赤い瞳が霊の真実を見抜く『心霊探偵八雲』神永学


 私は幽霊の存在なんて信じていない。あんなのは、ただの、生きている残された人たちの心が生み出した妄想に過ぎない。

 

 

 でも、私は幽霊ものは結構好きで、よく読んだり見たりしている。テレビの心霊写真特集や怪談特集も、毎回録画しているほどだ。

 

 

 神永学先生の『心霊探偵八雲』シリーズのことはずっと気になっていたけれど、読んだのはつい先日のことだった。

 

 

 生まれつきの赤い瞳を持つ八雲。彼のその瞳には、この世にいない存在、いわゆる幽霊が見えるのだという。

 

 

 心霊関係の事件にいつも巻き込まれる晴香とともに、八雲は、幽霊となった彼らが最期に遺した想いを探る。

 

 

 「幽霊のことを信じていないのに、どうしてそんなのを見るの?」「実は信じてるんじゃない?」とは、よく友人から言われる言葉だ。

 

 

 信じているから見るのではない。ただ、私がそういった作品や番組が好きなだけ。信じることと好きなことは、また別のことだろう。

 

 

 壁のシミが人の顔に見えたりだとか、柳の影が人に見えたりなんていうのは、昔から言われている、いわゆる見間違いというもので。

 

 

 最近では、心霊写真なんてものも編集すれば誰でもそれっぽいものが作れる。特集されている写真が偽物ばかりだなんて、誰でも理解はしているのだろう。

 

 

 それでも、心のどこかで幽霊の存在を誰もが信じている。それはきっと、幽霊がいてくれた方が嬉しいからだと思うのだ。

 

 

 亡くなった人とは永遠に会えない。それは当然のことで、誰にとっても苦しいものだ。

 

 

 それを永遠の別れにしないために、幽霊が作られた。愛する人とまた会いたい。彼は俺を恨んでいるはずだ。幽霊はそんな願望が創り上げた「見間違い」なのだ。

 

 

 それが私の考え。だから私は幽霊なんて全部都合がいい妄想の産物だと思っている。けれど、一方で、いればいいのに、とも思っていた。

 

 

 だって、そっちの方が優しい世界になるじゃん。もしも幽霊がいたとするのなら、私は『心霊探偵八雲』の作中に出てくるような幽霊なのだと思う。

 

 

 生前の人が残した感情。それが幽霊だ。悪霊とかはしばしば「怪物」みたいに扱われるけれど、それらも元は人間なのだ。

 

 

 死んでいった人たちは、何を思っていたのだろう。恨んだのか。苦しんだのか。満足したか。物足りなかったか。言い残したことがあったか。

 

 

 私たちは知ったふうに思い込むことはできるけれど、本当に知ることはできない。けれど、もしも、その感情を知ることができたなら、私はその力が欲しいと思う。

 

 

 祖母が亡くなったのは去年のことだ。特に慕っていたわけではない。毎年、お年玉をもらって、お礼を言っていた。それくらいの思い出しかない。

 

 

 むしろ、私は疎んでいたようにすら思う。あまり会いたくないと思っていた。祖母が病床に就いた時でさえ、私は会わなかった。我ながら、祖母不孝な孫であったと思う。

 

 

 それなのに、葬式で亡くなった祖母を見た時、私の心は震えた。

 

 

 生前はあまり関わりがなかった。それなのに、無性に寂しくなった。なんだか泣きたくて仕方がなかった。

 

 

 祖母ともう一度話してみたいと思う。彼女はいったいどんな想いを遺したのだろうか。

 

 

 けれど、いざ話したら、やっぱり私は上手く話せないんだろうな。漠然と、そんなことを考えるのだ。

 

 

 天井に、微笑が浮かんだような気がした。けれど、それは私の願望なのだろう。だって、私の瞳は赤くないのだから。

 

 

遺された思いが真実を語る

 

 その大学のキャンパスの外れに、雑木林がある。その雑木林を分け入った奥に、コンクリート壁造りの平屋の建物があった。今はただの廃屋である。

 

 

 その廃屋には、昔から幽霊が出るという噂があった。そして、この廃屋の噂には続きがあった。

 

 

 建物の一番奥には、鉄製のドアに厳重に鍵のかけられた開かずの間がある。中に何があるのかは誰も知らない。なぜなら、それを見た者は、今まで誰ひとりとして戻ってこなかったからだ。

 

 

 満月である。美樹、和彦、祐一の三人は、終電を逃してしまい、始発電車までの時間つぶしの方法を考えていた。そこで、大学内に広がる噂が話題にのぼった。

 

 

「噂が本当がどうか確かめに行こうよ」

 

 

 美樹が言い出した。和彦も祐一も美樹の意見に賛同し、夜の大学に忍び込むことになった。

 

 

 問題の廃刻に到着した時には、すっかり汗だくになり、美樹は当初の勢いを失って、後悔し始めていた。

 

 

 美樹は自分が先頭になって廃屋の入り口に向かって歩き出した。和彦と祐一は、お互いの顔を見合わせてから、美樹の背中を追った。

 

 

 外の冷たい風が室内に入り込み、床に積もった埃を舞い上げる。外に比べて室内は暖かかったが、自分の指先を見るのも不自由なほど暗かった。

 

 

 一瞬、青白い光が瞬いて室内を照らし出す。美樹は、その光に驚いて跳び上がる。美樹の怯えようを見て祐一がニヤニヤ笑っている。祐一がカメラのフラッシュを焚いたのだ。

 

 

 三人は、壁伝いに問題の開かずの間を目指した。廊下の突き当りにその部屋はあった。

 

 

 なんとも不気味な部屋だった。他の部屋とは明らかに違う重量感のある鉄製のドア。そのドアには鉄格子付きの覗き窓があった。和彦は、背伸びをして覗き窓から部屋の奥の闇を覗き見た。

 

 

 闇の奥で何かが動いた。そこに何かいる。和彦はその一点を凝視した。目! 和彦は、闇の中にいる何かと目が合った。和彦は悲鳴を上げて、後ろに飛びのくと尻もちをついた。

 

 

「何か見えたのか?」

 

 

 祐一が和彦に問いかける。和彦は、ドアの方に目を向けた。それに合わせて祐一も同じ方を見る。次の瞬間、和彦と祐一は言葉を失った。

 

 

 覗き窓の鉄格子の隙間から、青白い手が伸びてきて、いきなりドアを背にしている美樹の肩を掴んだ。

 

 

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