英米のことわざに学ぶ『人生の知恵とユーモア』奥津文夫


「天才とは1%の霊感と99%の発汗なり」かつて、エジソンはそんな言葉を遺した。この名言は、努力がいかに大切かという格言として語り継がれた。しかし、実際には違うのだという。

 

僕は、父親から教えられたその言葉を人生の格言と定めていた。才能がなくても努力すれば叶う。その言葉は、そんな希望に満ちたもののように思えたからだ。

 

だから、エジソン自身は努力を肯定していないのだと知った時は驚いてしまった。奥津文夫先生の『人生の知恵とユーモア』によると、その言葉は取材した記者が表現を変えてしまったのだという。

 

「99%の汗が実るのは、1%のひらめきを大切にした時なのだ」

 

それこそ、エジソンが実際に言いたかったことであるらしい。意味がまったくの真逆じゃないか! 僕は大いに驚いたけれど、同時にその言葉は、それまで格言としていたその言葉よりもさらに深く入り込んできたように思えた。

 

エジソンが偉業を為した裏には、数えきれないほどの失敗がある。彼はひたむきに努力を続けてきた。けれど、そもそもの実験の発端は、彼の頭にあったひらめきを実現しようとしていたからだ。

 

それは「努力こそが大切である」という言葉よりも科学者であった彼の言葉としてしっくりはまり込んだような気がした。

 

『人生の知恵とユーモア』は、英米や日本のことわざが記されている本である。中にはエジソンの例や、シェイクスピアの『ハムレット』のセリフの一節のような名言が引き合いに出されていることもある。

 

読んでいて驚いたのは、英米のことわざと日本のことわざを比較すると、意味が同じであるものが数多く存在しているということだ。

 

遥か昔から受け継がれてきたことわざが生まれた時、現代のように日本と英米とは気軽に行き来できる距離ではなかったはずだ。大きな海に阻まれていたのだから。

 

にもかかわらず、これほどまでに同じ意味のものがあるということは、日本にしても英米にしても、それぞれが「人間」としての教訓を遺したのが、「ことわざ」だからなのだろう。そのことに、軽く感動を覚える。

 

同じ意味でも、その表現の仕方が違うのは、国に根付く習慣や文化が違うからだ。日本でいう「覆水盆に返らず」が、海外では「零れたミルクを嘆いても無駄だ」というように。

 

また、価値観による違いもある。「勉強ばかりしていて遊びがないと、ジャックは馬鹿になる」という言葉からは、日本と英米の価値観の違いを大きく感じた。

 

日本ならば、「とにかく勉強しろ」というところだろう。けれど、英米では「勉強ばかりしていると馬鹿になるから遊べ」と言っているのだ。それがことわざとして受け継がれている。

 

両者の違いから国の価値観や習慣の違いが見えて、なんとも面白い。「ことわざ」とはこれほどまでにその国の色を映すのだということを初めて知った。

 

「狭き門に入れ」「馬鹿と金はすぐに別れる」「死神は暦を使わない」「良いことには、すべて終わりがある」「悪貨は良貨を駆逐す」「学問に王道なし」「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」

 

思わず口に出して言いたいようなことわざが、その本にはいくつも書かれていた。中にはハッとさせられるようなものもある。

 

僕たちは、普段、ことわざを意識して生活することはないだろう。けれど、日常のふとした瞬間に、ふっと頭の中に浮かぶことがある。ことわざは、私たちの深いところに根付いているのだと実感する。

 

僕はエジソンの言葉が好きだった。彼の努力を肯定する言葉が。けれど、新たに知った彼の言葉の真実に幻滅したかと言われれば、そんなこともない。

 

エジソンは僅かなひらめきだけを頼りに、努力を重ねて成功を手にした。99%を占める努力が大事なんじゃない。99%の努力をしても、1%のひらめきがなければ、100%にはならない。どちらが欠けていてもダメだったのだ。

 

ことわざは人生の指針になる。僕たちがいくら道に迷っていても、その言葉はずっと僕たちの目指すところで輝いている。僕は今、自分の信じた道を歩いて行けているだろうか。

 

 

ことわざは人生の羅針盤

 

人生には楽しいこともたくさんあるが、辛いことや悲しい事態に遭遇することも多い。その際に大きな励ましや希望を与えてくれたり、問題解決の知恵を与えてくれる最も頼りになるものがある――それは先人が残してくれた古今東西のことわざである。

 

世界のほとんどの国にことわざは存在する。いずれの国においても、民族の文化がことわざという形をもって各世代に受け継がれ、それぞれの国の貴重な文化遺産として語り継がれてきたのである。

 

本書で英米のことわざを主題として取り上げたのは、新しい時代を生きる若い人たちにとって魅力があると思われるものが比較的多いからであるが、また日本のことわざと比較することによって、古来の日本人の美徳を若い人たちに認識してほしいからでもある。

 

ただ、ことわざには相反する意味を持つものが存在するということを念頭に置いておく必要が有る。一体どちらが真実なのであろうか。どちらも真実なのである。

 

別の見方をすれば、相反する二つの真実を総合したところに真実が存在するとも言えるのであり、各自が自己の置かれた境遇や立場に相応しいことわざを主体的に選び取るならば、そのことわざの価値と有用性は極めて大なるものとなるであろう。

 

読者諸氏が共感できることわざを本書の中に見出し、心豊かな人生を生きるための座右の銘として役立てていただければ私の大きな喜びである。

 

 

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