目の前が真っ暗に染まっていた。毎日、朝が来ないことを祈っていた。だが、無情にも日は上る。布団から起き上がって、着替えて、出勤しなければならない。向かう先が自分にとっての地獄だと知っていながら。
仕事が嫌だった。怒られるためだけにやっているような単調な作業。横暴な老人のアルバイト。日に日に冷たくなっていく上司の目。休日でも鳴り響く携帯電話。電話口から聞こえる怒鳴り声。
ダンボールを切るために持ち歩いているカッターナイフを、職場の隅の誰も見ていないところで、手首に宛がう。押し当てる刃の冷たさが、微かな快楽を与えてくれる。
本当に切るつもりはない。でも、切ることができたなら、どれほど幸せだろうと思う。今の苦痛から逃れるためなら、なんでもよかったのだ。
その頃の私には、ひとつの道しか見えていなかった。暗闇の中に、私を救ってくれる道はただひとつ。命を絶つことでしか、嫌な仕事から逃れることはできないのだと堅く信じていた。
「お前、最近、笑わないな」
笑う？ 友人から言われて気付く。もう、その言葉すらも縁遠いものだった。今までどうやって私は笑っていたのだろう。それすらも思い出せなかった。
「これ、読みなよ」
彼はそう言って、一冊の本を手渡してきた。『道は開ける』とタイトルには書かれていた。著者のカーネギーという名前は聞いたことはあるが、詳しくは知らなかった。
「きっと助けになるから」
友人とはその言葉を交わして別れた。後に残されたのは、私の手元の中の本だけである。どうしても読む気にはならなかったのだけれど、友人の言葉が気になって、ゆっくりとでも読み進めてみることにした。
『道は開ける』によると、カーネギー氏は『人を動かす』という本を出版した。それは話し方や人に影響を与える方法を綴った本だ。
だが、彼はもうひとつ、解決しなければならない重要な問題があることに気付いた。心の問題である。多くの人が不安や悩みに侵されていた。彼がこの本を書いたのは、その問題を解決するため、であるらしい。
その本には、数々の事例や言葉がいくつも書かれていた。先人たちがどのような悩みを抱え、また、どのようにして立ち直ったか。彼らの経験談が思わず私自身と重なって、気が付けば前のめりに読んでいた。
不幸なのは自分だけじゃない。私が世界一不幸だと思っていた。だが、そうじゃない。私よりも不幸な人たちがたくさんいて、彼らは自分の道を、見つけ出したのだ。
「ぬかるみを見るな。星を見よ」
その言葉を見た途端、「ああ、そうか」と、ふっと楽になるような気がした。不幸ばかりを見るのではなく、現状の中での幸せを探す。
その瞬間、私の世界は変わった。真っ暗だった私の世界。ひとつの切り立った崖しか見えなかった私の世界は、ほんの一つの道でしかないのだと、その時、気付かされたのだ。
幸せか不幸かを決めるのは自分自身。ぬかるみを見続けるか、星空を見るか。それを決めるのは、私なのだ。
仕事、辞めよう。あまりにも自然に浮かんだその考えに、私は驚く。どうしてその発想が出てこなかったのか。今まで不可能だと思い込んでいたその発想が、今では私の行く道のひとつとして見えていた。
道は開ける。まさにその通りだ。その言葉の意味が、今ならわかる。道は常に私たちの前にいくつもあるのだ。ただ気付いていないだけ。この本は、その道に気が付く手助けをしてくれる。
心の問題の処方箋
私はニューヨークで誰よりも不幸だった。トラックを売る仕事をしていたが、その動かし方は知らないし知りたくもなかった。仕事が嫌だった。これが人生だというのか？ 待ち望んだ人生の冒険がこれだというのか？
私が夢見ていたのは、読書と執筆のための自由な時間だった。嫌いな仕事をやめたとしても、得るものは多くとも失うものはない。
若者の多くは新たな人生の始めで決断の瞬間に直面する。私も決断した――この決断で、完全に未来が変わった。その後の人生は幸せで、夢にまで見た願いもかなっている。
「嫌いな仕事を辞める！」これが私の決断だった。夜間の社会人講座で教える仕事を見つけて生計を立てよう。私は話し方を訓練することで、気の弱さや度胸のなさを克服し、人間関係に対する勇気と自信がついた。
最初は話し方だけを教えていたが、やがて、人を味方につける能力や、人に影響を与える能力も大切だとわかっていた。このような対人能力について良いテキストが見つけられなかったため、自分で書いてみた。
こうした年月が過ぎていくうち、さらにもうひとつ重大な問題があると実感した。それは「心の問題」だ。ほとんどの人が不安や心配、悩みなどの心の問題を抱えている！
不安や悩みを克服するためのテキストが必要だ。不安や悩みは、人間が直面する最も重大な問題のひとつだ。高校や大学に「不安に対する対処法」の授業があってもいいのに、そんなものは聞いたこともない。
私はこれまで地球に存在した誰よりも、「不安や悩みを克服する方法」を聞いてきたように思う。ヴァレリーは、「科学とは、成功した処方箋を集めたものだ」と述べた。まさにこの本のことである。心の問題の克服に成功した処方箋が集められている。
本書の目的は、古くから伝わる基本的な真理について、言い直し、解説し、簡潔にして価値を再確認することであり、それらの真理を実践するようあなたに促すことだ。
私たちの弱点は無知ではない。何もしないことである。あなたに必要なのは、「行動する方法」なのだ。
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