いかに成果を上げ、成長するか『プロフェッショナルの条件』P.F.ドラッカー


スーツを着たまま、呆然と佇む。仕事に行かねば、いや、違う。行かなければならなかった仕事は、もう、失ったのだ。私は周りを見渡す。まるで迷子の子どものように。

 

大学を卒業した私は、誰もが憧れる大企業への就職を果たした。これで自分もエリートの仲間入りだ、などという驕りはなかった。

 

安定。それだけが、私の人生における最大にして唯一の目標だった。とにかく、安定した生活を。何が起こってもいいように、万全の備えを。

 

私は幼い頃からそれだけを見てきた。というのも、父も母も収入が安定せず、苦しい毎日を送っていたのを目の当たりにしていたからだ。

 

成長していくにつれて、私は「安定」だけを望むようになった。幸せを求めるのも、自分の好きなことをするのも、まずは土台が安定していなければ話にならない。それが私の理屈だった。

 

無事に大企業に入った私は、これで人生は安泰だと信じていた。誰もが知るような企業だ。到底破綻することはないだろう。そう信じていたのだ。

 

だからこそ、まさか、こんなことになるなんて、私は夢にも思わなかった。

 

勤め始めて数年が経った頃のことである。突如、上層部の不祥事が明らかになったのだ。ニュースで度重なる放送が繰り返され、視聴者の批判が企業体制に向けられた。

 

新入社員は当然のように激減し、職を辞する社員が何人も出てくる。マンパワーが減っていくにつれて、業績は凄まじい勢いで落ち込んでいった。

 

栄枯盛衰。あれほどまでに安定していた大企業は、一瞬にして破綻を迎えた。私の頭がようやく追いついた頃には、すでに私は無職になっていた。

 

安定していない立場。かつての自分が何よりも怖れていた存在に、今の自分がなっている。そのことに愕然とした。なぜだ。私はどこで間違えたのだ。今までの生活が、走馬灯のように繰り返される。

 

そういえば。そんな中に、ふと、記憶の中に眠っていた一冊の本を見つけた。それは、仲の良い同僚から勧められた、ドラッカー氏の『プロフェッショナルの条件』というものだ。

 

ドラッカーという名前は知っていた。そして、ドラッカーといえば『マネジメント』で有名になった人物である。だから、その本は何かと訊ねると、この本もおもしろいよ、と返されて、読まされることになったのだ。

 

しかし、読んでみてわかったのは、「この本は自分には合わない」ということだけだった。

 

『マネジメント』は企業におけるマネジメント論を深めた、いわば組織の中で生きるための本だったが、この本は違う。

 

これからは、企業よりも人が長生きする時代になる。だから、専門的な技術を身につけ、自分をマネジメントしていこう。いわば、そんな内容だったのだ。

 

当時、私が勤めていた大企業は、あまりにも安定していた。まさかその数年後に破綻するなんて、誰も思っていなかった。

 

だからこそ、私には意味がないと感じたのだ。私はすでに今勤めている企業に骨を埋めるつもりでいたのだから。同僚の彼には簡潔に感想だけ述べて、本を返した。

 

今になってそのことが悔やまれる。もっと真剣に読んでおけばよかった。私が骨を埋めようとしていた企業は、すでに瓦礫の山となってしまった。

 

失って初めて気づいた。私は、企業でしか生きられない人間だったのだ。ずっと就職のための勉強をしてきた私は、技術も何も身につけていない。

 

企業に依存せず、自分の足で生きていく。そうか、それこそが「プロフェッショナル」なのか。だとしたら、私は気づくのに遅すぎたのだ。

 

 

人口革命に伴う社会の変化

 

やがて歴史家は、20世紀最大のできごとは何だったというだろうか。二つの世界大戦か。原爆か。非西洋の国日本が経済大国になったことか。それとも、情報技術革命か。

 

私の答えは、人口革命である。世界人口の爆発的な増加であり、今日の先進社会の高齢化をもたらしつつある平均寿命の爆発的な伸びである。さらに重要なこととして、労働力人口の中身の変化、肉体労働者から知識労働者への重心の移動である。

 

今日、知識労働者の平均寿命は、今世紀の初めには想像しなかったほど伸びる一方、彼らの雇用主たる組織の平均寿命は着実に短くなっている。

 

これからは、知識労働者が、雇用主たる組織よりも長生きすることを念頭におかなければならない。第二の人生のために、新しいキャリア、新しいアイデンティティ、新しい環境の用意をしておかなければならない。

 

今日あらゆる先進国において、最大の労働力人口は、肉体労働者ではなく知識労働者である。彼らは生産手段を所有する。知識を所有しているからである。しかも、その知識は携行品である。頭の中にある。

 

いついかなる時代においても、ひとりひとりの人間には、自らの進路を決める選択の余地はなかった。1860年から70年にかけて誕生した近代企業は、たとえわずかであっても、そこに働く者が上方に移動できるという意味で革命的な存在だった。

 

制度化された日本企業の終身雇用といえども、欧米において19世紀後半に誕生し、20世紀前半にそのピークに達した近代企業のコンセプトの体現であって、その完成にすぎなかった。

 

今日のところ、2020年ないし25年の企業の姿がどのようなものになるかは誰にもわからない。しかしそれが、今日とはまったく異なるものになるであろうことは明らかである。その原因となるものが、人口構造の中身の変化である。

 

 

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