相変わらず不愉快な奴だ。同窓会で数年ぶりにあいつと会った時、俺の胸には過去の後悔が怒涛のように押し寄せてくるのを感じた。
俺とあいつは幼稚園の頃からの腐れ縁である。その頃は仲が良かったが、年長組になる頃には何があったか、不倶戴天の敵となっていた。理由は思い出せない。
あいつと俺の関係は小学校、中学校、高校と続いた。ずっと同じクラスだ。ここまで来るとある種の呪いのようである。
あいつは人を煽ることが趣味のような奴で、人の揚げ足を取っては、にやにやと喜んでいた。
しかし、そんな性格にもかかわらず、奴は人から好かれ、いつも多くの友人に囲まれていた。人付き合いが苦手な俺は嫉妬に身を焦がすしかなかった。
なぜこんな奴が。思えばその嫉妬の想いは、学生時代の俺の心をずっと蝕んでいた。俺はあいつの存在をいつも意識していたのだ。
今にして思えば、あいつは誰に対しても煽るようなことをしていた。しかし、その当時は俺に対する煽りに悪意があったように感じていた。
俺はあいつが嫌いだった。嫌えば嫌うほど、あいつに囚われていった。いつだってあいつに対して見返すための機会を、血眼になって探していた。
俺の目が覚めたのは、進路を決める時だった。高校三年生の頃だ。俺はその時初めて、今までの学生生活でいつもあいつの存在があったことを意識した。
俺の学生生活はあいつによって壊された。それはただの八つ当たりかもしれないが、当時の俺はそう感じた。
俺は思い切って、決めていた進路を大きく変更し、同じ高校の奴が誰も通っていない大学を選んだ。俺はそこでようやく、あいつの呪縛から逃れることができたのだ。
知り合いの誰もいない環境で新しくできた人間関係は、それまでの学生生活とは比にならないほど居心地の良いものだった。いつしか、俺の中のあいつの存在はひどく希薄なものになっていった。
俺の中に再びあいつが顔を見せたのは、『頭に来てもアホとは戦うな!』を読んだからである。ドラマ化もされたビジネス書だ。
ここでいう「アホ」は、「あなたの足を引っ張る人」のことを指す。あいつが俺の足を引っ張ろうとしたかは知らないが、俺にとっての奴は間違いなく「アホ」だった。
だが、その本を読んで、気が付いたのは、何よりもアホなのは、他ならぬ俺自身だということだ。
あいつのことを嫉妬し、囚われ、あいつの足を引っ張ろうとした。俺にとっての「アホ」があいつであると同時に、俺自身が「アホ」だったのだ。
もしも、俺があいつに囚われすぎなければ、貴重な学生生活を棒に振ることなどなかったかもしれない。だが、もうそんなことは言っても過ぎた時は返ってこないのだ。
あいつの顔を久しぶりに見た時、胸がざわついたのは一瞬だった。その後悔もまた、すぐに波を引くように消えていく。
俺はもう戦わない。戦いから生まれるのは、いつだって途方のない疲労感と虚しさだけだと知ったからだ。
人生を変える非戦の極意
私がこの本で送りたいメッセージは経営戦略に似ている。「限られた資源を無駄遣いするな」ということだ。
時間もエネルギーも、たった一度の人生を思いきり謳歌するための、限られた財産である。それを「アホと戦う」というマイナスにしかならない使い方で消費するなと言いたいのだ。
そういう意味で、この本は「非戦の書」である。私が世界最高の非戦の書だと思う『孫子の兵法』が時を超え、現代社会版になったのがこの本だと自負している。
「アホ」というと、ある程度心当たりがあるだろう。要は、むやみやたらとあなたの足を引っ張る人だ。
はらわたが煮えくり返り、家に帰ってもなかなか怒りが収まらなかったことはないか? しかし、間違っても「やり返してやろう」などと思っていないことを祈る。実は、あなたのそうした思考がもっとも危険なのだ。
アホが許せないという責任感や正義感はある意味素晴らしいが、やはりナイーブだともいえる。
悪い奴ほど出世する。どうやら真理と善悪とは別である。追求すべきは「真理」だ。ひとつの真理は、勧善懲悪を人生に期待してはいけないということだと思う。
成功者は無駄に戦わない。戦うべき時と相手を選ぶ。アホと戦う無駄を知り尽くしているから成功するのだともいえる。
戦うべき相手は人間関係で「くよくよ悩む自分」「腹を立てる自分」だと思ってほしい。そして、神経をすり減らさないための第一のポイントは、自分にもっと関心を持つことだ。
そもそも、日本人は他人に関心があり過ぎる。他人ばかり気にしていたら自分と向き合う時間がなくなってしまう。
これからは、自分が本当に何がしたいのか? そのために何が必要なのか? そっちに専念した方がいい。
アホと戦わない生き方こそ、あなたがあなたらしくあることができ、あなたが目指す目標により近づけることになるのだ。
大切な人生をより輝くものにするためにも彼らと戦ってはならない。そんな人間は放っておけばいいのだ。無駄に戦えば、あなたの方が人生を大事にしない最低のアホになってしまう。
さあ、これから無駄な諍いなんて放り出し、人生を謳歌する旅に一緒に出かけよう!
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