衝撃の結末!『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』相沢沙呼


推理小説において、もっとも恐ろしいことは何か。それは、死者が蘇ることである。その瞬間、探偵がこねくり回す理屈も、事件現場に残された謎も、全てが無に帰すからだ。

 

ミステリとは、現実に即した理屈の上で成り立っている。いや、そのうえでしか成り立たないと言ってもいいだろう。

 

純然たる論理だけが謎を解く味方となる。だからこそ、ミステリはファンタジーやオカルトとは決して相容れることはない。そう思っていた。

 

だからこそ、その作品が人気作として出回った時、私は信じられない思いだったのだ。その作品の名を、『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』という。

 

美しい少女のイラストになど目を奪われたりはしない、と言っては嘘になる。翡翠色の瞳の少女は、どこか綾辻行人先生の『another』を彷彿とさせた。

 

物語は推理作家である香月史郎が後輩から悩みを相談されるところから始まる。彼女は占い師に見てもらって以降、奇妙な現象に悩まされているのだという。

 

彼女は紹介してもらった霊媒師のもとを訪ねるのに、「ついてきてくれないか」と香月に頼み込んだ。香月と城塚翡翠はこうして邂逅を果たしたのである。

 

オカルトの中でも、霊媒はミステリにおいて天敵とも言えるものだと、私は信じていた。だからこそ、私はそういった非現実的なものを信じない。

 

犯人をもっとも早く、もっとも確実に明らかにするためにどうすればいいか。それはもちろん、被害者自身の言葉を聞くのが一番良い。

 

だが、被害者が亡くなっていてはそれは不可能だ。死人に口はないのだから。探偵はそのために存在する。霊媒があるのなら、探偵は不要となる。

 

まず読んで、なるほどと思わされたのは、その点にある。霊媒なんてものは当然、証拠としての力を持たない。「被害者が言っていたから犯人は彼なのだ」は通じないのだ。

 

だからこそ、香月が論理によって事件と結果をつなげる。そうすることで初めて、犯人を捕らえることが可能になるのだ。「霊媒」というものを扱っていながらも、そこには紛れもない論理がある。ただ非現実に頼ったミステリというわけでもないらしい。

 

と、思っていたのだが、私は結末で再び驚かされることになった。いや、そうきたか。もはや言葉もない。ただ脱帽である。

 

『another』や『屍人荘の殺人』といった、オカルトやホラーを織り交ぜた本格ミステリというものが、昨今は数多い。

 

その中でも、この『霊媒探偵』は特に異彩を放つ作品であった。これ以上は何も語ることはない。読んでもらえればよかろうものである。

 

 

霊媒師と推理作家

 

「先生には、娘を殺した犯人を見つけ出してほしいのです」

 

妨げようのない死が訪れようとしている。婦人の眼を見たとき、香月史郎は運命にも似た予感を抱かずにはいられなかった。防ぐことのできない死が、足音を伴って、すぐそこまで迫っているのだと。

 

机の上には、彼女が自身で可能な限り収集したという、一連の事件に関する資料が置かれている。それはここ数年、関東地方を騒がせている連続死体遺棄事件についてのものだ。

 

犯人は、判明しているだけですでに八人もの女性を殺害していると見られている。彼はいっさいの証拠を残しておらず、警察の捜査は難航していた。そんな犯罪者を捕えることなど、誰にできるというのだろう。

 

「僕は……」言葉を吟味しながら、香月は言う。「警察の人間でも、探偵でもありません。ただのしがない物書きです」

 

だが、婦人は挑むように香月を見返して言った。

 

「先生には、霊能力者の方がついていらっしゃるのでしょう。ここしばらくの間は、その方とご一緒にいくつもの事件を解決なさっていると聞きました」

 

香月が霊能力者とともに事件を解決しているという噂が、ここのところネットや週刊誌などで拡散しているらしい。そして、その噂は正しいものだった。

 

これまで、香月史郎は、城塚翡翠という霊媒の娘とともに、さまざまな事件を解決してきた。そう、霊媒の力を使って――。

 

「少し考えさせてもらえますか。彼女にも、できることと、できないことがあるのです」

 

返答の保留を告げて婦人を帰らせたあと、香月は冬の寒空の下を歩いた。この依頼を承諾するかどうかは、慎重に判断する必要がある。ひとつだけいえるのは、その選択をすれば、城塚翡翠に死が訪れるだろうということだった。

 

連続殺人鬼と相対することで訪れる死。たとえそれが絶対的なもので、覆すことが困難なのだとしても、遠ざける努力はするべきだろう。

 

不安と恐怖を押し殺し、無理に笑おうとする彼女の愛しい姿を見れば、香月自身にも堪えようのない衝動が湧き上がってくる。香月も、危険を避けて彼女との関係を可能な限り続けていたいと考えていた。

 

城塚翡翠は、その力で殺人鬼に辿り着くことができるだろうか。焦点となるのは、そこだ。犯人の特定が不可能なら、翡翠をこの事件と関わらせる必要はどこにもない。

 

はたして翡翠の能力で、犯人を特定できるのか。それを見極めるためには、彼女の能力の特性や心霊の性質を吟味する必要がある。思考を整理するために、香月は翡翠と出逢った、最初の事件のことを振り返った。

 

 

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