過剰な環境保護ブームへの警鐘『恐怖の存在』マイケル・クライトン


地球は温暖化している。南極の氷が溶け、海水面が上昇し、小さな島国などは海に沈む。「地球温暖化」は長く私たちの環境を揺るがす大きな問題のひとつとして騒がれてきた。だが、それは果たして、真実なのだろうか。

 

『恐怖の存在』はマイケル・クライトン先生が晩年に書いた作品である。先生は『ジュラシック・パーク』をはじめとする作品を通して、生命科学に対する疑問などを発露してきた。

 

しかし、『恐怖の存在』を出版した時、先生には読者やメディアの多くから痛烈な批判が集まったという。それまで先生を称賛していた人たちまで、一斉に転じて批判を始めたのだ。

 

『恐怖の存在』は、地球温暖化をテーマにした作品である。彼はこの作品の中で、「地球温暖化は起こっていない」という持論を展開した。

 

視点はひとりの弁護士ピーター・エヴァンスを中心に描かれる。彼の雇い主であるジョージ・モートンは環境運動を支援する大富豪として知られていた。

 

彼が力を入れていたのは、ヴァヌーツによるアメリカへの訴訟の支援である。彼は、訴訟を担当している環境保護団体NERFに多額の資金提供をしていた。

 

しかしある時、モートンは奇妙な行動をし始める。NERFの会合で、それまでの彼の行動すべてを裏切るような演説をした後、彼は失踪して姿を消した。

 

モートンに遺されたメモを頼りに、ピーターはモートンの秘書のサラとともに、人為的な気象災害を企むエコテロリストの存在を明らかにするが、彼らの魔の手はすでにすぐそこまで迫ってきていた。

 

作中の資料によると、「海面の上昇は起こっていない」「南極の気温は上がるどころか、下がっている」ということが述べられている。元にされたとされる論文の執筆者は、「誤った引用のされ方をされている」と言ったそうだ。

 

「地球温暖化」は事実か、否か。私たちはずっと地球温暖化を常にそこにある問題として扱ってきた。だが、この本を信じるならば、その「常識」は根底から覆されることになる。

 

私は何ら専門的な知識も持つわけでもなく、どちらが正しいか、という持論を語るほどの見解は持っていない。暑くなっているという体感は持っているが、世界的にそうだとは言えないからだ。

 

だが、クライトン先生が「疑似科学としての地球温暖化」とは別にもうひとつ、この作品に込めたテーマは考えるべきかもしれない。

 

現在、「環境保護」は世界的な課題となっている。企業はこぞって環境に優しい商品を開発し、世界の首脳たちが集まって環境保護について話し合うサミットも開かれた。

 

「環境保護」と「政治」の結びつき。先生が提示しているもうひとつのテーマは、それだ。環境保護が騒がれていくにつれて、企業はその尻馬に乗っかり、環境保護団体の影響力はいっそう大きくなっていく。

 

「環境保護」を名目に世界中で展開される膨大な利権。先生が見ているのは、美しい名目の背後で脈動する、人間らしい、ドロドロした、実におぞましいものの存在である。

 

環境保護を意識するのは、いいことであると私は思う。地球温暖化を危険視するのも、いいだろう。私たちが住んでいる地球の環境を保持することに、否があるはずがない。

 

けれど、世の中に「常識」とされているものを、そのまま呑み込んで信じることは、実は危険なのではないだろうか。それが本当に事実だと、私たちは何も知らないまま、ただ「そう言っているから」と、無批判に受け入れている。

 

「地球温暖化」は事実か、否か。「それが常識だから」「みんなが言っているから」ではなく、自分自身の意見を持ち、ひとりひとりの意見を尊重できるような世の中になってほしいと、私は思う。

 

 

地球温暖化の疑惑

 

二〇〇三年末、ヨハネスブルグで開催された〈持続可能な開発に関する地球サミット〉において、太平洋の島嶼国家ヴァヌーツは、地球温暖化の原因を作っているとの理由により、合衆国環境保護庁を提訴すると発表した。

 

ヴァヌーツの国土は平均海抜が一メートルほどしかなく、地球温暖化で海位が上昇すれば、同国に住む国民八千人は国外への避難を余儀なくされる。

 

これを受けて、アメリカの活動家団体であるNERFは、ヴァヌーツの訴訟を支援することを表明。かくして温暖化訴訟は、二〇〇四年夏に提訴される見込みとなった。

 

噂によれば、その費用は全面的に、富豪の慈善家ジョージ・モートンが負担するとのことだった。同裁判所はこの種の問題に同情的なだけに、訴えはしかるべく受理されるものとの見方が大勢を占めていた。

 

ところが――ふたをあけてみると、提訴がなされることはなかった。提訴とりやめに関する公式の説明は、ヴァヌーツからもNERFからも、とうとうなされずじまい。

 

また、ジョージ・モートンが突如として失踪したのち、なぜかマスコミは、この訴訟をとりまく状況をいっさい調査しようとも報道しようともしなかった。

 

ようやくその一端が明るみに出たのは、二〇〇四年も終わりごろ、NERFの元理事数名が組織内の事情を明かしてからのことである。

 

今では、二〇〇四年五月から十月にかけ、ヴァヌーツの訴訟をめぐって何があったのか、その結果、世界各地でなぜあれほど大勢が死んだのかが、細部に至るまで克明に解明されている。

 

 

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