「変わらない」を変える方法『スイッチ!』チップ・ハース&ダン・ハース


このままだと、いけない。私は気付いてしまった。自分が今まさに勤めている企業。その企業そのものが、今にも沈みかけている泥船だということに。

 

私が勤めている会社は、社長の家族が経営している企業だ。小さな企業ではあるが、地域限定で認知度が高く、いくつか店舗も展開している老舗である。

 

しかし、老舗であるゆえか、古くからのやり方から未だに脱却できていない。入社してすぐの私の目から見てもそう見えた。

 

タイムカードすら導入されておらず、労働時間と給料の管理は社長に一任されている。どういうふうに管理されているのか、私たち従業員には知る由もない。

 

週休は一日だけ。しかも、繁忙期にはその一日すらもなくなってしまうことがある。人手が少なく、余裕がないせいか、少人数が慌ただしく駆け回っている職場に飛び交うのは怒鳴り声だけだった。

 

作業の多くは機械ではなく、人の手による手作業で行われている。人数が少ない分、ひとりひとりの作業はより複雑になり、多岐にわたっていた。そのため、休みを申請することもままならない。

 

聞けば、新しく入った人もすぐに辞めてしまうのだという。中には一日で辞めてしまった人もいるとのことだった。

 

正直に言えば、私も辞めてしまいたかった。まるで昭和の頃の企業にタイムスリップしたかのようだ。労働基準法なんてどこにもない。

 

これはまずい。どうにかしなければ。その本、『スイッチ!』という本を見つけたのは、そんな時だった。

 

最初は、ありきたりな自己啓発本かと思った。しかし、どうやらそれに留まらないようだと知ったのは、前書きを読んでからのことだ。

 

「変わらない」を変える。自分を変えるということに主軸を置いた自己啓発本はたくさんある。しかし、この本は、自分だけでなく、組織や社会を変える、という目線で見ていたのだ。

 

いわく、個人、組織、社会の変化には、ある共通点があるという。この本はその共通点を、比喩にしてわかりやすくしていた。

 

変化に必要なのは、三つ。感情と、理性と、環境である、と。その本の内容をまとめると、それら三つの要素があって初めて、変化することができる。

 

この本では、それらを、感情を象に、理性を象使いに、例えていた。そのおかげで、一見難しく見えるような話でも、格段にわかりやすい。

 

象の手綱は普段、上に跨る象使いが握っている。しかし、いざ象が暴走を始めると、象使いには止めることができない。かといって、象使いが強く制御しすぎると、象は何もできなくなる。

 

とはいえ、両者の進みたい方向が一致していても、道がなければ進めない。だから、道を作ってやる。それが環境を整える、ということ。

 

つまり、大切なのは、感情という膨大なエネルギーと、理性という現実を考慮した思考が、同じ方向に向かっていて、道のりが整っている、ということである。

 

では、そうするためにはどうすればいいか。まずは、感情を動かす。理性は感情を抑えきることはできないから、まずはそこから。

 

理性は、その次に説得する。そうすることで、感情が暴走せずに手綱が握られ、冷静な判断で進むことができるようになる。

 

なるほど、たしかに、頷けるものがあった。その説明はわかりやすいうえ、的を射ている。それこそが、変化に必要なことだったのだ。

 

読み終わり、「さあ!」というところで、ふと気づく。私が変えようとしているのは、いったい何だろうか。

 

すでに傾いていると感じたこの企業か。あるいは、度重なる事件に翻弄されて不安定になっている社会か。いや、そうじゃない。

 

環境と、象と、象使い。私はもう、それらの向かう先が見えているのではないか。ただ勇気が出ないだけで。私が本当に変えたかったもの。それは。

 

私は社長に仕事を辞めたいと伝えた。翌日のことである。

 

 

変わるために

 

本書の目的は、あなたの変化の手助けをすることだ。変化といっても、さまざまなレベルがある。個人的な変化。組織的な変化。社会的な変化。

 

通常、これらのテーマは別々に扱われている。これは残念なことだ。こういった変革活動には共通点があるからだ。

 

何かを変えるには、行動を変えなければならない。突き詰めれば、すべての変化は「人々の行動を変えることはできるか?」というたったひとつの問題に集約することができる。

 

本書では、成功する変化の共通パターンを追っていく。変化を成功させるには、三つのことを同時に行う必要がある。

 

脳ではつねにふたつのシステムが独立して働いている。一つ目は「感情」だ。二つ目は「理性」だ。ジョナサン・ハイトは、私たちの感情は「象」であり、理性は「象使い」だと述べている。

 

象にまたがって手綱をつかむ象使いは、一見するとリーダーに見える。しかし、象使いの制御は不安定だ。

 

重要なのは、変化を起こそうとしているとき、それを実行に移すのは象だということだ。そして、この象の強みとは対照的なのが、象使いの大きな弱みだ。

 

何かを変えたいなら、象と象使いの両方に訴えかけるべきだ。象使いの担当は計画や方針。象の担当はエネルギー。象と象使いが協力して動けば、たやすく変化を引き起こせる場合もあるのだ。

 

 

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