「すまないね、こんなことになって、本当に申し訳ないとは思っているんだ。でもね、ほら、こんなご時世だろ、仕方のないことなんだよ」
上司のすまなそうな低姿勢がいつになくイライラする。だが、ここで彼に殴りかかろうが言い返そうが、結局は何も解決しないのだということはよくわかっていた。
大学卒業以来勤めてきたこの会社。心底つまらない仕事ではあった。若い頃はそれなりに苦労もした。だが、ある程度のキャリアを重ねてしまえば、後はなあなあでも何とかやれた。
会社に愛情はあるかと問われたならば、「ない」と答えるだろう。面倒な上司。生意気な部下。面白みのない仕事。いい職場だったとは言えない。だが、愛情はなくとも執着はあった。
会社に所属していない自分というものを、想像すらしていなかった。そもそも、働かなければ生きていけないじゃないか。
だからこその、不意打ち。きっかけは、今や世界中で猛威を振るっている感染症だった。それはほんのわずかな時間で、ぞっとするような速度で国中に広がっていったのだ。その結果起こったのは、経済危機である。
俺の勤めていた会社は食品を扱っていた。不運だと言えるかもしれない。政府が「食事の時に感染する」と言ったせいで、主な卸先だった飲食店が軒並み休業することになった。
もともと、多くの社員を抱えるマンモス会社である。唐突に食らうことになったこの大打撃は、会社には致命的だった。あんな雀の涙ほどの補償では到底賄えるものではなかった。
下手すれば会社の存続すらも危ぶまれる中、社長を含めた会社の上層部のお偉いさん方が下した結論は、社員の大量解雇である。
隣の席にいた奴が、明日にはいなくなっている。そんな状況すらも珍しくはなくなっていた。入ってきたばかりの若い連中は会社に馴染む暇もなく追い出されることになった。
そして、その波はとうとう、俺のもとにまで迫ってきたのだ。上司から退職勧奨が伝えられ、俺は呆然と立ち尽くした。
気が付けば、帰路についている。これからいったいどうすればいいのだろう。会社に所属しようにも、俺もいい年だ。雇ってくれるところなどあるのだろうか。いや、そもそも、こんなご時世に、就職なんてできるのか。
貯金はないわけじゃない。給料を使う余地なんてなかったのもあって、結構な額が通帳には書かれている。だがそれも、今後の収入をつくることができなければすぐになくなるだろう。
どうにかしなければ。そんな迷いを抱えながら入ったのは、図書館である。考え事をするには、この静かな環境が最適だった。
本の背表紙を眺めていると、ふと、一冊の本が目に留まる。そこには、『世界一ラクなお金の増やし方』と書かれていた。思わず手に取ってみる。
前書きによると、どうやら、この本の著者も、早期退職勧奨を受けたらしい。しかし、彼にはそれが打撃にはならなかったのだという。
その理由は、彼がインデックス投資をしていたからだ。つまり、コツコツと運用して増やし続けていた資産が、その時の彼を助けたのだという。
なるほど、この本は投資の本か。俺は考えた。期待したような、今すぐに役に立つものではない。俺は投資が嫌いだったからだ。漠然と苦手意識を抱いていた。だが、仕事を辞めた今、それがどうにも魅力的に映る。
今のご時世、何が起こっても不思議じゃない。感染症なんてほんの一、二年前は影も形もなかったのだ。そのことを、俺は実感していた。どうにかして、自分の安定を手に入れるための手段をつくっておかなければならないと感じていたのだ。
その手段に、投資もいいのかもしれない。だが、素人の俺にそんなことができるのか。いや、その方法こそが、この本に書かれていることじゃないか。そう気づいた途端、俺の中の迷いは消えた。
よし、投資を始めてみよう。将来、今と同じ轍を踏まないように。頼むぞ、お前だけが頼りなんだ。俺はひとりごちて、脇に抱えたその本の表紙を軽く撫でた。
長期的なお金の増やし方
早期退職勧奨というと、50代の衰えゆくおじさんが寂しそうに歩くようなイメージもあります。私もまさにそういう状況になってしまったのですが、幸いなことに私には結構まとまったお金がありました。
この10年くらい淡々と運用してきたインデックス投資で、収入ナシでも10年は生活できる資産を形成できていたのです。こうして、ケッコーお気楽に会社を去ることにしたのです。
本書は、インデックス投資を中心とした長期的なお金の増やし方について書いた本です。この本を手に取った人は、投資に興味を持っているけど一歩踏み出せない、そんな人が多いと思います。
多くの人は、「投資で一攫千金」というだいそれた目標はもっていないはず。「老後の資金作りのために、少しずつでもお金を増やしていきたい」といったささやかな願望をお持ちのはずです。
そんな庶民の資産形成にもっとも適した方法がインデックス投資です。インデックスファンドを積み立てで購入するだけというとてもラクにお金を増やす方法なんです。
1.手間いらず
2.低コスト
3.ローリスク
お金を増やすためにあなたがやることは、インデックスファンドを買って、持つだけ。ホントーにこれだけなのです。
インデックス投資をはじめるみなさんにとって、今は追い風が吹いています。2018年から「つみたてNISA」というお得な制度が始まり、日本のインデックス投資環境はほぼ完成形となりました。
特にあなたが20~40代ならゼッタイ始めるべきです。長期投資にタイミングなどあまり関係なく、早く始めれば始めただけ有利に運用できるのです。
お金だけで幸せになることはできませんが、お金があると人生の岐路に立たされた時選択肢が増えます。お金があると人生の変化に柔軟に対応できます。投資は、そんなささやかな幸せを作るための有力な手段なのです。
「投資ってなんかうさんくさいから嫌い」「でも、将来のお金はすごく不安」そういう方にこそ、本書はおすすめです。本書を読めば、インデックス投資のことが一通りわかるようになっています。
この本が、あなたの資産形成の一助になるなら、著者としてこんなに嬉しいことはありません。
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