最強の吸血鬼と最初の眷族の哀しい過去『鬼物語』西尾維新
「何か、ぼくに隠していることが、あるんじゃないかな」
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
「何か、ぼくに隠していることが、あるんじゃないかな」
私には好きな人がいます。ずっと、ずっと、私は彼のことが好きでした。
高校に通っていた頃、クラスメイトにひとり、変わった子がいたことを、今もまだ覚えています。
「あなたは、今まで生きてきた中で嫌な思い出とかは、ございませんでしょうか。いっそ、忘れ去りたいほどの」
黒い雨が大地に降り注ぐ。さながら、かの人の最期を世界が悲しんでいるかのようだった。
ああ、喉が渇く。私は忌々しげに喉を掻き毟る。しかし、それでもこの堪えがたい渇きを癒すことは出来ない。
「本物と、それとまったく同じ、区別もつかないような偽物があったとしたら、どちらのほうが価値があると思う?」
「『想い』ってのは大変なものだよね」
その人と会ったのは、茹だるように暑い夏の日のことでした。その人は行き交っていく人たちの中で、どこかぼんやりと立ち尽くしていました。
大きな窓を大粒の雨が勢いよく叩いている。薄暗い夜陰のベールと雨に覆われている外には、かすかに車のタイヤが見えた。