昔から本を読むことが好きだった。教室でもみんなが遊んでいる中、私ひとりだけ本を読んでいることが多かった。心の中に一抹の寂しさを抱えたまま。
本について、誰かと語り合いたい。それは、ずっと私が抱いていた想いだった。好きな本について思う存分語り合えたなら、それはどんなに楽しいことだろう。
けれど、生憎と、私のクラスメイトたちは、本が好きではないらしい。ひとりだけで本を読んでいる私と、みんなで楽しく話している彼女たちはまったく別の世界に住んでいるかのようだった。
「え~、本? 嫌だよ。授業中にも教科書読まないといけないのになんで休み時間も勉強しなきゃいけないの?」
一度だけ、勇気を出して、本を読むかどうか、彼女たちに聞いてみたことがある。その時の、答える彼女の心底嫌そうな表情は今も忘れられない。
どうやら、彼女たちにとっては、本を読むというのは勉強と同じことであるらしい。マンガを読むのが好きという子はいたけれど、小説ともなると誰もが目を逸らす。
寂しかった。「この本、面白いよ!」とか、「ここのストーリーが最高で」とか、誰かと共有してみたかった。けれど、みんな、本の話を持ち出すだけで、嫌そうに話題を変えてしまう。
そんな私が、ひとつの決意を秘めたのは、ある一冊の本を読んだことだった。それは、吉田新一郎先生の『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』という本。
ブッククラブ! 「ブッククラブ」というものを知ったのは、その時だった。それは私にはまるでオアシスのようにも思えた。
本が好きな人たちが集まって、一冊の本について何も気兼ねなく語り合う。なんて素敵なことなんだろう。それはまさに、私が心に思い描いてきた理想。
私のクラスメイトたちのように、最近は本を読む人が減っているらしい。誰も彼もがスマホやゲームを楽しんでばかりで、文字だけが並んでいる本なんて「勉強」としか思えないのだという。
けれど、そんな中でも、まだまだ紙の本を愛する人たちはたくさんいる。『ブッククラブ』を読むことで私はその事実を知って、途端に嬉しくなった。
私だけじゃない。そんな想い。たったそれだけで、胸が暖かくなる。ブッククラブに参加すれば、そんな人たちと会うことができる。話すことができるんだ。
しかも、本の中には、海外や日本で実際のどんなブッククラブが開催されているのか、具体的な名前と場所が例として挙げられていた。
私も参加してみたい。ブッククラブに。そんな想いが、私の胸の中にふつふつと湧いてくる。その想いは、日に日に胸の内で大きくなっていくかのようだった。
でも、今の時世じゃあ、ちょっと難しいかも。今でも開かれているのかな、ブッククラブ。けれど、すでに私の中では、その欲求は抑えきれないくらいに膨れ上がっている。
……いっそのこと、リモートでやってみるっていうのも、楽しいかもしれない。ブッククラブは、自分以外の仲間を2~3人集めればできるようになるらしい。
本が好きなのは、自分だけじゃない。本好きな人はきっと、どこかにいてくれる。本の魅力を語り合いたい。その欲求を抱えながらも、寂しさに涙を流してきた人たちが。
ブッククラブの魅力
アメリカやイギリスなどの欧米諸国では、「ブッククラブ」という本の読み会を楽しむ文化が長年にわたって続いています。一方、日本では、社会人になってから本を中心に据えた勉強会などが行われているケースもありますが、あくまでも勉強の手段と位置付けられているようです。
ブッククラブは、①楽しく、②読むことが好きになり、③刺激があり、④大きな学びがあり、⑤人間関係を築くために最高の機会です。このブッククラブを多面的に紹介し、広く日本社会で実践してもらうことが本書の目的です。
長くて1日~数日、短いと2~3時間の研修を受けたところで、実践を変えるのは難しいものです。しかし、受講者がそれぞれの仕事場に戻ってから研修の内容に関連した本を一緒に読み合うことで、実践は飛躍的に変わっていくことがあります。
この極めて効果的な方法を、もっと研修や仕事で使ってほしいと思ったことが本書執筆のきっかけです。
もうひとつ、せひブッククラブを紹介したいと思ったきっかけがあります。それは、学校の授業の中でのブッククラブの成功です。
「リーディング・ワークショップ」という極めて効果的な、読むことを中心にした国語の授業のやり方を紹介しているのですが、その中にもブッククラブがしっかりと位置づけられています。
そして、それを体験した子どもたちや実践した先生たちの評価があまりにも高かったという報告があったからです、
自分以外の仲間を2~3人確保できればやれてしまうのがブッククラブです。特に、効果については、信じられないほどたくさんのものがあることに気付いていただけると思います。そして、それらのすべてが不可欠なものばかりであるということもお分かりいただけると思います。
それでは、ブッククラブの世界を存分に楽しんでください。
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