三年ごとに、それは起こる。夜見山北中学の三年三組の生徒が、信じられないような不幸の連鎖によって次々に命を落としていく。〈現象〉、あるいは〈災厄〉。このミステリに、犯人はいない。
本屋に並んだ、ぞっとするような少女の顔。その本、綾辻行人先生の『Another』に惹かれるように手に取り、読んだのは、もう随分と昔のことになる。
当時はまだ、その作品も人気が出始めたばかりくらいの頃で、私自身も期待を抱いて読んだわけではなかった。ただ、気になったから手に取った、それだけのこと。
まさかその物語に、これほどまでに魅了されるとは、思ってもみなかった。
ひとりの生徒の死をきっかけとして起こるようになった〈災厄〉。三年三組の生徒と教師、そしてその関係者たちが次々と異常な偶然によって命を失っていく。
クラスにはひとり、〈死者〉が紛れ込んでいる。すでに亡くなっている人間が復活し、クラスに加わる。記憶や記録は改竄され、誰もそのことに気が付かない。だから、入学式の日には、机と椅子がひとつ余る。〈死者〉がいる年に、〈災厄〉は起こるのだ。
どうすれば、〈災厄〉を止めることができるのか。クラスに紛れ込んでいる〈死者〉は誰か。それは今まで読んだこともないミステリだった。
すっかりその世界に恋してしまった私は、続編である『Another エピソードS』を読むことにも躊躇はなかった。前作とは雰囲気がまったく違うミステリだったが、あの禍々しいルールの片鱗がところどころに覗いているのがまた、たまらない。
それから数年、『Another』を読んだ時の感動もすっかりと記憶の底に沈み、どんな物語だったか、その光景すらも靄がかったように曖昧になってきた頃、図書館の片隅で、一冊の本を見つけた。
あまりにも分厚い、圧迫感のある装丁。途端、あの頃の黒い感動がよみがえってくる。『Another 2001』。あの『Another エピソードS』に続く、『Another』の続編だった。
震える手で手に取る。表紙に透明感のある『エピソードS』とは違う、禍々しい表紙。艶めかしくもぞっとするような、少女の顔。
まるで長い時を待っていたかのような錯覚に囚われた。またあのおぞましい〈災厄〉が、牙を向くのか。その瞬間を、私はずっと望んでいたのだ。
物語は、『Another』から三年後の夜見山である。語り手は、その年、三年三組になった比良塚想。『エピソードS』で登場した少年だ。
彼はすでに〈災厄〉のことを知っている。そして、入学式のその日、彼はある決意を胸に秘めていた。もしも、もしも〈災厄〉が起こる年だった時は。
果たして、クラスでみんなが席に座った時。机と椅子がひとつ、余っている。その瞬間、クラスの全員が悟った。今年は「ある年」なのだと。
これから起こるかもしれない〈災厄〉を、止めることができるのか。私の意識は再びあの呪われた地、夜見山の土を踏んでいた。
悲劇はまた、繰り返される。音がしていた。重機の唸り声。タイヤの路面を擦る音。煮え立った鍋。本を読む私を青い瞳で見つめる、虚ろな人形。
再び〈災厄〉が訪れる
一九七二年。昭和でいうと四十七年。つまり今から二十九年前の出来事。――この年の春、夜見山北中学三年三組のある生徒が亡くなったんですよね。家族全員が、火災で亡くなった。生徒の両親も、ひとつ年下の弟も。
生徒の名前はミサキ。
一年生のときから学力優秀、スポーツ万能、美術や音楽の才能もあって、なおかつ眉目秀麗で人柄も良くて、生徒からも先生からも愛される人気者だった。
だから……その知らせを聞いて、みんなはすごくショックを受けて、すごく嘆き悲しんだ。あまりにも突然の人気者の死を、すんなりと受け入れることができなかった。
みんなは善かれと思って、間違った接し方を始めてしまった。ミサキの”死”に対して。つまり、「ミサキは生きている」というふりを。
ミサキはそこにいる、ちゃんといる。ミサキは生きている。亡くなってなんかいない。……三組の生徒全員が、教室ではあくまでも「ミサキは生きている」って、そんなふりをしはじめ、しつづけた。卒業式の日まで、ずっと。
だけど、それは――そんなやり方は間違っていたんですね。”死”は”死”として、きちんと受け止め、受け入れるべきだったのに。なのに……。
卒業式のあと、教室で撮った記念写真があったんですよね。その写真を見て、みんなは驚いた。実際にはいるはずのないミサキがそこにいて、蒼白い顔で、みんなと同じように笑っていたから。
これが二十九年前の、始まりの年の……。翌年度から三年三組で起こり始めた不可思議な〈現象〉の、引き金になった出来事。〈現象〉……そして、それに伴って降りかかる理不尽な〈災厄〉の。
〈現象〉はたぶん、三年前のあれで終わったわけじゃない。また起こるかもしれない。もしも今年、あなたが三組になったとしたら、そして、もしも……。
……気をつけて。もし万が一、そうなってしまったときには。
はい。でもね、もしもそうなってしまったときには、ぼくは……。
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