことだね」

 

 

 子どもたちが集められた教会で、戦闘や、皇帝を崇拝する教育を施された少女。13番と呼ばれる彼女に注目しよう。

 

 

 落ちこぼれの彼女はその場所が大嫌いだった。特に嫌いだったのは、食事の時間に飲まされる黒い液体だ。

 

 

 ある時、これが最後だと言われ、今までよりもさらにどす黒い液体を出される。少女は、先生と、そして大勢の子どもたちといっしょにその液体を飲んだ。そして、彼女は命を落とした。

 

 

「え、物語、終わった?」

 

 

「いいや、ここからが始まり」

 

 

 次に彼女が目覚めたのは、お墓の中だった。周りには子どもたちがいた。その中に、少女と仲の良かった子を見つける。

 

 

 その子がしてくれるお話が、少女は大好きだった。黒猫のノエルが、幸せを探して旅をする、というお話。

 

 

 13番の少女は彼女と約束をした。一緒に幸せを探しに行くという、約束。

 

 

 少女は名前を持っていなかったから、自分のことをノエルと名乗ることにした。そして、彼女は、幸せを探しに行くんだ。やがて、戦火の渦に巻き込まれていくのだけれど。

 

 

太陽を愛する少女の戦記ファンタジー『火輪を抱いた少女』七沢またり

 

 

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荒れた街を舞台にした生き急ぎ系少女のファンタジー

 

「『極星から零れた少女』は、戦っている二つの勢力の狭間で、中立を保っている街を舞台として始まる」

 

 

 これは『火輪』とも『死神』とも、実はリンクしているのだけれど、それはひとまず置いておこうかな。

 

 

 果てしなく長い時間を過ごした存在。繰り返される時間に嫌気がさしたその存在は、人間の器に入る。いわゆる、この存在が『極星から零れた』、なのかな。

 

 

 目覚めたのは貧しい雑貨屋の娘だ。目の前にはすでに息のない両親。そして、荒々しく飛び回る赤い鳥。

 

 

 その鳥はクレバーというらしい。言葉を話す巨大な鳥だ。どうやら、人間になる前のステラを知っているみたいだけど、何者かな。

 

 

 ステラの目標は、充実した人生を生き抜くこと。そのためには、少しの時間も無駄にはできない。

 

 

「そんなに生き急がなくても」

 

 

「彼女にとって、人生はとてつもなく短いんだろうね」

 

 

 店の外から扉を蹴る音が聞こえる。借金取りだね。ステラの両親は、多額の借金を作っていたようだから。

 

 

 まずは、生き残る。彼女はそのために、自分の近くにころがっている紫色の玉を手に取った。

 

 

魔女と呼ばれる少女が充実した人生を送るために生き急ぐファンタジー『極星から零れた少女』七沢またり

 

 

十年ぶりに目覚めた呪い人形が学校生活を謳歌する

 

「『みつばものがたり』。友情と笑顔に満ちたハートフルほのぼの学園ストーリーだ」

 

 

「……本当ですか?」

 

 

「嘘は言っていないとも。士官学校だけどな」

 

 

 ミツバという少女として目覚めた彼女がまず目にしたのは、涙を流す自分の父親だった。とはいえ、紹介を受けるまでわからなかったが。

 

 

 というのも当然で、彼女は生まれてから11年間、植物状態だったという。父のギルモアが資産を投げ打ってあらゆる手段を尽くした結果、ようやく目覚めた、というわけだ。

 

 

 しかし、ギルモアはミツバの母親の亡き後に妻となったミリアーネによって命を奪われてしまう。ミツバが父と過ごした時間はほんのわずかだった。

 

 

 そして天涯孤独となったミツバも、貴族籍を剥奪されて塔に幽閉されてしまう。ところが、奇妙な出来事が立て続けに起こった。

 

 

 ミリアーネの部下たちや使用人が次々に不可解な最期を遂げた。しかも、見るも凄惨な姿で。

 

 

「でも、ミツバは幽閉されているんですよね。どうやったんですか」

 

 

「敵意だけで人を苦しめる。人はそれを、呪いと呼ぶよね」

 

 

 報復を恐れたミリアーネは、ミツバを士官学校に入学させることにする。こうして、ミツバの愉快な学校生活は始まったわけだ。

 

 

悪魔のように笑う呪いの少女『みつばものがたり』七沢またり

 

 

人類の危機に駆けつけた最強の少女たち

 

「最後はこれだね、『ロゼッタは引き篭もりたい』」

 

 

「どんな作品なんですか?」

 

 

「七沢またり先生の、これまでに紹介してきた作品の主人公たちがみんな出てくる、いわゆるお祭り作品だね」

 

 

 人類は滅亡の危機に瀕していた。動物が変異した『亜人』と呼ばれる種族に攻め込まれ、今や生き残った人類はわずかしかいない。

 

 

 最大の領地を持っていた帝国も、砦ひとつを残すのみ。残った王族は、自堕落な性格のロゼッタ姫だけ。

 

 

 彼女は国民の声に押される形で召喚の儀を執り行う。とはいえ、それはただの儀式で、何も起こるはずなどなかった。本来ならね。

 

 

 魔法陣が光り輝いたのに、誰よりも驚いたのはロゼッタ自身だ。そうして現れたのは、儀式に使ったタロットの絵柄に合わせたような少女たち。

 

 

 『死神』のシェラ。『正義』の勇者。『太陽』のノエル。『戦車』の犬は、まだ正体がわからないね。

 

 

 さて、今までの七沢またり作品を読んできた君なら、彼女たちの強さは、よくわかっているだろう。

 

 

 はたして、その世界の人類の未来は、どうなるのだろうか。

 

 

人類の危機に現れた最強の少女たち『ロゼッタは引き篭もりたい』七沢またり

 

 

「どうだった?」

 

 

「なんというか、映画を見たような気分です。疲れました」

 

 

 私がぐったりしたまま感じている感情をありのままに言うと、先輩はうんと頷いた。

 

 

「そうだね。最近のネット小説みたいに気軽に読めるような作品じゃない。ボリュームもあるし、ストーリーも重い」

 

 

 戦記物が多いけれど、バトルよりも、その戦争の背後にある思惑だとか、権力だとか、そういうものにレンズを当てているんだ。

 

 

「でも、その泥臭さって、実際の戦争にもあったものだと思うよ。主人公がそこに突然巻き込まれて、よくわからないまま活躍、ってのが、最近は多いけれど」

 

 

 『少女シリーズ』にはそれがない。ひとりひとりの人生が詰まっていて、ずっしりと重たい。だからこそ、臓腑にまで響いてくる。

 

 

「おもしろかったでしょ?」

 

 

「はい、それはもう。でも、ちょっと後悔していますね」

 

 

 私はふうとため息を吐いて、椅子に身を預けた。

 

 

「一気に全部読むべきじゃなかったです。胸焼けした感じ」

 

 

「物語を読む、というのが、本当はどんなものかっていうのが、よくわかるよね」

 

 

 私は言葉を出さず頷いた。もう言葉を発する元気もなくて、しばらく休むと言伝すると、私は机に突っ伏して目を閉じた。