ああ、もう、疲れた。もしも、自分が煙であったなら、誰にも気づかれずに、どこか遠くに消えていけるのに。
気が付けば、そんなことを、思うようになった。どうして誰も彼も、私を放っておいてくれないのだろう。
人の顔色を見て、にこにこと楽しくもないのに愛想笑いを浮かべて、不文律のマナーを必死になって覚える。
そんな日々には、もうウンザリしていた。だが、そこから逃げることなんてできない。仕事をしていれば、人間関係は必須だ。
ひとりになりたい。ほんの少しだけでもいい。ほんの少しだけ、ひとりでいさせてくれ。そんなことを、切実に願っていた。
会社では上司や同僚、客がいる。そして家には、親がいた。逃げられる場所なんてどこにもなく、いつだって私の周りには人がいる。スマホで友人から連絡が絶えない。
私を羨ましいという人もいるだろう。友達が多くていいな、と。だが、私はその人間関係の糸に絡まれ、動けなくなっていた。
腕が締め付けられ、今にも引き裂かれそうなのに、逃げることすら叶わない。この世の中はなんて生きづらいのだろう。
近所の図書館は、そんな私にとって唯一、心休まる空間だった。そこは小さくて、人気がなく、静かだった。スマホの連絡も入ってこない。
その図書館の隅で本を読むのが、私のいつもの日課だった。ああ、こんな時間が、もっと続けばいいのに。普段の喧騒がまるで別世界のことのようだ。
ふと、一冊の本のタイトルに惹かれた。『孤独のちから』という本だ。「孤独」というワードが、今の疲れ切った私の琴線を揺らしたのだ。
その本を手に取って、空いている隅の椅子を陣取り、ページをめくる。「はじめに」のところから、思わず読みながらうんうんと頷いてしまった。
人間関係の煩わしさを感じながらも、ひとりでいることは、怖くて仕方がなかった。
ひとりでいたいと言えば、まるで理解できないような表情を向けられる。それが普通だった。
友だちや、上司や、同僚が、私から離れていくのが怖くて仕方がなかった。そうなれば、私は本当の意味でひとりになる。
煩わしさからは、解放されるだろう。今はそれを願っていた。しかし、怖かったのだ。
もしも、その孤独が、その先にもずっと続いたのなら。そう思うと、彼らを無下にすることはできなかった。
自分を絡めとる糸を、切ることを躊躇っているのは、自分だった。自分を苦しめている糸が、煩わしいと思いつつも、切って大丈夫なものかどうか、わからなかった。
けれど、その本は躊躇っている私の背中を、押してくれた。ひとりでも大丈夫なのだと、教えてくれたのだ。
孤独であることを怖れさせているのは、世間だ。世間が孤独を怖がっているから、「孤独は悪いこと」だと思われている。
でも、そうじゃない。孤独であることは、人の顔色を見る必要なんてないし、思いもしていないことを言う必要なんてない。
誰にも気にすることなく、「私自身」のままでいられるのだ。この図書館の隅の席と、同じように。
私は、煙になりたい。誰の目にも見えず、誰に媚びることもなく、自由気ままに空を飛ぶ煙に。
孤独の大切さ
私たちは、どこにいても人間関係に気を遣わないわけにはいきません。そんなふうに気遣いをしているうちに、心の中はもうクタクタ、疲れ切ってしまった、という方も少なくないのではないでしょうか。
私はこれまで、多くの方のカウンセリングを行ってきました。そしてそこで、「ひとりになりたいけれど、なれない」という悩みをお聴きしてきました。
悩みを訴える人は、孤立したり、仲間外れになることを怖れています。そのため仕方なく、人間関係の輪の中に入っていき、ますます心が疲れていくのです。
なぜ私たちは、そんなに無理をしてまで人間関係を維持しようとするのでしょうか。こんなに面倒くさいなら、人間関係なんて切り捨ててしまえばいいのではないでしょうか。
けれどもそれができないのは、世間では、ひとりでいること、孤独であることに冷ややかな視線が浴びせられていることをよく知っているからです。
ひとりや孤独を肯定するものの見方が、今の日本には必要だと私は思います。このようなものの見方や考え方が、自分らしい人生を生きていくために必要なものではないか、と思うのです。
本書は、知らず知らずのうちにがんじがらめになっている他の人との人間関係について考えを巡らし、「ひとりでいることの大切さ」を見直していく本です。
そして、具体的に方法を紹介することで、自分らしく生きていくための手がかりをつかんでもらうための本です。
自分らしい人生を生きていくうえで何よりも大切なことは、「孤独力」を身につけることです。
本書をお読みになることで、あなたが自分の心の声に耳を傾け、少しでも、より自分らしい人生へと踏み出していくことができれば、幸いです。
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