数字は嘘をつかない『世界のリアルは「数字」でつかめ!』バーツラフ・シュミル


この世には曖昧なことが多すぎる。それは僕が日頃から抱えている悩みだった。もしも世界の全てが数字になったなら、こんな悩みを抱くこともなかっただろうに。

 

数字を発明した人は偉大である。それは曖昧模糊とした捉えどころのない輪郭しか持っていなかった世界に明確な形を与えた。

 

そのおかげで僕たちは今、多くのことをより早く理解することができるようになったのだ。時間、距離、量、エネルギー、この世のありとあらゆるものは数字で表すことができる。

 

人間は嘘つきだ。他者を騙し、「感情」という非合理的なものに操られ、自分の利益のためならば定められた契約すらもあっさりと反故にしてしまう。

 

対して、数字はどうだろう。彼らは決して嘘をつかない。その仕組みは厳格なルールの下にあって、そのルールからは逸脱することがない。その存在はどこまでも合理的で、美しく整っている。

 

『世界のリアルは「数字」でつかめ!』という本がある。バーツラフ・シュミルという人物が書いた一冊である。正確であろう公式のデータをもとに、数々の視点から世界を分析した本であった。

 

私はこの本を読んで、「数字」が好きになった。それまでは難しい計算式や退屈な単純計算の反復の印象しかなかった数字が、世界をこんなにも美しく示すことを、知らなかったのだ。

 

たとえば、幸福度というものがある。GDPや健康寿命、自由度、寛容度などのいくつかの要素を複合して総合したものを、「幸福度」と称してランキングしたものである。

 

これによると北欧諸国がもっとも高い水準を誇っており、次いで中南米、アジアやアフリカは低い順位に甘んじているようだ。

 

だが、改めて考えてみて、これは正しいのだろうか。幸福度を数字とするのは、試みとしては悪くないように思える。だが、その測るための数字が間違っていたならば、正しい数字が出ないのが必然である。

 

この本によると、自殺率と幸福度に相関関係はないという。幸福度だけを基準にして幸福を測るのは難しい。ただ、この数字を信用するならば、また別の見方が見えてくるらしい。

 

まず、幸福度ランキングの下方には、多く経済大国と呼ばれている豊かな国があること。次に、犯罪率が高くても順位の高い国があるということ。

 

つまり、経済的に豊かであるとか、犯罪率であるとか、そういったことは幸福度には関与していないということになる。ならば、どんな国が自分たちのことを幸福だと思っているのか。

 

上位の国に共通していることがある。かつてはスペイン領であり、カトリック教徒が多いことだ。経済的に貧しく、治安が悪くても、カトリック教徒たちは自分を幸せだと感じている。

 

そうなると、私たちは幸福になるために、何をすべきなのだろうか。富を得ることではないことはわかるだろう。だが、それならば、現代社会はどこに向かうべきなのか。

 

数字は、もっともわかりやすく世界に輪郭をつけてくれる。数字にするのが一見不可能に思えることすらも、今は数字で示されている。

 

私は数字が好きだ。この本の示している通り、まさしく「世界のリアル」をつかむには、数字を通すことがもっとも近道になるだろう。数字は嘘をつかない。数字を見れば、あらゆる現実が一目瞭然になる。

 

だが一方で、数字だけを盲信することも、怖いと思う。数字はあくまでもただのデータであり、道具でしかない。それを扱うのは、結局人間でしかない。

 

大切なのは、正しい数字を見ることだ。ほとんどの数字は人間の齟齬や時間や思惑によって歪められている。正しい手段によって定められた真に美しい数字こそが、世界を正しく見つめる唯一の方法なのだ。

 

 

数字を通して世界を見る

 

本書はさまざまな分野のトピックが詰まった、彩り豊かな作品だ。とりあげるトピックは、世界の人々、人口、国々といったものから、エネルギー利用、技術革新、さらには現代文明を語るうえで欠かせない機械やデバイスまで多岐にわたる。

 

まず初めに申し上げたいのは、事実をはっきりさせる、それが本書の目的だということ、とはいえ、それは一筋縄ではいかない。インターネットには数字が溢れているが、日付も出所も不確かなデータを引っ張ってきただけのものがあまりにも多いうえ、単位が不確かなものも散見する。

 

その点、本書でとりあげるほぼすべての数字は、4種類の一次資料からのみ引用している。国際機関が公表している世界各国の統計、国の公的機関が公表している年報や年鑑、官公庁が編纂した歴史的な統計データ、そして科学誌に掲載された論文だ。

 

世界では今、本当のところ、何が起こっているのだろう? それを理解するには、数字を適切な観点から見なければならない。つまり、歴史的な観点から現在と過去を比べたり、国際的な観点から国と国とを比べたりするのだ。

 

読者のみなさんが本書を読んで、この世界の真の姿を少しでも理解してくださることを願っている。わたしたち人間がとてつもなくユニークな存在で、さまざまなことがらを深く理解しようと飽くなき努力を重ね、発明や発見を続けてきたことに、きっと胸を打たれることだろう。

 

数字はウソをつかない。その事実のみならず、数字がどんな真実を伝えているのかを、さまざまな例を挙げながら説明したい。そんな思いから、わたしは本書を執筆した。

 

 

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